辺境伯不在のグランツ〜治安維持と新発明〜
皆さまご無沙汰しております。
また暫し、お付き合いくださいませ。
※名前の変更を行いました。
ギーヴ→ディルク ・ヴィンケルマン
彼も今後重要な役を担うと考えると姓を付けたくて。そのついでに名前も変えてしまいました。すみません。
ここはハインツにある政務所。シュバルツァー辺境伯領では領主の館ではなく、この政務所と呼ばれる屋敷で政務がとられていた。
中央には領主代理であるコーネリア。そして政務長官のジョルジュ他、内政官がこの場所に詰め、政務を行なっていた。
「人口の増加が著しいですね」
コーネリアがここ数ヶ月の人口の変動を表した表を眺めながら、そう呟く。
噂が噂を呼び、ハインツに移住したいという人間は増えていった。
何があるかはわからない、でもハインツに行くと今よりはいい暮らしができるらしい……
一縷の希望を持ち、全財産かけて辺境伯領に向かう民衆を拒むことはできなかった。多くの冒険者を雇い、途中の護衛を陰ながら助ける。特にグランツに入ればまだまだ魔獣が多い地。各地にアーリア人討伐から帰還した白軍を派遣して彼らの安全の確保をするようにしていた。
多くの人間の中には当然間者が入り込む。ハインツの発展は公にはできないため、確実にそれを排除しなければならない。
龍の目達は確実に彼らを見つけ出し、そして手を打っていった。時には懐柔し、逆にこちらの味方に引き入れ、また時には確実に消していった。
仮に龍の目から逃れても、街道から外れれば魔獣が闊歩する魔境の大地。生きて帰れることはなかった。
こうして、確実に移民を受け入れる事に成功したのだ。
「他の地の監視もあり、最近は移民の数もだいぶ落ち着いてはきましたが……それでも急激な人口増加に伴う弊害が生まれてきているように思えます」
移住者が増えたため、各地の領主達も移住しないよう手を打っているらしい。そのため、だいぶ移民の数は落ち着いてきたが……それでも未だ多くの民が辺境伯領を目指しているらしい。
ジョルジュは手元の資料に目を通す。彼が見ていたのは治安維持隊が提出した月の検挙数と、人口増加に伴う必要経費がまとめられた表である。
人が増えるという事はそれだけトラブルが生まれるという事。最近ではハインツ内だけでなく、ルブランや郊外の村々等、グランツ全土でトラブルが生まれているという声があがっている。
土地の利用方法や住居。また、各地から来たため多少の文化の違い……
「とりあえず、治安維持隊を増設して治安の維持に集中しましょう。また、最近では不正な商いをしようとする者達もいるとの事です。それらに対しても厳粛に対応していくつもりです」
「やはり治安と市場が正常化しませんと経済は伸び悩みますからねぇ」
ジョルジュの言葉に答えたのは商業長官のトビアスだ。
「もうすぐ主が北の大地より帰ってきます。その際、兵士達から募って治安維持隊に編入させましょう。歴戦の猛者達ですからすぐに即戦力として活躍すると思います」
そう言うとふと、思い出したようにトビアスに問いかける。
「そういえば、マリウスからの情報で役人、そして商いをしている者達の中にも、随分あくどい事をしている者達がいたとか?」
「各、村々に派遣されている役人から数名、検挙されたものがいるようです」
ジョルジュの横に座る政務副長官ラムレスがそれに答える。
「商人の中にも、残念なことに……相手が学のない亜人と侮って法外な値段をふっかけたり、高い利息を要求する金貸しもいるそうです……税を納めず逃げようとするものいたとか。どうやらいずれも帝都からの移民のようですが」
向かいに座る商業長官のトビアスもそう言うと深いため息をついた。
「まぁ、マリウス殿が役人や商家から提出される資料を読んで、確実に洗い出してくれるので、今のところ大きな被害はなさそうですが」
「マリウスが来てくれたのは幸いでした。彼が監察官をやってくれる間は役人も、そして市場も正常に動く事でしょう」
ジョルジュはそう言って笑う。
マリウスは以前帝都の貴族から嫌われて、謀略でグランツに派遣された役人である。彼はそのままこの地に魅力を感じ、帝都の役職全てを捨てて、アレスに忠誠を誓った。
現在、監察官として役人や商人達の不正を正すべく、八面六臂の活躍をしている。現在の辺境伯領で必要不可欠な人材だ。
「不正を行い、牢に入っている役人や商人はいかがしますか?」
エランの問いにジョルジュは冷徹は声で答えた。
「ノーラのところに送り、鉱山で強制労働をさせましょう。ノーラには最も辛いところに送れと指示を出すつもりです。この地で不正をすればこれだけ辛い目にあうと言うことを知ってもらうための見せしめとなってもらいましょう。コーネリア様、よろしいでしょうか」
「……みなさんがそれで良いなら構いません……が、せめて期限は決めてあげてください。反省し、そのような事を起こさないなら許されるように……」
コーネリアの言葉にジョルジュは頭を下げて答えた。
「承知しました。それでは数ヶ月〜数年の労役という事にします。後は仕事の様子を見て決める事としましょう」
その言葉を聞き、コーネリアはホッとした表情を見せた。そして思い出したように続ける。
「そういえば……奴隷の方々や孤児達は……」
「そちらも継続して続けております。これは主の強い希望ですからな。これに関しては多少の人口変動が起きようとも引き続き続けるつもりです」
アレスは大公領の頃から帝都他、各地の大きな街で奴隷を買う。しかもかなりの数をだ。
彼が注意しているのは奴隷になった経緯。
犯罪や賭け事、薬物などで身を滅ぼした者には一切目もくれない。
彼が買うのは貧困や誘拐などで仕方なく奴隷になった者たちである。
「僕の腕は彼らを全員助けることができるほど長くはない……でもその中にたまたま入った人だけでも可能な限り救うことはできると思う」
それが彼の信念なのだ。
「偽善者……だと思う。後世、自己満足とも言われるかもしれない。でも……それでも誰かを救えるなら僕はやりたい」
アレスはこうして沢山購入した奴隷達を辺境伯領に送る。名目は過酷な未開の地への労働力確保だ。
アレスは彼らをすぐに解放しようとはしない。それでは生きていけないことをよく知っている。
「自由とは自分で掴み取る者だ。一年しっかり働いて自分を買い戻す。そして自由を摑み取れ」
彼らにしっかりとした人権は与えつつ、一年間の労働を課し、その賃金で自分自身を買い戻す。そして自尊感情と労働意欲、何より生きる価値を植え付けさせるのである。
アレス奴隷とともに孤児も集めている。アルカディア各地では戦争孤児が非常に多い。主に教会などがその引き受けをするが……食いぶちの問題から奴隷商に売るものも多数いる。
彼は、そんな余った孤児達を積極的に探し出し迎え入れている。そしてこれに関してはバルザックを始め裏社会の人間に協力してもらっているのだ。
「未来のシュバルツァー家を背負う人物がいるかもしれないだろう?」
そう言ってアレスは笑う。そして、現在グランツの施設では多くの子供達が大陸中から連れてこられ、そして健全に育てられているのだ。
「奴隷として連れてこられた者たちへの仕事も家もまだ沢山あります。引き続き行なっていきたいと思います」
そう答えた後、ジョルジュは資料をめくった。
「では……次の議題に入りましょう。」
話し合いはまだまだ続く……
◆
その日の政務会議はその後数刻続いた。最後に提案されたのはこの日、シュバルツァー辺境伯領にとって最も重要になる内容……すなわち、工業長官フランチェスカからの報告であった。
「試作で作った『魔導列車』がやっとこさ完成しました〜。後はハインツからルブランまでの線路が完成すれば試運転ができると思います〜」
その言葉に多くの内政官から歓声があがる。
「本当に実現したのか!?」
「こんな鉄の箱が動くのは事実なのか?」
「大量の物資や人員を一気に……そして圧倒的速さで動かすことができたら……これはもはや時代を変換させるほどの大革命だぞ!?」
様々な質問が飛び交う中、ジョルジュはそれらをやめさせ、そしてフランチェスカに告げる。
「安全面では問題なさそうですか?」
「はい〜。魔力も安定してるので、爆発等の危険はないと思われます〜」
魔導列車の構想はアレスがフランを招いた時より始められていた。
アレスにとって魔導列車の構想は以前よりあった。ギルバートの知識などを併用し、その具体案まで書面に書いていたのだ。しかし、その原動力となる魔石が大量に必要になることから、それは一旦保留とされていた。
しかし、龍脈の発見から魔石が大量に手に入る事を知ったため、再びその計画が見直されることとなる。
折しもフランチェスカという、物作りの天才が配下に加わったことも幸いし、シオンやジョルジュと図った上で、辺境伯領の工業の中でも最重要課題として開発を進めていたのだ。
「とりあえず次は線路を完成させなければいけませんね。後どれくらいです完成できる見込みですか?」
「シャドウがスケルトンの数を増やしてくれたので……おそらく3ヶ月後には行けると思います〜」
「それぐらいだと……主も帰ってきていますね。引き続き工事を行ってください」
「承知です〜」
こうして少しずつハインツは発展を遂げていく。
魔導列車はこの後、シュバルツァー辺境伯領だけでなく、大陸に大きな産業革命を起こす事になるのだが……それはまた別のお話。
再開致しました。またよろしくお願いします。
活動報告にも書きましたが……とりあえず、5章までの繋ぎの章……間章を投稿いたします。
いつものように5日おきの投稿になります。間章は12月いっぱい続きます。
さてここからが重要な話……
活動報告にも書きましたが、現在5章執筆中ですが、現在筆が進んでおりません……ちょっと仕事が忙しすぎてそれどころではなくなってしまいました。
5章は大きな戦があり、丁寧に書きたいと考えておりますので、12月が終わりましたらまたお休みをいただかかもしれません。
状況次第ですが……ご理解のほどよろしくお願いします。
外伝の方はストックがあるので……繋ぎでそちらを投稿するかもしれませんが……
また、その際はご連絡させていただきます。
長々とあとがきを書き、すみません。今後ともどうぞよろしくお願いします。




