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北伐 その11 シュウ・シラヌイ

全軍が見渡せる小高い丘の上に、バトゥはその男と2人でいた。


「本当に行くのか?」


「あぁ……申し訳ないが、某にとってはそれが命より大切な事だからな」


バトゥと横並びにいる男……シュウはそう言って笑った。


「正直言うと……今お前がここで抜けてしまうのは俺にとっては痛い……お前の武勇と知略は我らにとってなくてはならないものだったからな」


バトゥのラーン就任後、今まで姿が見えなかったシュウは突然彼の元を訪れた。そして、自分の決意を話したのだ。


自分は風の部族を離れると言う事を。


「某にとって……当主の(ひぃ)様を匿える安住の地を探す事が、旅の第一の目的だった……」


そう言ってシュウは遠く東方の方に視線を向けた。


「まさか……この遠く離れた地に『叢雲』の人間を感じ取る事ができるとは思ってなかった。これも何かの縁なのだろう。某は『彼』とともに行こうと思う」


「『彼』……兄貴の事か?」


「あぁ、そうだ。そしてこれに関しては使命とは別に己が希望でもある。四代目に仕えることは……不知火家が祖、雷覇の悲願でもあったゆえにそれを某が果たしたい……そう思ったのだ」


そう言うとシュウはバトゥの前に右手を差し出した。そして口を開く。


「世話になった。ありがとう」


と。


バトゥはその右手をじっと見つめて思う。


この男と出会わなければ、おそらく自分は今頃どこかの荒野で屍を晒していただろうと。


シュウはバトゥにとって今やなくてはならない将になっている。彼ほどの武勇の持ち主は他になく、これから草原を制覇する上でもその穴は非常に大きい。


だが。


「兄貴に嫉妬するな……お前みたいな奴を従わせる事ができることを」


バトゥはシュウの差し出された右手を見ながらそう呟く。彼にとってシュウは客将である。家臣としてではなく、友人としてバトゥの元にいたにすぎないのだ。だからこそ。


バトゥにはシュウを止める権利はない。そして思う。家臣でないのに。そして騎遊民でもないのに、ここまで命をかけて助けてくれた恩義に報いるべきであると。


そしてバトゥはニコリと笑みを見せると、シュウの右手を力強く握った。


「お前とお前の一族に幸がある事を祈ってるよ、シュウ」


「バトゥ……」


「今までありがとう。そして……兄貴をよろしく頼む」


そう言ってバトゥは握っていた手に力を込めた。シュウもまた爽やかな笑みを見せ、同じように右手に力を込める。


そこに思いをぶつけるかの様に。


いつまでも手を離さない2人。そんな2人を、草原に沈みゆく赤い夕日が……その別離とそれぞれの門出を祝って明るく照らしているのであった。




「正直びっくりしたよ……あれから姿が見えなかったからさ。バトゥも相当探していたよ」


アレスはそう言って、目の前で平伏しているシュウに笑いかけた。


「はっ……口寄せにて鳥を操り、ハ洲の者たちに連絡を取っていたので……」


そしてシュウは顔を上げる。その目からは並々ならぬ決意を見る事ができる。


全てを見届け、己が領地に帰ろうとするアレス達の元に、突然シュウが現れたのである。そして大事な話があるため、時間が欲しいと言ってきたのだった。


「……四代目にお願いがあります」


シュウはそう口にすると、顔を上げ。アレスの瞳を見た。


「どうか……某と、そして八洲にいる我ら『叢雲』の同胞を庇護下に置いてくださるよう、お願いにあがりました」


「他の者たちはそれに賛同してるのかい?」


「皆、四代目ご本人と伝えたら、喜んで馳せ参じると申しておりました」


「いや……本人ではないんだけどね……」


そう言って、渋い顔をするアレス。


「当主殿は?」


「桜様も、それならば喜んで参りますと申し上げております」


「道は険しいと思うけど?」


「女人なれど、叢雲家の当主です。問題ございません」


アレスはそれを聞くと小さく溜息をつき、そして再び疑問を口にした。


「バトゥはいいのかい?まだ彼は君の力を欲しているはずだけど?」


「彼にはちゃんと伝えました。『兄貴によろしく』……とのことです」


「やれやれ。随分と色々勝手に進めてくれているわけだ」


そう言って今度は苦笑いを見せた。だが、すぐに姿勢を整え、シュウの正面に向き直る。


シュウもまた背筋をピンと伸ばし、その言葉を待った。


「僕はまだこの大陸では何もなしえていない……シュウを始め叢雲の者たちにも迷惑がかかるかもしれない。それでもいいかい?」


シュウはその言葉を聞くと横に置いていた刀を両手で持ち、そしてアレスに捧げる形をとった。


「このシュウ・シラヌイ。四代目に叢雲家当主である桜様と同等の忠誠を誓います」


と。



こうしてこの日より、異国の戦士ことシュウ・シラヌイはアレスの元に身を寄せることになる。そして彼は歴史書にこう記される事となるのだ。


『天勇将』シュウ・シラヌイ


と。


彼はその持ち前の武勇にさらに磨きをかけ、シグルドやダリウス達と並び、アレスの右腕たる『六天将』に数えられるようになるのである。


アレスティアの切り込み隊長として、十文字槍を奮って戦場を駆け回る姿は、一つの美しさを感じさせるものであったという。




その数年後、彼を頼って集まった八洲の戦士達、通称『叢雲軍』はアレスティアの中でも精鋭部隊の一つとして大陸中に知られる事となるのである。


さてさて、今回は四人目の天将の話になりました。


まぁ予想されてた方も多いとは思いますが……笑


これからもシュウの活躍をお楽しみください。




そして……次回でいよいよ第4章も終わりとなります。2ヶ月にわたりお付き合いありがとうございました。第4章最終話もよろしくお願いします!!

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