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英雄の中の英雄の物語 〜アレスティア建国記〜  作者: 勘八
序章 〜アレス・シュバルツァーという男〜
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宿老ローウェン 昔語り

儂はローウェン・ベルガー。クリフォード家の騎士として代々シュバルツァー家に仕えている騎士だ。


先代ロベルト様から仕えて数十年。今は現当主エドガー様の命により、北方の地の守護を任されている。


シュバルツァー領北方はヴォルフガルド王国と面している。それゆえ、この地は神聖アルカディア帝国においても重要な場所であることが分かる。

その地を任される責任とやり甲斐を感じつつ、充実した日々を過ごしている。



あれは……今から10年ほど前の事か。嵐の晩のことじゃった。

当時、北方のヴォルフガルドが大進行を決行して、北方は常に緊張状態であった。幸い、わが領軍の活躍と帝都からの援軍のおかげで退けたがそれでも次はいつ来るか……と戦々恐々していたわ。

そして儂は……その時も例のごとく北方の守護を勤めていると、早馬で急遽ロマリアに呼び出された。


急な召還命令……何か領都に異変でも起きたのか?それとも帝都から無理難題でも押し付けられたのか……何れにしても何かあるには違いと判断した。

急ぎ、ロマリアに駆けつけエドガー様の屋敷に向かう。部屋に入るとそこにはエドガー様と奥様、そして白い白髪を刈り込み、整った髭を蓄えた立派な体躯の老騎士。私の幼馴染にして領都の守護を勤めているアルベルトの姿も見られた。


「ほぅ、アルベルト、其方も呼ばれたか。では儂は必要ないかの?」


儂は重い雰囲気が苦手でな。それを吹き飛ばすためにすこし戯言を言ってみた。しかしのぅ。いつものアルベルトなら儂の軽口に対して反応するものの、今回は真剣な面持ちを崩さずこちらを睨むばかり。その様子から今回の件はただならぬ事であると確信したわい。奴がこれほど心ここに在らずという姿を儂はあまり見た時がなかったからだ。


そして予想通り、そこでエドガー様が語った話は……シュバルツァー家にとって家の存亡に関わる大切な話となった。


その日、儂とアルベルトはそこで共に異なる命を受ける。

アルベルトが託された命は……いや、これはそのうち分かることであるから今話すのはやめよう。奴の命は、一歩間違えれば首が飛ぶほどの事じゃしな。

そして私が受けた命は……病明けの公子、アレス様の傅役になるという事。


エドガー様より告げられた事実はアレス様が3人の英霊の記憶を持っているということじゃった。それゆえ多くの実践経験を積ませて欲しい、本人もそれを望んでいるとのことじゃった。


アレス様は当時8歳。12の年になれば皇立学院に留学する予定であるという。英霊の記憶というのが今ひとつ解らなかったが、年齢的にはまだまだ雛鳥のはず。

儂としては基礎基本をすっ飛ばし、実戦を行ってほしいというエドガー様の姿勢に疑問をもったものよ。だってよく考えても見てほしい。たかだか8歳の子供に実戦なぞ……ちゃんちゃらおかしいではないか。エドガー様は非常に英邁なお方。どういう判断なのか……訝しがったものよ。


しかし、当主の命は絶対である。それゆえ皇立学院に進むまでの四年間。儂の手元で様々な体験をさせてやろうと思っていた。そう、その時はあくまでも「子供の体験学習」ぐらいにしか考えてなかった。


しかし初めて出会い、そして小手調べに軽く剣の稽古でも……と剣を合わせた瞬間よりその考えは誤りであったことを知る。


(な、なんじゃ……?このプレッシャーは……これが8歳の子供から感じることか……??)

儂とて騎士として数十年。一応一端にも万の兵を率いる立場であり、また数多くの修羅場も経験している。多くの猛者とも戦ってきた。しかし、それらとは次元が違いすぎるのだ。


(か、身体が動かん……!)


結局、遊ばれたのは儂の方じゃった。いや、アレス様は非常に聡い方でな。周りに見学者がいるのを知っていて、儂が恥をかかないよう、他者には分からぬように負けてくださったわ。そんな芸当、実力差がないとできぬこと。儂の完敗であった。


さて、それから儂はアレス様に対して方針を変えることとした。いや、変えざるをえなかった。8歳の子供として見るのではなく、極力、騎士の一人として実戦に重きを置いて経験させていったのだ。

初めは訝しがってた兵士たちも……自然と納得し、従い始めたのにも驚いた。人を惹きつけるカリスマ……まさに生れながらの大将であったよ。


アレス様は非常に優秀な……いや、すでに将としても完成されているお方であった。圧倒的な武勇、的確な指示、そして敵を嘲笑うかのような知略……


そのため、儂は実戦が終わった後は必ず、それがどのようなものなのか確認したものよ。自らの考えた事を「人に解りやすく伝えること」ほど、よい勉強はないからのぅ……もちろん、儂が純粋に知りたいということもあったがの。


そう、儂はそれだけでなく、様々なこの土地ならではの経験をさせた。アレス様に兵と同じ環境を知ってもらうため、一兵卒とともに生活させたり、軍略だけでなく政務も体験させたり、また、この北方の地特有の大雪の時には兵や民衆とともに雪かきもさせるなど、多くの事を学ばせた。

平民達の暮らしを知るために、とある騎士や兵士の家に宿泊させたこともあった。


本当に刺激的な毎日だったと思っている。アレス様自身も楽しみながら行なっていたよ。大公家公子なのに、平民達の食べる固い黒パンを喜んで齧っておったわ。


さて、それだけ聞けばアレス様は真に英邁なお方だと思うであろうが……あのお方とて人間。そしてまだまだ少年なのだ。


余暇の時、共に虫捕りを興じたり、町の屋台で買い食いしたり……そうそう、アレス様は儂と同じく屋台での食事を大層気に入ってな。よく、一緒に食べにいったものよ。儂の家にもよく来てな。妻のシチューをいたく気に入り、食べていたわい。孫達の面倒もよく見てくださったわ。


また、これは大きな声では言えぬがな。野営の際、夜眠れないといっしょに寝た事もあったのう。意外とアレス様も可愛いところがあるものよ。


アレス様は儂にとって孫も同然。もはや公子として以上に……「家族の一員」として、これからも見守っていきたいと思っておる……



北の守護者、シュバルツァー家。それが誇る名将といえば、すぐにローウェン、アルベルトの二人の名前があげられる。

大剣の遣い手として名を馳せたローウェン、二刀の名人として世に知られていたアルベルト。共に一騎当千の戦士であり、指揮官としても非常に稀有な才能を持ち、多大な功績をあげていた。


二人をして「シュバルツァーの双璧」と呼ばれ、北方のヴォルフガルド帝国を始め多くの者たちから恐れられていた。しかし彼らの普段の姿を知るものは……どちらも田舎の好々爺にしか見えなかったということである。

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