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北伐その3 〜妖刀ムラサメ〜

アレスの取り出した刀を見て、シュウは驚いた表情を見せた。


「その形状……刀だと?」


アレスはその感触を確かめ、そして刀身を眺めた後、溜息をつきながらシュウの方に向き直った。


「やれやれ。もっとも厄介な奴が出てきちゃったね。まぁ君ならきっと大丈夫だと思うけど」


「何を言ってるのだ?」


「ん、こっちのこと。さぁ、もう一度勝負をしよう。ただここからは……」


そしてアレスはニヤリと笑った。


「一味違うけどね」




アレスは猛然とシュウに襲いかかる。鋭い斬撃がシュウを襲った。


「くっ!先ほどより速い!?」


しかしシュウもさるもの、それを紙一重の所で躱す。だが突然の事で対応できずシュウの肩からうっすらと血が滲み始めた。


その瞬間だった。


「むうぅ!!!??」


そう言ってシュウが膝を地面に着いたのは。


それと同時にシュウの白銀に輝いていた魔闘術がみるみる萎んでいく。


「貴様……何をした?」


荒い息をしながらシュウはアレスを睨み、そう呟く。


シュウの問いかけに対する返答はせず、アレスは口を開く。


「この刀の名は『ムラサメ』という」


「ムラサメ……村雨とな!?」


アレスの言葉にシュウは絶句する。


「まさか……あの……」


「そう。君ならきっと分かると思うが……この刀の特性は『魂喰(たまくい)』。傷つけたものの魂を喰らう……凶悪な武器だ」


アレスを見れば先ほどまでとはうって変わり、元気な姿で立っている。先ほど受けていた数多のかすり傷もいつのまにかなくなっていた。


「君の場合は魔力と闘気で体が覆われているからね。代わりにそれを吸収させてもらった」


なんて凶悪な武器だろう、とアレス自身もそう思う。僅かな傷だけでも生命エネルギーを奪い、己がものにしてしまうのだ。相手からすればたまったものではない。


「勿論、これにも弱点はある。一定の時間まで、誰かを傷つけなかった場合……持ち主の生命エネルギーを奪っていくという……ね」


そう言ってアレスは笑う。


「だが、今吸収した事でしばらくはないだろう……そしてこれから君に見せる技で、この戦いを終わらせるからね」


そういうとアレスはムラサメを腰に差すような形をとった。シュウはその姿を見て、荒い息をつきながら訝しげな表情を見せた。


「何をする気だ?」


「この技は刀でないとできないからね……ただ一応峰で撃たせてもらうけど……それでも強烈な技だ。しっかり耐えてくれよ」


そう言ったアレスのムラサメに強大なまでの魔力と闘気が集まっていく。その姿は……先ほどのシュウと全く同じだ。


「ま、まさかっ!?」


「叢雲流奥義 『龍の咆哮』!!」


その瞬間、先ほどのシュウと同様、今度はアレスの刀から強大な龍が現れた。


大きく顎門を開いた龍がシュウに襲いかかる。


「ぐあぁぁあああ!!」


そしてシュウを通り抜け、龍はそのまま上空へ登りゆっくりと消えていった。


その場にいた全兵士達は龍の行き先を眺め、そして再び戦場に目を向けて驚愕する。龍が通り過ぎた跡は見事にそれに沿って地面がえぐれており、その一番奥にシュウが倒れていたからだ。


龍が消えると同時にアレスの手にあった刀は消え去る。そしてアレスはゆっくりと腰を地面に下ろして一息ついた。


「流石にしんどい相手だったな」


その場にいる誰もがその言葉を聞いて理解した。アレスが勝利した事を。


「馬鹿な……シュウが……負けた……」


バトゥはまさかシュウが負けるとは思ってなかったので、しばらくの間茫然自失になり……そして自分が置かれている状況に気づく。


「いかん。このままだと総崩れ、殲滅となる!!」


慌ててバトゥはその場を離れようとする。全軍に指示を出し、急いで後退しなければ。自分達が全滅すれば捕虜となっている女子供はどうなることか。


彼が、急ぎ退却の銅鑼を鳴らそうとした、まさにその瞬間だった。


「待たれよ!!蛮族の長っ!!」


上空から大きな声がしたのは。


そちらに目を向けて……再び蛮族達は絶句した。そこには伝説の神獣、古代龍(エンシェントドラゴン)がいたからだ。


バトゥは自軍の様子を見る。

シュウが人知を超えた戦いの果てに敗れ、そして動揺している中で神獣の登場。

もはや心の折れているものも多数いるのが見受けられた。


「次は龍か……次から次へと手を打ってくる。もはやこれまでだな」


バトゥは自嘲気味に笑った。


「だが、無様に死ぬわけにはいかん。最期の意地を見せてくれよう」


そう言って自分の最期を察し、後退の銅鑼ではなく、突撃の銅鑼に変え、全軍に指示を出そうとしたその時。


「待つのだ!バトゥ!!」


聞きなれた声が上空から聞こえたのは。


「我が風の部族の勇者達よ。戦うのを止めよ!!我が声を聞くのだ!!」


バトゥは、そして蛮族達は声の方を見て絶句する。


そこに見えたのは、黒衣の騎士とともに、己が族長バハールの姿が見えたからだった。




「皆……苦労をかけたな……すまん」


バハールはそう声をかけながら古代龍(エンシェントドラゴン)から降りる。

バトゥ達は急いで彼の元に駆け寄った。そして絶句する。


「父上……片足が……」


「あぁ……奴らに斬られたよ」


そう言って、バハールは笑った。


「儂が逃げ出して、風の部族を率いるのが怖かったのだろう。だからこうして……な」


「なんと……痛々しい……」


バトゥ配下の勇将バートルはそう言うと跪きながらその足に目を向けている。もう一人の猛将ムカッサに至っては涙を流すだけだ。


「だが、こうして生きてお前達に会えた。それは幸運だと思おう」


「しかしなぜ、父上がグランツ軍とともにいるのでしょう?それがとても腑に落ちません」


バトゥは最も疑問に思っている事を聞いた。おそらくこの場にいる蛮族軍の全てがそう思っているだろう。


「あぁ、それはな……」


そう言ってバハールはチラリとシグルドの方を見た。


「彼らに助けられたのだよ。儂も……そして一族の者達もな」



バハールは語る。その時の顛末を。


「数日前の事だがな。グランツ軍が奇襲をかけたのだよ。風の部族が囚われているところにな」


月もない夜の出来事。古代龍を筆頭に多くの竜種が襲いかかったのだ。


「アムガ配下の者達は皆混乱して逃げ去っていったよ。もちろん、逃げ出した先にグランツ兵がいたがな」


竜種の奇襲、ましてや相当数の数がいそうな気配だ。一頭の竜種と対峙するだけでも大変なのに、それが複数いれば勝てるわけがない。


そう判断した守備兵達は風の部族を置いて逃げ去ったのであった。


そして…逃げ去った者達は、丘の下に隠れていた彼らの騎兵に殲滅されたそうだ。


「では……皆は……」


「あぁ、無事だ」


「妻のクランも……」


「あと数週間遅れていたらアムガがやってくる予定だった。そうなっていたら奴の性奴隷だったと思うが……幸い現在まで指一本触れられてない。無事だ」


その言葉を聞き、バトゥは思わず崩れ落ちて涙を流す。それにつられて風の部族の者達が声を上げて泣き出した。


バハールはそらの様子を眺めながら、満足げに笑い……そしてアレスの方を見る。


「お主がこのグランツの長か?」


「あぁ、そうだ」


バハールはその声を聞き、静かに頭を下げた。バトゥを始め多くの者が、驚愕の表情をする。


風の部族は元々誇り高い。彼らが……特に彼らの長が頭を下げる事など、ないからである。


「一族を救ってくれた礼はどのようにすればよい?風の部族は受けた恩義は終生忘れぬ」


その言葉を聞き、アレスはニコリと微笑み、そして一言だけ言った。


「友好を」


その言葉にバハールは顔を上げる。てっきり降伏する事を宣告されると思っていたからだ。


「別に配下になってほしいとか、そのような事は思わない。共に友好関係を築き、共に栄えることができればそれで良い」


その言葉を聞き、バハールは笑った。


「欲のない人だ……だがそれで良い……」


そう言うとバハールはバトゥの方を見て、そしてアレスに言った。


「グランツの長よ。儂はこの足であり族長はもう務められぬ。代わりに次期族長のバトゥが答えると思う。だが少し時間が欲しい……二、三日考える時間を貰えないだろうか?」


その言葉を聞いてアレスはニコリと微笑みそして頷く。


こうしてトロイア砦の攻防戦は幕を閉じるのであった。


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