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トロイアの砦

「俺はしばらくこの地に残り、アーリア人の軍団を作ろうと思う」


アーリア人を平定し、盟約を結んだその日。ダリウスはアレスにそう言った。


「主の白軍を見て、あれほどの強き兵を持ちたいと思ったのさ」


アーリア人は確かに個としては強い。だが、軍として考えれば攻略の仕様は幾らでもある。

だが……彼らに最新の戦術を教えたらどうだろう。あの個としての力が集団としてまとまったら?


ダリウスはそれをやろうと言うのだ。

確かにそれは彼が適任だ。長の妹を娶り、また圧倒的な武勇をもつ彼なら。おそらくアーリア人達も従うであろう。

また、盟約を結んだとて、何を起こすか分からない相手。心服するまでは誰かをおきたい……とアレスはずっと思っていた。


ダリウスは適任だ。だが一つ問題がある。


それはまだ彼の武勇が必要だと言うこと。これが終われば今度は北の大地の蛮族達を相手にしなければいけないのだ。


「なぁに、主が北の蛮族を平定した頃には戻るつもりだ。俺がいなくてもシグルドやシオンがいれば何とかなるだろ?」


「……何というか、本当に君は自由な人間だよね……」


そう言ってため息をつくアレス。こうなったら彼はおそらく動かないだろう。

結局アレスは一年間の期限付きでダリウスをこの地に置くことを認めたのであった。




ダリウスと別れ、また一度白軍を解散させたアレスは大至急、単騎で北の地に向かった。目指すは北の拠点トロイアの砦である。

ここは北の要所としてアレスが辺境伯として赴任した後、北を荒らし回っていた蛮族対策で、急いで作らせた砦である。

この砦はグランツ、および辺境伯領の北の防衛拠点であり、そして蛮族に対する威嚇を行う上での攻撃拠点でもあるのだ。


だが彼が治めて以降、未だ大きな戦は起こっておらず。砦……ではあったが、その周りでは兵達を相手にした商人達が集まり、小規模な街ほどの大きさになっていると報告では聞いていた。


「さて……シグルドとシオンがいれば、そう大変なことになってるとは思えないけど……さて、どうしたものかな?」


途中行く先で戦の後と見られる土地を見てとれた。また、北の村々の多くは焼き払われているところが多い。死者がいなかったので略奪の跡とは思えない。だが、それではなぜ焼き払う必要があったのだろう?


「シオンがそうヘマをするとは思えない……どのような策なのか詳しく聞かないとな……」


そう一人呟くと、彼の愛騎が愚痴をこぼす。


〈とりあえず、我も休みが欲しいのだが……〉


「何言ってんだい、麒麟がそんな事言うなんて聞いたことがないよ。さぁ、砦まであと少し。もうひと頑張りしてもらおう……」


〈……主人は本当にこき使う男だ……まぁ良い。一気に行くぞ〉


こうしてアレスは日が沈む前にトロイアの砦に到着をした。そしてその砦の様子を直接確認し、大いに驚くのであった。


「随分と大きくなったものだね……この砦も」


この砦を要所とみなし、兵を置いたのが一年ほど前。各軍団が持ち回り、交代制で任務についていた。それぞれが補修、修繕、改築を行い、砦の規模を大きくしていたと聞いていたが……


「シオンめ。報告以上にいじってたな。これじゃあ要塞だよ」


そして驚くべきは、その砦の周りに生まれた街並みである。流石にハインツほど整えられた……とは言い難いが、それでも小規模の街ほどの家々と店などが並んでいる。

なぜこれだけ人が集まったのか。それは砦にいる多くの兵士のためである。兵士が多数いればそれ相手の商いができる。そのため多くの商人や露天商、はたまた娼婦などが集まった。

また、砦に守られているため、北の地では最も安全と言える。それ故に、周りの村々の者達も多数移住をしてきたため、これほど大きな街を抱えることとなったのである。


そんな様子を眺めながらアレスは砦に入るのであった。




アレスは到着早々、一同が会する会議室に向かった。


「どうも、お待ちしておりました。主」


最初に迎え入れてくれたのはシオンである。


「あぁ、ありがとう。皆もお疲れ様」


左右にはロランを始め、この地で守護の任に就いている武官が並ぶ。

そして視線を最奥に移すと……そこには長年の腹心が頭を下げて立っていた。


「シグルドもお疲れ様」


「アレス様が来るのを一日千秋の思いで待っておりました」


そう言うシグルドは爽やかな笑顔を見せた。


「どうぞ、奥の席へ」


「ありがとう」


アレスが席に座るとそれに倣って他の者たちも席に着く。


「さて。状況を教えてもらおうか?焼かれた村々の事も含めてね」


その言葉にシオンが立ち上がり、それと同時に北方の地図を広げた。


「あれから二度ばかり、小競り合いがありました」


そう言うとシオンは最初に地図上のトロイアの砦北方にある草原に軍扇を向けた。


「敵は騎兵2万ほど。こちらもシグルドを大将とした第2軍2万を出して様子を伺いました」


シオンはそう言うと、一呼吸置いて続きを話す。


「向こうも恐らく様子見程度だったのでしょう。多少ぶつかった後、すぐさま引きました」


そう言うとシオンは軍扇を北東の方にずらす。


「二度目の戦はトロイアから北東の地にて。今度は先の戦より多い3万ほどの人数で攻め込んできました」


そう言うと軍扇は村があった場所を示す。


「彼らとの戦で難しいのは、動きが予測できないところです。住民は事前に避難させておいたので無事でしたが……北にあった村々は全て焼かれた様子です。主が途中で目にしたのもこれらの跡地でしょう」


「あぁ……跡形もなく……と言う感じだったよ」


「憂さ晴らし……と言う意味合いもあったかもしれません。略奪することもできなかったわけですから」


そしてシオンはトロイア付近に軍扇を進める。


「そして彼らはトロイア砦に急襲してきました」


「!?いきなりここを襲ってきたのかい?」


「はい。奴らもさるもの。この地が拠点であることを見抜いた様子。また、ここは略奪できそうな街を抱えておりましたから」


そう言うとシオンはニヤリと笑う。


「こちらも今回は第2軍、そして第3軍両軍を出しました。そして……竜騎士団も」


「竜騎士団を戦に使ったか……で、どうだったんだい?」


「竜騎士団の上空からの攻撃で動揺はあったものの、その後まとめ直して部隊を分散させ攻撃を仕掛けてきました」


シオンの報告にアレスは驚く。アレスの予想では混乱が起こり、統率が取れなくなると思ったからだ。


分散した事により、数の利はこちらにあり。そのため各個撃破を行う予定でしたが……それを察知したのか多少の小競り合いの後、風のように立ち去りました……見事というべきでしょう」


珍しくシオンが褒める。彼の言葉が終わった後、口を開いたのはシグルドだ。


「蛮族が見事……というよりは軍を率いていた将が見事だった……というべきでしょう」


「へぇ。シグルドやシオンが褒めるような将が蛮族にいたのかい?」


「はい。二人ほど」


シグルドは言葉を続ける。


「一人は蛮族の長の一人でしょう。精悍な面構えと蛮族をまとめ上げる抜群の統率力を持ち合わせておりました。彼がこの軍の総大将であったと思います」


シグルドは一呼吸置いた後、熱を込めて次の言葉を続ける。


「ですが……それ以上に厄介だったのは彼とともにいた異国風の将です」


「異国風の将??」


「はい。アレス様が以前教えてくださった……極東の戦士の出で立ちをしておりました」


「…………」


その言葉を聞いてアレスは興味をそそられたようにシグルドを眺めた。続きの話を求めている。


「小賢しい動きをする相手、頭を潰せば終わると思い……蛮族の長を狙いましたが、その時横合いから突撃してきたのがその男でした」


そう言うとシグルドはその戦を思い出すかのように遠い目をした。


「明らかな武威を持ち合わせた男であることは一目でわかりました。槍を合わせること数合、それで確信をいたしました。恐らくあの男は……私やダリウスと同等の力の持ち主である、と」


その言葉にその場にいた全ての者が黙り込む。誰もが彼らの武勇を知っている。そのためシグルドと同等というのは異常な事なのだ。


言葉を継いだのはシオンである。


「兵の統率も見事でした。恐らくあの蛮族の長と同等……いやそれ以上かもしれません」


アレスはその言葉を聞き、しばらく考えた後、信頼する部下の名前を呟く。


「ゼッカ」


「はっ、ここに」


アレスの横から陰が浮き上がるように、1人の男が現れる。だが、その姿を見て驚く者はここにはいない。黙ってその様子を眺めている。


「至急調べてもらいたい。トロイアの砦に攻め込んだ2人の素性を」


「承知しました」


ゼッカはそういうと、今度は消えるように立ち去っていった。


「さて……蛮族のリーダーと異国の戦士か。蛮族のリーダーがこちらの思惑通りの人間だと嬉しいんだけどな」


そう呟いた後、再び言葉を続ける。


「でも僕としてはシグルドにそこまで言わしめた異国の戦士が気になるな。どのような男なのか……」


そう言うとアレスはニヤリと笑みを見せる。その姿をみてシグルドもシオンも小さくため息をついた。


あ、また始まった、と。


「欲しい……欲しいなぁ、その異国の戦士を。でもまずはその人となりをしっかり調べないと……」


そう呟きながら一人笑いだすアレスであった。


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