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アーリア王 ギルガメシュ

アレスとダリウスは今、アーリア人の居住地を歩いている。

目的は彼らの長、ギルガメシュと対面するためだ。


辺りから鋭い殺気と視線が二人に集中している。先ほどの小競り合いについては連絡が伝わっているのだろう。先鋒として向かったもの達は全て捕虜になった……これは彼らにとって屈辱の何物でもない。もしかしたらアーリア人達が集まり国家をなしてから考えても初めての出来事かもしれない。

そのため、物陰からアレス達を見るアーリア人の憎しみのこもった視線は並々ならぬものだ。

普通の男ならこれだけで、足が動かなくなる筈である。

しかし二人は表情を変えることなく、それどころか軽い笑みさえ浮かべながら案内人の後ろを歩くのであった。


「中々心地の良い視線だな」


「まぁこれを心地いいというのは……変態だね」


「主だって笑いながら歩いているではないか」


「しょうがないだろ。こうでもしないとやりきれないよ」


そんな軽口を叩きながら歩く彼らが連れてこられたのは、この街の中央部、大きな石材で作られた円形状の闘技場のような広場であった。


アレスたちがその中に入ると周りには多くのアーリア人が集まり始め、いつのまにか、老若男女問わず数多のアーリア人に囲まれている状況になってしまった。


「おやおや、どの人達も皆怖い顔をしているよ……」


そう言って辺りを見渡した後、正面を見据えると、その中央部で一人の大男が立っているのが見える。年は30代半ばほど、筋肉が発達した身体つき、長い金髪をたなびかせ無精髭を蓄えた鋭い目つきの大男である。


アレス達の姿を確認したのち、彼は口を開いた。


「我の名はギルガメシュ。このアーリアの長である。招かれざる客よ。汝、何をするためにこの地に来た?」


辺りに響き渡る大声。そして歓声をあげるアーリア人達。そんな大男の言葉に対し、アレスは静かに答える。


「友好を」


その一言に静まり返るアーリア人。ギルガメシュもキョトンとした顔をした後、大笑いをして口を開いた。


「はっ!!何かと思えば。我らアーリア人は汝らのような弱者とは手を組まぬ!」


ギルガメシュの笑いに合わせて周りのアーリア人達も笑い出す。


しかしそれを意に介せずアレスは言葉を続ける。


「だが、貴殿らは我々の兵に負けた。しかも全員が捕虜となる無様な形で」


アレスの言葉に黙り込むアーリア人達。


「安心しろ。貴公らの同胞は皆生きている……そして貴公らには分かった筈だ。我々とてただ貴公らに狩られるだけではない。貴公ら以上の力を持っていることを」


アーリア人達は黙り込んだままだ。いずれも悔しそうな顔をしている。確かにそうなのだ。自分たちの先鋒は無様にもこの男が率いる軍勢に『力』で負けた。


黙りながらも、アーリア人はさらに殺気を高めていく。


しかしアレスはそんなことは歯牙にも掛けず、周りにいる数多のアーリア人に向けて言葉を紡ぎ始めた。


「アーリア人よ、我の話を聞け」


その瞬間。その場にいた多くのアーリア人が驚いた表情でアレスを見た。

それもそのはず、その場にいるアーリア人全員の耳に彼の呟きのような声がはっきりと響き渡ったからだ。


アレスは風魔法を使い、全員の耳に己が声を響かせたのである。だが、魔法を知らないアーリア人はいずれも動揺し、驚いた表情を見せた。


「我々、グランツの国は今、新しい道を進もうとしている。それは発展への道だ。安住の道だ。そして……修羅の道だ」


そう言うとアレスは周りにいるアーリア人一人一人の顔を見ていく。


「お前達はいつまでもこの地にいるつもりか?世界は広い。お前達が望む戦場は外にあり、そして活躍すべき場所はこれからたくさんあるぞ」


アレスの言葉に完全に黙り込むアーリア人達。そう、その言葉に飲まれているのだ。ダリウスはその様子を面白そうに見学する。


「さらに強敵に会いたくないのか?アーリア人の誇りを世界に見せたくないか?己が力を試したくはないのか?お前達が望むなら……この俺が連れて行ってやる」


アレスはそこまで言うとギルガメシュに視線を戻した。


「俺達はこれから数多の戦を行う事となる。アーリア人も共に来てもらいたい……ともに修羅の道を歩んでもらいたいと思う。お前達からすれば、きっと望むところと誇れる人生を送れると思うが?」


アレスの言葉に多くのアーリア人とともにギルガメシュはしばらく黙り込んだ。

しばらくの間沈黙は続く。そして大きな声でそれを打ち消すように笑い出した。


「はっはっは、実に愉快。実に愉快だ、グランツの長よ」


ひとしきり笑うとギルガメシュは再び口を開いた。


「なるほど、確かにそれは我々にとって面白い話だ。だが……それは我々がお前達に従うということ。違うか?」


「そうだ」


アレスは即答で答える。


「配下につけとは言わない。我らが朋友として共に来てもらいたい」


ギルガメシュは再び黙り込む。また暫くの沈黙の後、ギルガメシュは口を開いた。


「では……我らを納得させるだけのものを見せられるか?」


その言葉を聞きアレスはニヤリと笑い、そして言った。


「もちろん。お前たちの流儀に従い、長であるお前と一対一の勝負がしたい。力と力の勝負だ。受けてくれるよな?」




アレス達が現在立っている広場……そう、先ほどまでギルガメシュや他のアーリア人達と論を交わしていたこの場所は、今は様相を一変させている。


先ほどまでの殺気とは異なり、そこに充満しているのは


「期待」


戦闘種族と呼ばれるほど闘争を好むアーリア人らしく、いかに素晴らしい戦いを見せてくれるのか、自分達を興奮させてくれるのか。


その気配が満ち溢れていた。


「相変わらず上手いものだな、主は」


そういってダリウスは笑う。


アレスは相手を怒らせ、惑わせ、そしてプライドを擽りながら巧みに誘導し、当初の狙い通りアーリア人の長を引っ張りだしたのであった。


「しかし奴らもつまらんものだな。俺ではなく主を指名するとはな」


「ダリウスはアーリア人を蹴散らした経験があるからね……警戒したんだろうさ。まぁ、僕ならきっと余裕で勝てると思ったのかもしれないね」


そう言ってアレスは笑う。


「ふっ、そして憐れなものだな、奴らも。俺よりも、もっとタチの悪い男と戦うんだから」


「……自分の主人を捕まえてタチが悪いなんていう家臣は、君だけだろうね……まったく」


アレスの言葉にダリウスはニヤリと笑う。


「間違いないだろう?恐らくあのアーリア人の長は後悔するであろうよ。俺を指名しなかったことを」


ダリウスは視線を向かいで準備している男に移す。


見れば皮の鎧を身に纏い、重厚な鉞を持っている男が見えた。その顔は戦いに高揚する男の顔だ。


「ま、今回俺は高みの見物といこう。楽しみは……きっとあるだろうしな」


そう言ってダリウスは視線を右斜め向こうの方にずらすのであった。



「いざっ!」


「応っ!!」


開始の合図とともにギルガメシュは猛烈な勢いでアレスに襲いかかってきた。

対するアレスは……両手にドワーフから貰った神槍レイナートを握りしめ、ピクリとも動かない。


「おおおおおおおおおぉぉぉぉおおお!!」


竜巻の様に振り回された大鉞がアレスを襲う。その風圧で辺りが抉れていくのが見えた。


「なるほど……こりゃすごい。流石はアーリア人の長と言うところか。並みの兵を当てたらすぐにミンチになるね」


その様子を見ながらアレスは冷静に判断していく。

とにかく力強い。そして速い。自慢の腕力を生かして鉞を振っている。


相手の実力を確かめようと、アレスはその鉞をレイナートで受けてみた。


「ぐっ!!」


その言葉とともにアレスは後方へ飛ばされる。


歓声をあげるアーリア人達。


「さぁ、楽しませろよ、グランツの長ぁっ!!!」


ギルガメシュもそれに合わせて大声で吠えた。


アレスは体勢を立て直し苦笑する。


「確かに先ほどのアーリア人の兵とはケタが違う。白軍の連中でも個々で当たったら難しいだろうな。でも……」


再びギルガメシュが襲いかかってきた。


アレスは冷静にその刃筋を見極めている。そして今回は軽快に躱しはじめる。身体を捻り、軽くステップを踏みながら、いなし始めた。


「惜しいな。これで技術があれば大した戦士だっただろうに」


「小癪な真似を……とっととこの鉞の餌食となれぃ!!」


そう吠えて再びギルガメシュは襲いかかってきた。


「いやいや、餌食になったら……死んじゃうよ。素直に従うわけないでしょ」


そう小さく笑いながらアレスはレイナートを回転させ、石突をギルガメシュに向ける。


「さて……と。曲芸も見飽きたことだし、とっとと仕留めるか」


そう言うとアレスは恐るべき速さで石突を繰り出した。まずアレスが狙ったのはギルガメシュの肘である。


「がっ!?」


思いもよらぬ激痛にギルガメシュは大鉞を落とす。


「アーリア人……確かにその腕力は強大だ……ただ、腕力だけなんだよね。動きは……無駄が多い」


次にアレスは膝に石突を繰り出した。それを受けギルガメシュは膝をつく。


「ただ、その力が結集し数百、数千単位で襲いかかってきたら……それは脅威かもしれない。だから、僕としてはそれは欲しい。でも、個人としてはあまり怖いとは思わないね」


そしてトドメとばかりにアレスは鳩尾に石突を繰り出した。


「うぐっ!!」


それを受け、ギルガメシュは蹲る。誰が見てもその力の差は歴然。


アーリア人達は今までの興奮を他所に静まり返る。


「さて……これで終わりかな?」


蹲るギルガメシュを見ながらアレスがそう言った時だった。その静まり返ったアーリア人の中から人影が飛び出してきたのは。


「これで終わりと思われたら困る!!兄に代わり私が相手になろう!!」


その声の方へアレスが目を向けると……一人の大きな女性が飛び出してきた。手に人の二倍ほどある大剣を持って。見ればアレスよりはるかに身長が高く、筋肉質の女性だ。目鼻立ちは整っているが、精悍さも同時に醸し出す。


(ひぃ)様だ……」


「ゼノビア様が出たぞっ!!」


彼女の登場で静まり返っていたアーリア人が再び騒ぎ始めた。その声は徐々に大きくなっていく。


対するアレスもまた、彼女の方を眺め……先ほどとは打って変わって厳しい表情を見せた。


「やれやれ、これは驚いた。こっちが本命かな?」


ギルガメシュも確かに強者の気配を感じた。しかしこのゼノビアと呼ばれる女から感じることのできる気配は。

まるで上位の妖魔貴族や神獣と呼ばれる者たちと同等のものだ。


アレスがレイナートを置き、武天七剣に手を伸ばした時。背後から声が聞こえた。


「まて、主。俺がいく」


目を輝かせたダリウスがゆっくりと現れる。


「あれだけ闘気を漏らしていたら、気になってしょうがない。俺がやる」


その声を聞き、アレスは苦笑したのだった。






ダリウスとゼノビアのこの出会いは彼らにとって一つの運命だったのかもしれない。


歴史書にはあまり書かれることはないが、後に吟遊詩人や演劇によって語られる事となる『天武将』と『アーリアの女傑』との戦いは人知を超えるものになるのである。



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