白軍とアーリア人
いつもありがとうございます。
重大?報告をば後書きにて書かせていただきました。よろしくお願いします。
『戦闘種族』
アーリア人はそのように呼ばれている。
類稀な身体能力を生まれつき誇り、さらには徹底した軍事訓練でその能力を限界まで引き上げる。死を恐れぬ教育が施され、戦さ場ではまるで人を殺すための機械が襲いかかってくるようだと言われている。
その強大な軍事力でかつては現在の東方諸国が森に囲まれていた時、一大国家として勢力を誇っていたこともあったそうだ。
しかし当時の最強国である大アルカディア帝国との大戦に敗れ、アーリア人はその勢力をほぼ失うこととなる。敗因は白兵戦のみを好むアーリア人と、圧倒的な物量と様々な兵器、そして魔法を駆使し兵略を用いて対応していくアルカディア軍との差であっただろう。当時、大アルカディア帝国を指揮していたのは初代皇帝レオン・アルカディアである。だが彼をして『もう二度と戦いたくない相手』という言葉が彼等の精強さを物語っているだろう。
アーリア人はその後、残った仲間を結集させ東山脈に移動。そこで彼等は独自の文化を発展させ、その地に住まうようになった。
東山脈における3分の2は彼等の土地になっている。真のドワーフ族達も彼等との争いは避けたいようで、ことを構えようとはしない。
普段、アーリア人は自給自足の生活をこの地で行っている。しかし、時折その血が騒ぎ、戦が恋しくなると北方の蛮族や西方のグランツに赴き、戦闘や略奪行為を行う。
彼らにルールはなく、己が本能のまま行動する……とても扱いづらい種族なのだ。
「で、主はどうやって奴らを従わせる気だ?」
ダリウスは彼らの土地に向かう途中、アレスに尋ねた。
「戦を仕掛ける気か?」
「まさか。いくら白軍でもこの人数では彼らに勝てないさ……」
「じゃあなぜ白軍を呼んだんだ?」
ダリウスの言葉にアレスはニヤリと笑みを見せた。
「白軍は大魚を釣る撒き餌だよ」
「どういうことだ?」
「まぁ……見ればわかるさ。さぁそろそろ見えてきた」
アレスが指差した方向……そちらに目を向けるとそこには多くの家々が見え始めてきたのだった。
◆
重厚な石造りの門の前。そこに戦闘準備を整えた多くのアーリア人達が集まっているのが見て取れた。ざっと見て白軍と同じ数ほどか。恐らくは先発隊なのであろう。
先頭にいる指揮官らしき大男が大声で威嚇をする。
「招かれざる客よ、何をしに我らが地に足を踏み入れた」
「友好を」
アレスはそう言って爽やかに微笑む。
「汝らと友好を深めにやってきた」
その言葉にに指揮官の男は笑い出す。
「招かれざる客よ。軟弱な其方らと友好を深めるつもりはない。願うなら実力を見せてみろ……まぁ無理だと思うがな。やれっ!!お前達!」
そう言って有無を言わさずアーリア人は襲いかかってきた。その様子を見てアレスは笑みを崩さず口を開いた。
「じゃあその力を見せつけてやろう。お前達以上の戦士がいる事をよく見ているがいい」
そう言うと後ろを振り向き、そして言葉をかける。
「さて……予想通りだ。白軍、前へ」
アレスの言葉に今まで後ろに控えていた白軍50名ほどが前にでる。その他にはいずれも円柱状の棒のような物を持っている。
剣が得意な者は剣の長さの。槍が得意な者は槍の長さのものだ。
その様子を見てダリウスはアレスに尋ねた。
「何か策でもあるのか?主」
「いや、ないよ?」
「じゃあ、何か戦術でも仕込んだとか?」
「いや?それもない」
そういうと、アレスはニヤリと笑った。
「とりあえずアーリア人の先鋒……ざっと見て同数。これを撃退してもらおう。彼らなら、自己の判断でいけるさ。アーリア人は『力』のあるものの話を聞く。なら先ずはここでそれを証明しよう」
◆
アレスが今回白軍で呼び寄せたのはいずれも白兵戦のエキスパートである。
「おうおうおう、すげぇな。明らかに人じゃねぇ」
そういうのはバランである。彼の手には大剣ほどの大きさの警杖が握られていた。
「あぁ、嫌だ嫌。あんな筋肉ダルマの相手なんて。とっととハインツに戻って美女を抱きたいもんだ」
そう呟くのはフリックだ。こちらの手には長剣ほどの大きさの警杖が握られている。
「…………」
隣にいるキルは対して無言だ。手にはフリック同様長剣ほどの警杖。その目はしっかりとアーリア人を捉えていた。
「ゴチャゴチャ言わないで目の前に集中したら?うるさいわよ、あんた達」
カリーナはそう言って二人をたしなめる。そんな彼女の手には槍ほどの長さの棒があった。
彼女達が手にしている棒形の警杖。これは白軍のみに配られているものである。
アレスの錬金術の知識から作られた彼らの力を持ってしても『折れない』警杖だ。
白軍は普段は武器を持つことはない。彼らが得物を持つ事を許されるのは重要な戦の時のみだ。彼らが武器を持ってしまったら……そこには殺戮の嵐が吹き荒れるからだ。
そのため、それ以外はこの特殊な警杖で敵と相対する。
今回、アレスが彼らに命じたこと。それはアーリア人を殺さず全て捕獲しろ、ということである。
「アーリア人……普通の兵だったら恐らく一人を倒すのに十人……帝都の弱兵なら数十人は必要かもね」
アレスはそう白軍の前で笑った。
「まぁ、君たちが遅れを取ることは考えられないから……数が多くない限り、普段通り警杖で対応するように。目的は全てのアーリア人の捕獲。今回の狙いは彼らとの友好だからね」
そしてアレスは付け加えた。
「ただし……今回は強い兵だから……『本気』でいっていいよ」
と。
「さてと……」
そう言うなり、フリックは自らの魔力を高め、警杖にそれを伝え始めた。他の者達も同様だ。彼らのその特殊な警杖が青く輝きだす。
「本気でいっていい、と許可を貰ったわけだし……久々に楽しませてもらおうか。さて、アーリア人。どれだけ遊んでくれるかな?」
そういうとフリックは前方のアーリア人に向けて駆け出すのであった。
◆
「なるほど……撒き餌か。見事にアーリア人を惹きつけたわけだ。奴らは」
そう言ってダリウスは笑う。
「強い……強いなぁ、あいつら。これなら見事に全てのアーリア人が釣れそうだ」
ダリウスは白軍の戦い振りを見ながらそう感嘆する。ダリウスをして、ここまで強い『兵』は見た事がなかった。
「他にいけば一軍の将を任され、英雄だ、勇者だとチヤホヤされるだろうに」
「それなのにわざわざ兵でいようとする『変わり者』さ。彼らは」
そう言ってアレスは笑った。
アーリア人は強い。それは見ればわかる。恐らくグランツの普通の部隊では苦戦するのは間違いない。
そして……アレスはその強さを十分に知っているのだ……レオンの記憶の中で。
圧倒的なスピードと圧力で白軍を飲み込もうと襲いかかってきた。しかし白軍は。
「ははっ、こいつら腕の骨を叩き折っても向かってくる。たいした根性だ」
「黙らせるには気絶させるしかないね。急所を狙うといいよ!」
「それじゃあ面白くないだろ?せっかく本気を出していいと言われたんだぜ?」
「あんた……調子乗ってると殺されるわよ。一人でも死んだらアレス様が怒るんだから……それだけは絶対やめてよね」
「違いない……ほら、次がきたぞ」
彼らは向かいくるアーリア人の斬撃を笑って躱し、的確に相手の急所に一撃を叩き込む。
アーリア人は強い。一人が死を覚悟すれば死ぬまでに100人を道連れにすると言われるのは大袈裟ではないだろう。だが、これだけ的確に急所を攻撃されれば……例えば彼らとて意識を飛ばしてしまうのだ。
「うぉぉぉぉぉぉおおお!」
バランは大型の警杖を恐ろしいまでのスピードで振るう。そしてそれを受け止めたアーリア人を今度は技術で体勢を崩す。その瞬間、左の拳を鳩尾に叩き込んだ。
「うぐっ!」
しかしアーリア人もさるもの、それだけでは倒れることがない。だがその瞬間
「ぐぇっ!!」
体勢を崩したアーリア人のこめかみに強烈な蹴りが入る。さすがのアーリア人もこれで倒れる。
「おい……勝手な事をするなよ」
「ごめんごめん、いい高さに頭があったからつい、ね」
蹴りを放ったのは近くにいたフリックだ。そう言って笑うと次の獲物にターゲットを切り替える。
こうしてアーリア人達は次第に数を減らしていく。
次々と倒れるアーリア人。それを見ていた指揮官らしき男は言葉を失う。
「こんな馬鹿な……我々がこうもいとも容易く……しかもアルカディアの雑兵にやられるなんて……っ!!」
そう呟いた瞬間だった。彼の元に見えない斬撃が飛んできたのは。
慌ててそれを受け止める指揮官。しかし彼の剣はそのために柄から折れてしまった。
「あぁ、よかった。受け止めてくれて。恐らく君らなら大丈夫だと思ったよ」
そう言葉をかけてきたのは向こうの指揮官……アレスである。
「さて、指揮官殿。大至急、君たちの長に伝えてもらえないかな?」
「……ぐっ、なんと?」
「相手の指揮官が話したい事があると。来なければ……こちらにはたくさんの捕虜がいる事をおわすれなく、と伝えてくれ」
そう言いながらアレスは笑うのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
さて……活動報告や後書きでも触れましたが……執筆スピードが中々進みません。
理由としては、仕事が忙しくなったこと。
今年は本人の願いとは別に随分と責任あるポストに着くことになりまして……仕事メインの日々になっております。
休みの日も少なく、毎日フラフラのヘトヘトで帰る日々。現在執筆は行き帰りの帰宅時間で行なっている現状です。
そんな状況のため、大変申し訳ありませんが7月いっぱいは現行の3日おきの更新から5日おきの更新にさせてください。
8月から更新スピードが速くなるよう頑張りたいと思います。
楽しみにしてくださる皆様には申し訳ありませんが……どうぞよろしくお願いします。
※そしていつも多くの方の感想ありがとうございます。アンチの方もいらっしゃいますが、それをかき消すほどの多くの方の感想……本当にありがたい限りです。
執筆もギリギリのため、感想のお返事が中々書けませんが、感想は全部読ませていただいております。いつも励みになります!
大変申し訳ありませんが、余裕ができましたら、必ずお返事は書きたいと思います。
今後も自分なりに精一杯やっていきますので、引き続きよろしくお願いします!




