奥方語り その2
多くの方に感想を書いていただきありがとうございます。
中々返事ができず申し訳ないです。仕事が急に忙しくなってしまったので……はい、言い訳です。読者大事にする、と言ってるくせに情けない……と反省しております。
全ての感想、必ず見てます。時間はかかりますが、お返事はさせていただきます。もう少しだけ……お待ちいただければと思います。
僕はなぜここで正座をしているのだろう??
アレスは自分を客観的に見て苦笑せざるを得ない。
いや、本当に苦笑などすればこの後大変なことになるのは分かっているから、そのような事は決してしないが。
今、彼は部屋の一角で正座をしている。
目の前には笑顔のコーネリア。だが、その目は笑っていない。
「で、アレス様。聞きたいことがあるのですが?」
「はい、なんでしょう……」
消え入りそうな声でアレスは返事をする。その姿を見て、周りにいる他の女性たち……いずれも妻となる者たちが苦笑している。
その中には桃色の髪の魔族の姿も。
リリスはアレスと目と目が合うとニッコリと妖艶な笑みをこぼした。
(う、裏切り者め……)
ルブランに到着したコーネリアからハインツのアレスの元に手紙が届いたのは一週間前。その中に、新しく側女となった女性、リリスを寄越してほしいという一文を発見した時、アレスは眉をひそめた。
「リリス殿の件については私から報告済みです」
そんな様子を見て、しれっと答えたのはジョルジュである。
「修羅場が起きるならとっとと終わってほしいですからな」
リリアナの事だけでも頭が痛いのに……なぜこうも次から次へと……
「ご主人様、安心してくださいませ。私が上手く話し合ってきますわ」
と、向かったはずなのに……
(なぜ、お前はそっちサイドにいる!?)
他の婚約者たちと仲良くこちらを見ているリリスにアレスは頭を抱える。
リリスの扱いはアレスの護衛、兼愛妾という立場で決まっていた。どうやらコーネリアはそれを猛烈に反対したそうだ。
どういう理由があれ、正式な形をとるべきだ、と。
優柔不断なアレスの態度を責め、リリスもまた妃として世に認めさせることを押し切ったのであった。
ふと見ればリリアナなどは、コーネリアの騎士のように少し後ろに控えている……顔は少し申し訳なさそうにしているが。
(リリアナまで……どんな魔法を使ったんだ!?)
「アレス様?」
そんな事を考えていると不意にコーネリアは声をかけてきた。その声に驚き、アレスはビクッとする。
「いえ、なんでもないです!!」
そんな様子を見ながら、コーネリアは笑みを崩さず、さりとて目は鋭く、アレスに質問を重ねていく。
「では……急に妻が増えた際の、他の方々のお気持ち
をアレス様は考えましたか?」
「………………」
「お酒に酔ったから、というのは言い訳にはなりませんよ?」
「………………」
針の筵に座らされる時間が続く。
アレスは思う……あぁ、これはあれと一緒だ、と。
そう、セラの『奥方語り』
なぜ、自分の周りにはそういう女性が多いのだろう。まさか妻の中でも最も上位にくると思われるコーネリアがこういうタイプだったとは……
アレスは懇々とコーネリアから追及を受けながらただただ、絶望的な時を過ごすのであった。
◆
アレスが解放されたのは日も暮れようかという時間帯である。
「ま……まさかコーネリアがあんなに母上に似てるとは……」
ソファで突っ伏しているアレスの横にはシータが立っていた。
「まぁ、しょうがないですよね。アレス様の自業自得です」
そう言うとシータは苦笑する。
コーネリアのお説教。それは、まさにアレスの苦手とするものにそっくりであった。
それは……セラの『奥方語り』
「母上に続き、コーネリアまで同じなんて……身がもたないよ……」
そう言うとシータの方に顔を向けた。
「ってか、何で皆コーネリアの味方になってんの??」
「えっ?」
「いや、だって皆が知り合ったのってこの1年ほどでしょ?なんであんなに……」
そう、アレスは疑問だったことがある。それは婚約者達の連携力。
コーネリアだけでない。コーネリアの追求が終わればシャロンが、シータが、ロクサーヌが、ニーナが。
助けを求めようとするが、シンシアですら笑顔でかわす……だけでなく追い詰めてくる。
「まぁ、全てセラ様とコーネリア様のお力ですね」
シータの言葉にがっくりと項垂れるアレス。
「まさか……コーネリアがあれほど母上に似てるとは思わなかった……」
「コーネリア様は凄いお方ですよ」
シータはそう言うとアレスに微笑む。
「あの方が一言口にすれば、皆さんが納得するんです。当初はシャロンさんやリリアナさんなんかは割と突っ張っていたんですけど……いつのまにか、あれほど仲良くなってますし。リリアナさんなんかはわずか一週間ほどでコーネリア様の事を心酔していますし」
「あの2人がねぇ……びっくりだよ」
「リリスさんなんかも当初は敵意を持ってましたけどね……今では飼い猫のようですから」
「そ……そこまでか……」
アレスは言葉を失う。
コーネリアには確かに『王者の気風』を感じることがある。しかし……ここまでとは思っていなかった。
(もしかしたら、僕の知らない力が彼女にはあるのだろうか??)
そう思わずにはいられないのだ。
「しかし……このまま負けっぱなしというのはマズイよなぁ……」
アレスはそう一人呟く。
婚約者達に一方的に負かされて……男として情けなさすぎるのではなかろうか?
妙な男の維持がフツフツと湧いてくる。
(とはいえ、僕が勝てる相手ではないような気がするし)
そんな時、アレスの目があるものを捉えた。
それは……シータが持ってきた飲み物の中に入っていたワインボトル。
(ギルの力を借りるのは……どうかと思うけど……このままヤラレっぱなしは嫌だ!!)
ギルの力を借りるのは男としては情けない、それは分かっている。でも男としているこのまま完敗するのも情けなさすぎる。
絶対に一泡吹かせたい。
そう決意するとそっとワインボトルに手を伸ばすのであった……
◆
「ちょっとやりすぎましたか??」
コーネリアはそう言って小さく溜息をつく。
「いや?あれぐらい必要じゃない??そうでないとあいつ反省しないし」
そう答えるのはシャロンだ。
「しっかし、凄かったなぁ〜さすがコーネリア様……でなくてコーネリアはん。アレスもタジタジやん」
ニーナはそう言うと先ほどのアレスの姿を思い出し吹き出す。
「婚礼の儀の前でしたしねぇ……やはりやりすぎたかもしれませんね……」
「いや、あれぐらいやらしてもらわないと。またハメを外すかもしれないし……」
ロクサーヌの言葉に再びシャロンが答えた時……
彼女達の部屋の扉が大きな音を立てて開く。
「やぁ、皆さんお揃いで」
全員がそちらに目を向けると……そこには頰が桃色に染まっているアレスの姿があった。目が爛々と輝き、明らかに普段のアレスとは異なる。
その姿を……ここにいる何名かの女性たちは知っていた。
シャロンは思わず立ち上がる。
「あ、あんた……お酒飲んだでしょう??」
「確かに飲んだかもしれない。でも俺は素直になっただけだ」
「そう言ってあんたは……」
シャロンは思い出す。この状態になった時にアレスに何をされたのかを。
シャロンが思わず後退りをして何かを言いかけた時……彼女とアレスの間に立ちふさがる者がいた。
コーネリアである。
コーネリアはアレスに対して思いもよらない台詞を言った。
「貴方は誰ですか??」
その言葉にその場の空気が変わる。
一体コーネリアは何を言っているのだろう?と。
「おいおい、何を言う。俺はアレスに決まっているだろ?君の……」
「もう一度問います。貴方は誰ですか??」
二度目の言葉で、その場の温度が少し下がったのを全員が感じた。
怒っている。コーネリアが。
「アレス様の中にいる貴方は何者ですか??」
「…………」
黙り込むアレス。その顔は狼狽えている。
コーネリアは続ける。
「私が愛しているのはアレス・シュバルツァー様です。貴方ではありません。消えなさい」
そう言うと、アレスの周りに結界が生まれる。
それと同時にコーネリアの右目が紅く輝きだした。
「うわぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
「普段はアレス様を助ける存在かもしれません。でも今は貴方の出番ではありません。消えなさい」
その瞬間、アレスの耳元に焦ったギルバートの声が聞こえた。
(すまん、アレス!こいつはマジでやばい。後は頼んだ!!このままだと本当に消されちまう!)
(えっ??えっ????)
(お前、凄いやつを嫁にしたな?この女は……まぁいいや、後で夢で話すわ。じゃあな!!)
(ちょっと、まって……う、裏切り者ぉぉぉぉぉおおおおおお!!)
俯き、荒い呼吸をするアレスの前にコーネリアは立ち塞がった。
「さて、アレス様。ちょっとお話があります」
「……出来るだけ穏便にしてもらえるとありがたいですが……あ、無理っすね、その様子だと」
ギルバートの気配が消えたのち、残されたアレスは再び婚約者たちに囲まれる事となる。
そして……この日は夜が明けるまで婚約者達との話し合いは続いた。
(母上の語りもきつかったが……コーネリアのはその上をいく……あぁ、神よ……)
朝、その部屋には……何もかも燃え尽きて真っ白になったアレスが一人、椅子に腰掛けていたそうな。
久々の痴話喧嘩でした。
アレス爆ぜました笑
ちなみに、なぜコーネリアがこれ程までの力を持っているのか、それはまた別のときにでも書ければと思います。
※あれ?投稿されてない……と気付いたら、投稿時間が間違ってました!ごめんなさい!!




