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魔境の大地 制圧戦 その1

「………以上のように魔境の大地には現在『二人』の妖魔貴族がおり、東と西の地に根城を築いている……らしい」


魔境の大地の軍議にて。アレスは皆の前でそのように説明した。しかし、その場にいる全員の視線が冷たい。


全員の視線の先にはアレスにしなだれかかっている一人の女性……


「えーと、主、よろしいですか?」


軍師であるトリスタンがたまらず手を上げる。


「なんだい?」


「えっと……私もさすがに混乱しておりまして………詳しく説明していただきたいんですよね」


そう言ってシオンは指折り数えながら疑問をぶつける。


「まず、主はどこからその情報を仕入れてきたのか……2つめは今までずっと『三人』だったこの地の妖魔貴族がどうして『二人』になっているのか、最後に……明らかに『妖魔貴族』であろう、強い魔力を放っているそちらの麗人はだれなのか?」


「……あぁ、それはね……」


アレスは恍けながら言葉を続けようとすると


「ご主人様、もういいですわ。ワタクシが説明します」


そう言ってアレスの側にいた麗人……リリスが言葉を遮った。


「皆様方が訝しがるのも無理はありませんわ……まぁ恐らくほとんどの方が私が何者なのか分かっていると思いますが」


そう言って妖艶な笑みを見せる。


「私の名はリリス。「元」妖魔貴族序列8位にて、今は愛しのご主人様の忠実なしもべ。以後よろしく」


「ふざけるな!!」


荒々しく席を立ち、叫んだ男がいる。ダリウスの弟のエアハルトだ。


「貴様ら妖魔貴族がこのグランツにどれだけ害をなしてきたのか……今更、閣下の忠実な僕になったと言われても俺は納得できない!」


「あら。元々グランツにいた方かしら?」


リリスはエアハルトの方を見て一瞥すると言葉を続けた。


「元々グランツにちょっかいを出していたのは東の妖魔貴族、序列13位のドレアムだから……ワタクシは関係ないわ。それに……」


そう言ってリリスはシグルドとダリウスの方を見て、肩をすくめた。


「まさかご主人様以外にもこんな実力者がいるなんてね……敵対しなくて本当に正解。あの骸骨といい、執事のお爺さんといい……ホント化け物屋敷かしら?」


リリスの言葉を聞いたエアハルトはそれでもなお、噛みつこうとするが、それをダリウスに制される。


「兄者!」


「おさえろ、エアハルト」


「しかし!!」


「お前が激高するのはよく分かる。お前は魔境の大地に面した砦の守備を任されていたのだからな。部下もたくさん死んだのだろう。だが、憎しみに囚われていたらあの地を制圧することはできぬ。魔境の大地の魔族を全て殲滅することは不可能なのだからな……だったら、その地を支配している妖魔貴族が降ってくれた方がよほど効率が良い。それに……」


そういうとダリウスはリリスの方に鋭い視線を向けた。


「もし何か変なことをしたら……その時は俺がお前の命を奪うと思え」


「ご忠告、感謝するわ。」


そう言ってお手上げとばかりに両手を挙げながら笑みを返すリリス。


「えーと、主?」


シオンはそのやり取りを見ながら、そっとアレスに囁きかける。


「なんだい?」


「どうやってあの妖魔貴族を降したんですか?」


「…………どうだったっけなぁ?」


「恍けても無駄ですよ。なんとなく想像は着きますが」


「……………じゃあ、お願いだから触れないでもらえないかなぁ…」


「主……見境なさすぎです」


ため息を一つつくとシオンは皆の方に向き直り、再び軍議を進めることとした。


「予想外のこともありましたが……とりあえず続けたいと思います。まず、魔境の大地とこの地の魔族の拠点について……ではリリス殿、お話をお願いできますか?」


「本来、この地は魔力の源、『龍脈』が通っていて魔族にとって居心地がいいのよ」


そういうとリリスは地図をなぞりながら説明を続けた。


「龍脈から魔力が湧き出る箇所は三つ。まずは東の丘。ここの妖魔貴族はドレアムといって、凶悪な性格をしているわ。従えている種はオークやオーガ、それにゴブリンと言った種族。あと戦闘が好きな魔人たちも彼に従っているわ」


「おう、奴ならよく知っている。何度も苦い思いをさせられているからな……」


その言葉を聞き、エアハルトは唇を噛み締めた。


「また西の丘にもあって、ここには妖魔貴族序列15位のザマーと呼ばれる男がいる。彼は黒い翼をもった有翼人。ガーゴイルやハーピィと言った空を飛ぶ魔物たちが主に従っているわね」


そして最後に中央部を指さした。


「最後にこの中央部。ここには私の城があるわ。主にサキュバスやインキュバスといった夢魔たちや、ダークエルフをはじめとする魔人たち。あと、獣型の魔獣も多いわね。」


そしてアレスの方を見て言葉を続ける。


「この魔境の大地と貴方たちが呼んでいる場所も、各妖魔貴族が領土をもち三つに別れている状態よ。もっとも大きな勢力をもっていたのはこのワタクシ。だからご主人様はこの地の半分以上を手にしたと言っても過言ではありませんわ」


ここでシグルドが質問を飛ばす。


「他の妖魔貴族はお前には従わないのか?」


「本来妖魔貴族は力でその序列を決めていく。それゆえ手を結んだりはしないわ。自分達がピンチになった時は手を貸すけどね。この地も一方が攻め込まれたら、他の魔族がハインツに攻め込んで来なかった?」


「ふむ。それゆえダリウスが攻め込むとハインツに多くの魔獣が攻め込んで来たのか……」


ゲイルはそう言って唸る。


「特にドレアムとザマーは固い同盟を結んでいるからね……この地の形式上は私は盟主になっていたけど…彼らは従うことはないでしょうね。隙あれば私の首を狙って序列8位の座を奪うつもりよ」


アレスはその話を聞くと、改めて皆の方に向き直った。


「ということなので、今回は二つの勢力が連携できないよう3方向から同時に攻め入ろうと思っている。期限は一週間」


それに続けてシオンは全体に指示を出した。


「では、そのように進めましょう。東の丘をダリウスに。西はシグルドにお願いしたいと思います。ダリウスは第三軍を。シグルドは第二軍と『龍騎兵』を」


「へぇ、『龍騎兵』はもう出せるのかい?」


アレスがシオンに尋ねる。


「今回は空中戦にもなりそうですから……試験運用を兼ねて『龍騎兵』を出してみましょう」


そういうとシオンはアレスの方を見て言葉を続けた。


「そして主は……第一軍、赤軍を率いてリリス殿の居城へ行ってみましょう。何か面白いものが発見できるやもしれませぬ。それに……龍脈と言うのも気になります」


シオンの言葉にアレスは頷く。


こうして軍議は終わった。その日のうちにアレス、シグルド、ダリウスは軍をまとめ魔境の大地へと出立したのであった。


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