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第一軍

第一軍


「おい、アル。聞いたか?第一軍の話」


とある酒場にて。2人の衛兵が仕事帰りの一杯を楽しんでいた。

共にセインツに生まれた幼馴染の2人は揃って軍に入った。というより、入るしか生きる道がなかった。ここグランツは魔族や蛮族から常に気を配らないといけない。それゆえ、次男以下は余程の財力がない限り、兵として戦うことを義務付けられていた。

声をかけた男は名前をジャンという。ジャンは狼族と人族のハーフであった。身体は細身でありながら、引き締められた筋肉を持ち、一目で熟練の兵士と解る。


「あぁ、知ってる。赤軍の話だろ?」


対するアルは熊族と人族のハーフである。大きな身体は筋肉で覆われており、こちらも兵士として立派な体躯をもっていた。


2人は第四軍に属し、今はハインツ守備兵として治安の維持を主な任務としていた。先日の水棲魔獣討伐でも活躍している。


「たった3日……たった3日で北の賊を殲滅。ありえないだろ」


そう言ってアルはエールが入ったジョッキを傾ける。


「第一軍はヤバすぎる。あれは人間の集団じゃない」


アルもジャンも以前より共にグランツ軍として所属し、各地を転戦した自負がある。


大陸最強の精兵


グランツ兵の誰もがその自負と誇りをもっていた。

それゆえ初めて第一軍……所謂『破軍』を見たとき、誰もが敵愾心を燃やしたものだ。しかし、訓練の様子を見てその考えを改めることになる。


赤軍のその巧みな馬術に。

黒軍の圧倒的な破壊力に。

青軍のその魔力に。


「しかも賊だけでなく、出張ってきた蛮族もついでに殲滅したそうじゃないか……」


「このセインツ全体を覆っている結界も青軍の魔力に頼ってると聞くしなぁ。恐るべし。というところだ」


そういうと2人は黙ってエールを飲みはじめた。冷たいエールは彼らの喉を潤し、疲れを癒していく。

冷たいエールは現在ハインツの酒場を中心に広まっていき、庶民が手軽に飲めるものになっていた。


こうして2人は第一軍の戦いを肴に数杯のジョッキを傾けることになるのだった。




グランツ北部は牧草地であり、肥沃な土地が広がる。本来なら村や町などが造られ栄えてもいいのだが……


「これだけ、北から蛮族が襲ってくれば、悠長に暮らすことはできない……か」


アレスはそう言うと無惨にも蛮族に襲われた村の跡地を見る。

物は奪い尽くされ、村民は皆殺し……容赦のない略奪の跡が見て取れた。


「アレス様。再び態勢を立て直した蛮族どもが北東から現れた模様です」


アレスが廃村を眺めていると例のごとく気配を消したゼッカが現れる。


「今回は山賊を殲滅するだけだったんだけどね……しょうがない。グランツが変わった事を教える事としよう」


「主よ……その割には楽しそうな顔をしているが?」


愛馬である、麒麟のセインから皮肉を叩かれるとアレスは面白そうに笑った。


「セイン……僕は勘違いをしている奴が嫌いなんだ。自分が圧倒的強者であり奪うのが当然と思っている奴らに一泡ふかせる……最高の見世物じゃないか」


「……主を敵に回す蛮族に同情するわ」


そう言って自分の背に乗る主の言葉にため息をつくセインであった。





アレスが今回山賊を討伐するために連れてきたのは軽騎兵からなる赤軍を主力とした部隊である。

北方で賊が集まり、近くの村々を襲っていると聞いたのが4日前ほど。

魔境の大地攻略を控える今、北で蠢く賊ごときにかける時間はない。それゆえ赤軍の機動力を生かして即断速攻で複数あった賊の砦を短期間で全て落とすことにしたのである。

そして赤軍はハインツを出てわずか3日で全ての賊を、平定することに成功したのだった。

その機動力を利用して賊が迎え撃つ準備をしているところを各個撃破していった。


「相手は好き勝手やってた奴らだ。情けをかけるな。徹底的に殲滅せよ」


一方的な殺戮。無慈悲なようだがアレスは弱い者を襲う賊に対しては一切情けをかけなかった。


こうして信じられないほどの速さで賊を討伐することに成功したのだった。


こうして戦果をあげ、ハインツに戻ろうとした矢先の蛮族襲来の方である。



「青軍が間に合ったのはラッキーだったね。この際、徹底的に潰しておこうか」


そう言うとアレスは各千人長達に指示をとばした。


今回の賊討伐で動かしていたのは赤軍だけではない。念のため後詰めとして送る様、青軍にも指示を出しており、ちょうど今、彼らが北の地に到着したのだった。


「蛮族達は丘を越えて一気に襲いかかるつもりの模様。その数1万5千」


ゼッカの言葉にアレスは笑う。


「彼奴らは戦法が単純すぎるのさ。その破壊力は買うけど……いくらでも策は立てられる。じゃあ始めようか」


こうしてアレスの蛮族殲滅戦が始まった。




蛮族達の戦術は単純である。

騎馬による速攻突撃。


それのみである。そして今回もまた同様に騎馬の勢いをもって相手を殲滅するつもりだった。

自分達ほど騎馬の扱いに長けた者はいない…それが彼らの誇りであり、自負であったのだが……


「くそ!あの赤い連中、逃げてばかりで戦ってこない!」


「俺らが追いつかないなんて……どんな魔法を使ったんだ!」


蛮族達はがむしゃらに追いかけるものの赤軍はそれを馬鹿にするかの様に逃げていく。

こうして、谷の狭間まで追いかけた時だった。


「なんだ、あれは……?」


前方から谷の崖壁に向かって赤いものが飛んでくる。


「火……火の玉だ!奴らの魔法だ!」


「騒ぐな!それほど大量にある訳ではない!」


動揺する蛮族を尻目に炎の玉は蛮族を越えて後方の崖壁に飛んでいく


「はん!どこを狙っているんだ!」


その様子を見て多くの蛮族が笑った時。


崖の壁面がこの世の終わりの様な爆音を轟かせ、一挙に崩れ落ちたのだった。


「な、なんだ……何が……?」


「く、くそ!馬がっ!」


今まで聞いた事のない爆音に驚いたほとんどの馬は驚き嘶き、馬上の蛮族を振り落として前方に向かって走っていく。


「くっ、くそ!どうなってやがる!」


そうやって振り落とされた蛮族達が前方を見た時……再び先ほどの炎の玉が雨霰の如く、今度は自分達のに降ってくるのが見えた。


しかも先ほどとは異なり、雨あられのごとく多数の炎の玉が。


さらに先ほどの赤い騎兵達も槍を構えてこちらの様子を伺っている……


炎の玉が止んだ後、黒焦げになった蛮族の遺体と、未だ逃げ惑う者たちが。

それを見て今度はゆっくりと赤い騎兵が動き出す。一方的な虐殺が始まった。





「捕獲した馬の数は1万を超えるかと思います。また蛮族達はほぼ殲滅。逃げたものは百も満たないかと」


「それでいい。少しは残してこちらの事を広めてもらわないと、また性懲りも無く攻めてくるからね」


そう言ってアレスは笑った。


「馬もだいぶ手に入れる事が出来たし……ま、狙い通りかな?」


アレスの策は蛮族を谷の狭間に事前に爆薬を仕掛けておき、そこに蛮族を追い込むこと。そして盛大な音を上げて馬にパニックを起こさせるのと同時に退路を断ち殲滅することであった。


「北の馬は良馬が多いからね……第二軍と三軍に均等に分けることとしよう。さぁ、北の地も落ち着いたことだし、これからようやく魔境の大地の攻略を始められるよ」


そう言ってアレスは南西の方を眺めるのであった。




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