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水路開拓

アクエリアスはアレスの質問に対して目に涙を浮かべた。


「あれは……もうずっとずっとずぅっと昔の話ネ……この地が生まれたのは……」


「ごめん、忙しいから手短に話してくれない?」


「あなた、可愛い顔して結構ひどい人ネ……」


アクエリアスはそう溜息をつくと再び口を開く。


「昔はこの地もこんなに瘴気があるわけではなかったネ。ただ……西の大地に妖魔貴族が住み、魔獣が増えたことでここにも大量の水棲魔獣が住み着くようになったのネ。でも……一番の原因は奴ネ……」


そう言うとアクエリアスは忌々しそうに言葉を続けた。


「一匹の岩亀(ロックタートル)が……私の同輩を喰ったのネ。そのためそいつはとてつもない力を得ることになって……この沼のボスとなったのネ。奴はそれだけでは満足せず、さらに力を得ようと私達の同輩を狙って水の精霊を襲うようになったのネ。特にこの数十年で本当に多くの者が喰われて……」


そこまで言うとアクエリアスは言葉を詰まらせた。


「なんとかしようとした、この地の精霊の長、セトナ様もあの亀に……」


「……なるほどね。とりあえず、この瘴気を払いのけるにはその魔獣の討伐が必要か……」


アクエリアスの話を聞いてアレスは呟く。その呟きにアクエリアスは反応した。


「……あんた話を聞いていたのかネ?精霊の長まで喰うほどの魔獣よ?下手をすると龍種(ドラゴン)以上の力を持ってるヨ?」


「まぁそうだろうね。でも……何とかしないとダメでしょ?」


「何とかできるならとっとと何とかしてるネ!!あんな強い奴……」


「だから……僕が何とかしてあげるからさ」


爽やかな笑顔のアレス。


ぽかんと口を開けるアクエリアス。


「あぁ、もし何とかしたら……この地の水の精霊達と契約をしたいんだけど……良いかな?」


その言葉を聞き……アクエリアスは溜息を一つついて呟いた。


「できるなら契約でも何でもするネ……もう、後はどうなっても知らないネ……」


その言葉を聞き、満足そうに頷くアレスであった。





「あ、あんた将軍だったのネ!?冒険者だと思ったのネ!!」


アクエリアスは第4軍を見た後、アレスの顔を覗き込む。


「でも……このぐらいの兵隊じゃあの岩亀(ロックタートル)は相手にならないネ……」


「いや、その亀を相手にするのは兵じゃないよ?」


「はい??」


「僕一人でやるから」


「あんた……バカなのネ?」


そんなやり取りをしているうちに、沼地の奥深くに到着する。第4軍の気配を感じたか……至る所から魔獣が姿を現した。


「いやはや……いるね。こりゃあ。ロラン。さっき伝えた通り指揮をしてもらって良いかな?」


「はっ!仰せのままに!」


ロランはそう言うと後ろに控えている千騎長達に指示を出し始めた。


「先程伝えた通りだ!いつもの訓練通り三位一体となって魔獣に当たれ!初の実戦の機会、グランツ兵の強さを魔獣に見せてやれ!」




このグランツの領主となってからアレスはシグルドやダリウス達にグランツ兵の弱点を伝えていた。


それは、戦術練度の低さ。そして連携のなさ。


彼らは強い。しかし……それ故に個の力に頼りがちなのだ。そのため、アレスが軍を編成し、訓練の中心に据えたのは、戦術理解と連携面での動きについてだ。特に最初に必要になるであろう、対魔獣を想定してシュバルツァー領で取り入られている対魔獣戦術、『三位一体攻撃』はこの数週間で徹底的に叩き込んだ。


今回、その成果を実戦を兼ねて見極めるつもりであった。


「ロランは指揮を任せる。僕は……あのデカイのを潰してくるよ」


そう言うとアレスは沼の奥を睨む。

数多の魔獣の奥深く。

そこには巨大な魔獣がこちらを睨み様子を伺っているのが見て取れた。


「流石に精霊を多数喰っただけあって、知能も優れてそうだ」


「誰か閣下のサポートを……」


「いや、逆に気を使うからいらない」


そう言うと、アレスは風魔法を使い全軍に己が声を届けた。


「第4軍に告ぐ。今より魔獣討伐を始める。皆はいつもの訓練を思い出し、目の前の敵を討て。そして……我をあのデカブツまで届かせよ!」


「「「「「「「おおおおおおおお」」」」」」」


アレスの言葉に第4軍の兵士達が吠える。彼らは知っているのだ。アレスの億を超えるあの魔獣と対峙したあの姿を。


英雄の言葉は兵の心に火をつける。


「第4軍、突撃!!」


ロランの合図に第4軍は飢えた狼の如く、魔獣に襲いかかった。




次々と屠られる魔獣達。沼の水は徐々に魔獣の血で赤く染まっていく。


グランツ兵はあの魔獣の大攻勢の経験がある。それ故、数多の水棲魔獣にも臆すものはいない。

逆に……この討伐を楽しんでいた。


それは……彼らがこの短期間で叩き込まれた戦術の利点を実感しているから。

三位一体攻撃は魔獣の森が隣接するシュバルツァー領で考案された戦闘技術である。

三人一組になり、それぞれが背中合わせになる。そして一人が魔獣に攻撃するともう二人は背後を守る。そしてそれを交代しながら推し進めていく。

トドメを刺す際は三人一斉に仕掛けていく。

どこから攻撃を仕掛けてくるか分からない魔獣と対する場合は非常に有効的だ。


「なるほど、これはいい」


「背後を気にしなくて良い分、確実に一匹一匹に当たることができる。良いものだな、これは」


グランツ兵には余裕が見られる。


「まだまだ連携面では未熟だが……それでも流石のグランツ兵というところかな?」


「驚きました。まるで危機を感じませぬ。戦術とはこれほど素晴らしいものなのですね」


「グランツの兵は強い。そして戦術面や連携面での技量が上がれば、とてつもない脅威になるだろうよ。今後は戦においての戦術も叩き込まないとね」


アレスはその戦いの様子を見ながら、ロランにそう語る。徐々に数を減らしていく魔獣達。そして……その様子を見て、例の岩亀(ロックタートル)が動き始めた。


「おっ、ようやくあのデカイのが動き始めたか……さて、一気に潰しにかかろうか。悪いけど、兵達を一旦引かせて貰えるかい?」


「はっ!!仰せのままに」


ロランはすぐさま指示をだし、退却の銅鑼を鳴らした。それに呼応して兵達は波が引くように下がっていく。それに反してアレスは愛馬セインから降り、ただ一人、岩亀(ロックタートル)に向かっていった。


「沼地は……歩きづらくて嫌だね。とっとと終わりにしたいもんだ」


そう言って、アレスは武天七剣の中から神剣オルディオスを取り出す。そして岩亀にむけて見えない斬撃を放った。


しかし岩亀(ロックタートル)の硬い皮膚はそれを弾き返す。多少の亀裂が入ったのみでまったく傷はつかなかった。


「ふむ……」


その様子を見て、アレスは目を細める。


すると今度は岩亀が口を大きく開きアレスの方に向き直った。口の中が輝き、魔力が渦巻いているのが見て取れる。


その様子を確認した後、ハッと何か気づいたような顔をしてアレスは後ろを振り向いた。そして思わず


「なっ!?まずい!!」


と叫んだ。彼の後ろには第4軍がいる。このまま岩亀が魔力を放てば、彼らに甚大な被害が及ぶのは明らかだった。


大慌てでアレスは詠唱を始める。すると目の前にいくつかの魔法陣が描かれた。その瞬間。


ゴゥゥゥゥゥ!!!


と音と共に岩亀の口から凄まじいまでの魔力が放たれた。


アレスはそれを目の前の魔法陣で受け止め、


反撃(カウンター)


と呟く。すると岩亀が放った魔力の波動は魔法陣で跳ね返り岩亀に直撃した。


「さて、『無』属性魔法、反撃(カウンター)……全ての魔法を跳ね返す力を持っているけど……上手くいったかな?」


岩亀の様子は土埃が邪魔で見えない。アレスはその方角を注意深く伺い……そして舌打ちをした。


「まったく効かない……か。こりゃ確かに龍種(ドラゴン)より面倒くさいかもね」


そこには、先程と変わらず無傷の岩亀がこちらを睨んでいるのが見えた。その姿を見て、アレスは戦い方を変えることを選択する。

まずはオルディオスの刀身を消し、再び武天七剣を握り直した。


「凄まじいまでの防御力……ならそれを超える攻撃で打ち砕くのみ」


アレスの身体を魔力と闘気が駆け巡る。『魔闘術』、その白銀に輝く力がアレスの身体を包んだ。


そしてアレスはその名を叫ぶ。


「魔剣グラム!!」


アレスの声に応じて、彼の右手には禍々しい赤い魔力を帯びた黒い刀身が現れた。


「さて……これで耐えきれることができるかな?さぁ勝負といこうか!」


そう言うなりアレスは脱兎の勢いで岩亀に駆け寄る。岩亀もまた鋭い爪や噛み付くことで応戦するが……魔闘術で身体能力が大幅に向上したアレスには掠りもしない。


アレスは岩亀の爪を避けつつ、その頭の前まで進む。


「さて……一気に決めてみようかぁ!!!」


そして頭上に飛び上がり、裂帛の気合いとともに魔剣グラムを振り下ろした。



ズガガガガガガガガガガガガガッ!!!!



その一撃によって、轟音ととも岩亀は真っ二つに切り裂かれる。

それと同時に……


不思議な光景が目に映った。


なんと切り裂かれた岩亀の亡骸が青く輝き始めたのだ。


「あれは……私達の同輩の魔力を感じるのネ!!」


遠くから見ていたアクエリアスはそう言うと大慌てで岩亀の方に向かっていった。


「ふぅ」


アレスが息をつくと、それと同時にロランがやって来た。


「お疲れ様でした。アレス様」


「あぁ、何とか仕留めることができたかな??」


「何とか……ですか??我らにはいとも容易くのように見受けられましたが……いや……兄者と互角に渡り合ったとは聞いていましたが……まさかここまでとは……」


「呆けてる場合じゃないよ、ロラン。この沼の頭は斃れたんだ。とっとと水棲魔獣を殲滅しよう」


目の前の信じられない光景に目を奪われていたロランであったが、その声で我に返り


「はっ!申し訳ありません。今より私も兵達の方に向かいます!」


とすぐさま、全体に指示を出す。


「頭の岩亀は消えた。今こそ我らが魔獣を殲滅する時!!いくぞ!!」


「「「「おおおおおおおおおおおおおお!!」」」」


兵士たちは皆、アレスの戦いを見て気が高ぶっている。士気は旺盛だ。


その様子を満足そうに眺めながら、アレスは岩亀の方に再び目をやり……そして驚いた。


「岩亀から沢山の水の精霊達が……これはどういう事だ?」


先程青く輝いていたのは……岩亀から多くの水の精霊達が溢れ出ていたからであった。


「おーい!アレスー!!」


アレスは岩亀の甲羅のあたりで手を振るアクエリアスに気づく。


「アクエリアス?何があったんだい??」


「アレスのおかげで、皆助かったのネ!感謝なのネ!!」


そう言うとアクエリアスは興奮気味に言葉を続ける。


「セトナ様がアレスに会いたいって言ってるのネ!すぐ来るのネ!!」




第4軍の活躍で沼地にいたほとんどの水棲魔獣は殲滅する事ができた。

怪我人は多少いるものの……死者を出すことなく討伐を成功させることができたのだった。


「数多の魔獣の亡骸……多くの者が素材になるものです。後ほどまとめてギルドに送りましょう」


ロランの報告を聞き、アレスは頷く。


「これだけ多くの魔獣の素材、結構高値で取り引きされるんじゃないかな??資金は開発に回そう。今は金が最も必要なものだよ」


そう言って満足そうに笑うとアレスは視線を横に移した。


「さて……本題に入ろうか。アクエリアス、そして……セトナ殿」


「私の事もセトナとお呼びください。アレス様」


そう言うとセトナは恭しく頭を下げた。


「貴方があの魔獣を切り裂いてくださったおかげで、私達はあの魔獣の腹から出ることができました……何とお礼を言えばいいのか……」


岩亀(ロックタートル)に喰われたと思われた精霊達であったが……その実は亀の腹の中で生きていた。しかし、喰われた精霊達は魔獣の腹の中で魔力を吸われ続ける状態となっており、ほとんどの精霊達は衰弱していた。


「仲間たちも綺麗な水に当たれば元の力を取り戻すはずです……私は……未来永劫あの魔獣の腹にいることになると覚悟しておりました。また、あのまま魔力を吸われ続けていたら……流石の私たちでも、恐らく次々と斃れていた事でしょう。貴方は私たちの恩人です」


セトナはそう言ってアレスの方を見た。


「アクエリアスから話を伺いました。貴方は私達との契約が望みとか……貴方との契約はこの地の水の精霊の長、セトナが行います」


「んな!?セトナ様がするのネ!?」


目を見開いて驚くアクエリアスを尻目にセトナは話を続ける。


「私が貴方と契約をすれば……この地の水の精霊全てと契約するのと同じになります。それでよろしいでしょうか??」


アレスはその言葉に頷く。


「願ったりかなったりだね。よろしく頼むよ」


そう言うとアレスはゆっくりと手をセトナの額に掲げた。

その瞬間、セトナは不思議そうな顔をみせる


「あら?貴方様は……ずいぶん多くの精霊や幻獣等と契約済ですか?」


「わかるかい?」


「はい……その腕からはたくさんの契約の印が見えるので……あら?水の精霊クアラとも契約しているのですか?」


「あぁ、今故郷のシュバルツァー領で水の管理をして貰っているよ?」


「クアラは私の妹です。あの子は良き(マスター)と出会ったみたいですね……」


そう言うとセトナはニコリと微笑んだ。

その様子を見てアレスは詠唱を始めた。


「我、アレス・シュバルツァーが命ずる。汝の身は我が下に。汝の意思は我が意志に。その名は水の精霊(ウィンディーネ)、セトナ」


アレスとセトナを眩い光が包み込む。


「うひゃあ、なんなのネ!?」


同時にそれを見守っていたアクエリアス他、他の水の精霊も輝き出す。


その様子を見てセトナはクスリと笑った。


「貴方達は私の庇護下にあります。貴方達も同時に契約をする事になります」


「聞いてないのネーー!!そんな事ーー!!」


アクエリアスの絶叫虚しく、輝きや強くなり……そして徐々に光は消えていった。


「契約は終わった。我に従え、水の精霊(ウィンディーネ)セトナ」


「貴方の命果てるまで、この身を尽くしましょう。主人(マスター)


こうしてアレスは水路の水源を確保するのと同時にグランツの地の水の精霊と契約をすることができたのであった。



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