発端
3月某日。私立大学の卒業式が行われた。
華やかな着物に色めく女生徒たちを目に焼き付け、謝恩会で大人びたドレスの女生徒たちを再び目に焼き付け、数年お世話になったアパートに帰宅した。
翌日は引っ越し作業で、一夜過ごせば私はN県へ戻ることになる。
さて、話は変わるが自分はいわゆる就活に失敗した人間だ。
失敗、というよりもしなかったに等しい。某安定収入の見込める職員になるべく、全く習ったことのない行政の勉強をしないまま試験に臨み、結果はわかりきっていた。あとは牧場に電話してそのまま連絡を取らなかった。
これきりだ。
冗談ではない。
自分の就活らしい就活はこれきりだ。
馬鹿にするのはまだ早い。
勉強を続けるべく院試を受けたが、身に入らなかった。
言い訳をするなら院試の問題を少し知ってしまったことと、その内容があまりにも興味がなさすぎてやる気が落ち、捻くれた性格も合わさり勉強を怠った。
そして教師陣との面接だ。自慢ではないが自分は人見知りだ。スーツに眼鏡で挑んだ真夏の面接に緊張も相まって、眼鏡を伝う汗を初めて見た。
結果はご覧の通り。
さあ、馬鹿にするのはまだ早い。
なぜここまで就活や将来設計に身が入らなかったのか根本的な説明を聞く前に嘲笑うのは自分より阿呆だ。
そう。理由。理由だ。
親が金持ち?ノンノン。自慢じゃないが奨学金を借りてるすでに借金持ちだ。金に余裕はない。
ならば結婚するのか?ノーだ。それこそ冗談じゃない。絶対やだ。気持ち悪い。と自分を知る人間ならテンプレートとも呼べる返しを繰り返すだろう。
株でもやるのか?あいにく知識がない。
それではどんな理由があるのかって?
決まっている。
働きたくない。
そう。根本はこれだ。
自由な学生生活から一転、1日の3分の2以上を仕事に費やす行為がこの上なく嫌だ。
知らない人間に怒られるのも、知らない人間に迷惑かけるのも、仕事の付き合いという名の散財も、考えただけで滅入る。
さあ、ここで馬鹿にしろと言うと思ったか?
まだだ。
生きていれば金は必須だ。
どんなに働きたくなくても欲望を満たせないのは人間的には辛い。
特に自分のような書籍蒐集家は金が欠かせない。
ならばその為に働くべきだろうとお思いだろう。
しかし私は働きたくない。
それでも本は読みたい。
人並みに美味しいもの食べていい感じに暮らしたい。
だが働きたくない。
今ある財産を数えた。
およそ25万円。
1ヶ月およそ6万円と考えると、4ヶ月は暮らせる。つまり7月までは余裕で暮らせる。
そうだ、自殺しよう。
自分の頭にそうよぎった。
それまではいつも通り暮らし、そして死のう。続き物の本を読めないのは非常に残念だが、死んだら集められないから仕方がない。死ぬ予定の人間が働いたらそれこそ店が迷惑だ。なら就活しない方がいい。しなくていい理由と言い訳を手に入れた。
それに死んだ場合確か奨学金返済しなくて良かったはずだし、すごく良いのでは、とクズ中のクズの考えも浮かんだ。
なんとも明るいポジティブな考えのもと、私の死に方計画がはじまった。




