第五話
「ボクに毎晩、ベッドの上で『愛してるよ真琴』って囁いてよ」
亭主の壬生翔一郎が、おもわず腰を引きながら恐れ戦く。
「なっ、なに馬鹿なこと言ってんだよ。そんな恥ずかしいこと、照れくさくて言えるわけないだろ」
「ちぇっ」っとふて腐れる新妻真琴。
「照れくさいなら手紙でもいいからさ。毎日『愛してる真琴』ってラブレター書いてよぉ、翔兄ぃ」
「できませーん、却下」
真琴の口調を真似する翔一郎。
「ももいろ財務大臣殿、その提案は却下します」
壬生家の総裁として、ここは引くに引けないところだ。組織のトップとしての威信が掛かっている。
「ふーんだ、いいよ。じゃあボクも、インプレッサWRXの『ももいろ指紋認証スイッチ』を解除してあげないからねっ」
つまりは『朝のももいろチュウちゅうバトル』も開放してあげないと同義。国土交通大臣兼任の与党総理も舌を巻く、野党代表フレッシュな若妻議員の国会答弁だ。
このままでは、まずい。
幼馴染であるふたりが正式に入閣もとい入籍して約一年。早くも政権交代してしまうのは、火を見るよりも明らかだ。
ただでさえ鉄壁の「おこづかい事業仕分け制度」のマニフェストで、がっちり財布の紐を握られているというのに。
「じゃあ翔兄ぃ、そろそろ後半戦のスタートだよ。覚悟はいい?」
真琴がちいさな両掌で亭主の頬をむぎゅっと挟む。
「なっ」
翔一郎は成す術もなく、そのままぐいっと首を直角に曲げられた。
ファミリーカーWRXという愛の巣で、満面の笑みを浮かべる真琴。
彼女は叫んだ。
「ももいろエンジン、スイッチオン!」
妻の桃色エプロンにプリントされた、ヒヨコさながらの黄色い音色が車内に響き渡る。
ぶっちゅーう。
<了>
後半戦「翔一郎の逆襲編」はナイショでこっそりこってり書きますね。犬も食わない新婚夫婦の悶絶バトル。この続きが、一体何処で繰り広げられることやら。。。君にこの謎が解けるかな、名探偵?<組長>