第10話 不良冒険者
ギルドの裏側に回ると小型の闘技場くらいの広さの空間が広がっており10人ほどが各々に訓練をしているようだ。俺たちが入って来ても特に気にする様子もなく訓練を続けている。
「この辺でいいだろ。早速はじめるか」
丁度試合をするにはいい広さが空いていたので、そこで立ち止まり不良冒険者たちは話しかけてくる。
「さてと、どんな訓練がいい? おっ! そうだ、取り敢えず授業料は金貨1枚でいいぜ。先払いでも後払いでもいいが、おすすめは先払いだ。怪我の具合が軽くなるからな。へへへ」
しかし小物特有の笑い方をするやつだな。
周りが騒がしくなってきたと思ったら、酒場スペースにいた奴らがほとんどこっちに移動してきたんじゃないか? それもみんな楽しそうに「何分持つと思う」とか「泣くか賭けようぜ」とかヤジも含めて好き勝手言ってやがる。あいつらも一度教育した方がいいのかな? なんて考えていると
「おい!! お前ら、なにをしている?」
と、厳ついお兄さんが声をかけてくる。この人結構強そうだな。
おお、鑑定するとレベル32の素質ランクDだと!! オーガくらいの強さじゃないか。あっ! この人職業ギルド職員になっている。
「ダッジさん、タダの訓練ですよ、入ったばかりの新人に冒険者の基礎を教えようと思いましてね」
なんてことを不良冒険者がのたまう。俺には【ロラ】がいるから、お前らに教えて頂く必要はね~よ。しかしこのまま黙っていてもアレだし俺もそろそろ言っちまうかな。
「おい! 坊主! 今の本当か?」
おおお、言おうとしたらダッジさんから俺に振ってきたよ。ならばここは行くしかないな。
「いえいえ、ただ金寄こせってこの不良冒険者たちに絡まれただけですよ」と指さす、
「なっ! てめぇ、ぶっ殺すぞ!!」
あらら、職員さんの前でそれはダメでしょ。
「おい! ガラ!! おめ~ら、またそんな事やろうとしていたのか!!」
やっぱりこいつら、いつもやっているのね。さて、このまま行くとダッジさんにこの場をまとめられてしまいそうなので、こちらから言ってみるかな。
「すみません!! ちょっといいですか?」
不良冒険者に詰め寄ろうとするダッジさんを止め俺が話し始める。
「俺は全然気にしてないから大丈夫ですよ。それより不良冒険者の3人さん、俺と決闘しませんか? 賭ける物は全財産。あっ! 俺全財産そんなに無いから負けたらあんたらの奴隷になって荷物持ちでも囮でもなんでもやりますよ。どうです、この条件やりますか? もちろん3対1で構いませんよ」
俺の言葉に唖然とするダッチさんとギャラリーたち。
不良冒険者3人は顔を真っ赤にしてかなり頭にきているようだ。取り巻き達はこちらになんか言っているようだが無視だ。
よし、もう一息かな?
「俺の事が怖いならいいですよ。その代わり今後、新人から逃げたヘタレ冒険者と名乗って下さいね」
「てっ、てめ~!! やってやろうじゃね~か。奴隷にしてゴブリンの餌にしてやる」
おおお、簡単に乗ってきた。単細胞は楽でいい。これで臨時収入確定だ。まぁ、3人分の全財産っていっても、こいつらじゃ大した金額にもならないだろうけどね。
「では、ダッジさんでしたっけ? 立会人をお願いします」
ダッジさんにお願いする。
「構わんが、決闘なんかしてお前大丈夫か? こいつら素行は悪いが一応【アイアン】としてちゃんとした実力をもった冒険者だぞ」
「はい。特に問題ありません。負けても自己責任ですし」
心配してくれるダッジさんに軽く答えておく。
「おい!! くだらね~ことしゃべってね~で、さっさと始めろや」
「そうだ! そうだ! ぶっ殺す。さっさとやれや」
相変わらず品が無い連中だ。
「では、決闘を始める。お互い賭ける物は全財産。坊主は追加で自身の奴隷化で間違いないか?」
ダッジさんがお互いに条件の確認をとる。
「おう! 問題ね~から早く殺らせろ」
「構わねぇ!! さっさと殺すから始めろや」
「ぶっ殺す! ぶっ殺す! いいから早く殺させろ」
……ちょっと煽り過ぎたかな。
「はい、問題ありません。いつでもいいですよ」
「分かった。では始め!!」
掛け声と共に突っ込んでくる3人の不良冒険者。
しかし不良冒険者の威勢が良かったのはここまでで、5秒後には全員白目を向いて気絶していました。
戦闘(戦闘って言っていいか分からんが)の内容は、ただの蹴り3発で3人とも壁まで吹っ飛び終了でした。
あっ! 一応俺よりレベルが高かった為かレベルが1上がりました。レベルが上がった瞬間、一瞬殺してしまったかと少し焦ってしまったが、死んでなくても勝利が確定した時点で経験値が入ってくるらしく安心した。さすがにゴミみたいなやつらでも殺すのは気が引けるしね。
周りを見るとダッジさんやさっきまでヤジで騒いでいたギャラリー達もみんな目を丸くして固まって動かない。うん! だろうね、俺も昨日までだったら同じ反応していたと思うし。
さぁ、では戦利品を頂こうかな。
先ずは【探知術】の【宝玉感知】を使い手持ちのお金を回収。3人で金貨9枚、銀貨94枚、大銅貨6枚、銅貨67枚、トータル99,467コルドの収入だ。
この不良冒険者達思っていたよりかなり貯めていたな。お蔭でかなりの臨時収入になった。
さて全財産だから次は装備だな。ただ俺にはオッサン3人の鎧を脱がす趣味はない。女の子なら大歓迎なのだが……。よしここは、
「そこの取り巻き軍団!! その3人の装備をひん剥け!! あっ、服はいいや」
オッサンの着ていた服なんて着たくないし、裸なんて見たくない。
取り巻き達はビクビクしながら素直に俺のお願いを聞いてくれて、粛々とオッサンの装備を剥してくれた。
装備を回収したが、大した物はなさそうだ。唯一、力の指輪というそれほどレアでは無い物だが、筋力上昇の魔装具があったくらいが収穫だろうか。すべて【神倉】に入れ、最後に唖然としているダッジさんに挨拶をして受付に昼間倒した魔物の討伐報告と素材売却に向かう事にした。
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受付に戻ると、エレーラさんから心配そうに声を掛けてくる。
「大丈夫でしたか?」
「はい、訓練ですから、大丈夫でしたよ。それよりもエルセンに来るまでに倒した魔物が有るのですが、討伐報酬ってどうなりますか?」
エレーラさんは俺の言葉と怪我をした様子のない俺を見て安心したようで説明を始める。
「討伐報酬は3ヵ月以内に討伐した魔物の魔石なら有効です。お持ちいただければ討伐報酬をお支払い致します。現在お持ちですか?」
「はい、素材も一緒に持って来ているので買い取りも一緒にお願いしたいのですがいいですか?」
【神倉】の中で素材は解体済みなので一緒に買い取りをお願いする。
「畏まりました。ちなみに数はどれくらい有りますか?」
「えっとゴブリンが11体分、ブラックウルフが9体分、ビッグスパイダーが1体、オーガが1体ですね」
「…………はい? も、もう一度いいですか?」
何やらエレーラさんが動揺しているようだが、気にしないでもう一度説明する。
「えっと、ゴブリンが11体分、ブラックウルフが9体分、ビッグスパイダーが1体、オーガが1体です。解体はしてあります」
説明を終えると驚いた表情で固まるエレーラさん。
「あの~大丈夫ですか?」
俺が声を掛けると我を取り戻したようで、
「か、畏まりました。数がかなり多いようですが、アイテムボックスの中ですか?」
ん? アイテムボックスとは何ぞや?
『アイテムボックスとは【空間魔法】の一つで、生物以外のものを収納できる魔法です。容量は術者の魔力値や【空間魔法】のスキルレベルに依存します。【神倉】の劣化版と理解いただければよいでしょう』
なるほど、マティアス達が使っていた【空間魔法】の魔法名って事か、初めて知ったよ。
「はい、そうです。どうしたらいいですか?」
「こちらでは量が多いので場所を移動します。ついてきて下さい」
と言いエレーラさんはカウンターを出て奥に歩いて行く。それを「分かりました」と返事をして後について行った。移動した先はかなり広いスペースで入口近くに大きな台座が鎮座している。
大きな台座の前に移動すると「こちらにお願いします」と言われたので、持っている魔物の素材や、ゴブリンやオーガから回収した武器を出して並べて行く。
エレーラさん以外にも他の職員が集まって来ていたが皆一様に驚いた表情で「きれいな素材だな」「処理も完璧だ」「オーガまであるぞ」とか口々に言っている。
「これで全部です」
とエレーラさんに伝えると「では査定しますのでしばらくお待ちください。後ギルドカードもお預かりします」と言い他の職員と一緒に査定を開始する。
15分ほど待っているとエレーラさんから査定が終わったと声が掛かりカウンターへ移動する。
「すごく状態のいい素材でしたね。処理も完璧だとみなさん言っていましたよ」
すごく興奮したように話すエレーラさんに「解体は得意なので」とだけ答える。
「それにゴブリンやオーガから回収した武器もすごく状態がいいものばかりでした。かなり珍しいことですが」
素材も武器も【神倉】機能で、ある程度の傷や汚れは修復したからな。【神倉】さんは、まさに神能力だと思う。
「運がよかったのかな」とだけ答える。エレーラさんはまだ興奮していたようだったか、二つの布袋を出して、「こちらが討伐報酬分で、こちらが素材売却分になります。トータルで73,050コルドになります。ご確認ください」渡される。
俺は一応中を確認してすぐに【神倉】にしまう。それを確認するとエレーラさんがギルドカードを出してきて
「おめでとうございます。【アイアン】に特例でランクアップしました」
ん?【ブロンズ】ではなく特例で【アイアン】?
「えっと、【ブロンズ】ではないのですか?」
「はい、オーガを倒すような冒険者が【ブロンズ】なんてあり得ませんので今回特例で【アイアン】に2階級ランクアップさせて頂きました」
なるほど、そういう事か。でもオーガを倒したかどうかなんて確認しようが無いのにいいのだろうか? まぁ、くれるというのだし貰っておこう。
「ありがとうございます。これからもランクを上げられるように頑張りますね」
「レオンハルトさんならすぐに上がって行くと思いますよ。あっ! 自己紹介まだでしたね、私エレーラと申します。これからよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。エレーラさんの期待に沿えるように頑張ります」と答え、その後おすすめの宿屋とおすすめのお食事処を聞いて冒険者ギルドを出るのであった。
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