第1話 巨竜襲来
初投稿になります。まだまだ拙いですが、良い作品になるよう、頑張ってまいります。
今後共よろしくお願いします。
グゥォオオオオオオオォォォォ!!!!!
身体が硬直してしまうような咆哮が辺りに響き渡る。
足が竦み、その場で動けなくなり、只々目の前にいるそれに恐怖する。
そしてそれを見た俺は自分の一生がここで終わるんだと確信する。
2階建ての家を軽く超える黒い巨体、鋭い牙と爪を持ち全身黒い鱗に覆われ、禍々しい巨大な翼を持つ超生物。黒きドラゴン・黒竜
大陸最強である竜種が目の前で俺達の事を睥睨している。
俺は勇気を振絞り、もつれる足を無理やり動かし、俺の隣にいる小さな少年を庇うように黒竜の前に立ちはだかる。
闘う為の武器もなく、身を守る為の防具もなく、ただ両手を広げ震える足で立ちはだかり黒竜を睨みつける。
それが気に入らないのか、黒竜はもう一度大きく咆哮をあげ、次に俺達に向け口を開くと口の中に黒く禍々しい光が溢れ始める。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ドラゴンブレスだ!!
子供の足では逃げる事すら無理な事くらい俺にも分かる。
だから、糞みたいな10年という短い人生だったが、最後くらい堂々と誇り高く死んでやる。
俺は黒竜から視線を外さず覚悟を決める。
ドォゴオオオオォォ!!!!
!!???
黒龍が大きく息を吸い込みブレスを放とうとした瞬間、激しい爆発音が響き渡り突然黒竜の頭が爆発をおこす。
次の瞬間、俺の後ろから次々と人影が飛び出して黒龍に襲いかかって行く。
現れたのは立派な装備に身をまとった7人の戦士たち。
瞬く間に黒竜は剣で切り刻まれ、ハンマーで打ちくだかれ、槍で突き刺され、魔法の光で貫かれる。
彼ら7人が現れわずか数分で黒竜は断末魔の咆哮をあげ崩れ落ちた。
すごい!!たった7人で瞬く間に大陸最強種のドラゴンを倒してしまうなんて信じられない。
「おい! 坊主! 怪我はないか」
その場で呆然としている俺に、戦士の一人が声を掛けてきた。
混乱する頭で、なんとか頷き応える。
大きな手で頭を撫でられながら「よし! よく頑張った! 坊主、勇気あるな」と言われ
「あ、ありがとうございます」と俺は照れながら答えるのが精一杯だ。
「おい! 坊主! あの子はお前の弟か?」
そう言うと先まで俺がかばっていた少年を指差す。
少年を見ると女性の戦士が話しかけ落ち着かせている。
「ちがうよ! 黒竜から逃げている途中で蹲っていたあの子を見つけて、一緒に逃げていたんだ」
「そうか」と男は答えて俺の肩に腕を回し
「いいか坊主! まだ黒竜が多く王都に入り込んでいる。ここは危険だ。あのガキを連れて西門に向かえ、そこには多くの冒険者や騎士が市民を保護し王都からの脱出を手伝っている。俺たちは黒竜が西門に向かわないように、ここで抑えにゃならん。お前たちだけでいけるか?」
その力強い声に俺は勢いで頷いてしまう。
「よし、よく言った!! おい坊主、名前は?」
「お、俺はレオンハルト! みんなはレオンって呼んでいる」
「よし。レオン!! お前は戦士だ。お前なら出来ると俺は信じているからな」
力強く自信に満ちた声に俺も力が沸いてくる。
「うん! 俺、頑張る。ありがとう。おじさんの名前教えてよ」
俺の言葉に一瞬固まるおじさん戦士。
「お、おじさんじゃねぇよ、俺はまだ29歳だ!!! まぁ、いいや、俺の名はマティアス、冒険者だ。いいかレオン、約束だ。生きて再会するぞ」
力強い言葉に頷き俺たちはその場を離れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
マティアスと別れて西門に向かう俺たち2人。東の空を見ると30体を超える黒竜が王都の上空でブレスを放ち旋回している。
俺たちは必死に走るが子供の足だ、特に一緒に走っている少年はまだ5、6歳といったところだろうか。このままでは間に合うかどうか分からない。しかし諦めるわけにはいかない。マティアスと約束したのだから。
俺は少年を背中に背負うことにして、そのまま西門に向けて走り続ける。息が上がり心臓が激しく鼓動する。口から心臓が飛び出してしまうのではないかと思ってしまう。
意識が段々と朦朧としてくるが足は止めない。あと少しで西門だ。
最後の曲がり角を曲がり、西門が見えた時、やつは現れた。
王都を覆うような巨大な影。
空を見上げるとそこには先ほど対峙した黒竜がまるで普通の鳥に見えてしまうほどの巨大な黒竜が王都の上空を羽ばたいている。
あれはダメだ。あれは人がどうこう出来る存在じゃない。そう本能が訴えている。
足が再び震えだし動くのをやめてしまいそうになる。しかし俺はマティアスとの約束を心の支えに震える足を無理やり動かし西門に向かう。
引きずるように足を動かし何とか西門に着いた時それは起こった。
激しい爆発音が轟いたと思った瞬間、周辺の音と色が一瞬なくなる。その後強烈な爆風が俺たちを襲う。なんの抵抗もできず俺たちは吹き飛ばされ意識を手放した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
どれだけ気を失っていたのだろか、俺は目を覚ます。周辺を確認すると建物も城壁もすべて破壊され、西門周辺にいた人たちは生きているのか死んでいるのか殆どの者が倒れていた。
一緒にいた少年を探すが見える範囲にいない。まさかと思いさらに周辺を探すが見つからずひどい焦燥感が襲う。そんな中、王都の中央方向に目を向けて思考が停止する。
「な、な、なにが……」
それは凄まじい光景だった。
そこにはラングスター王国自慢の王都の街並みがあるはずだった。しかしそこには巨大なクレーターが広がっている。
そしてその上空にはあの巨大な黒竜が口から黒煙を吐き、王都を睥睨している。
に、逃げなきゃ、早くここから、離れないと。
そう思いふらつく足を叱咤し西門が在った場所から外に逃げるべく歩き出す。気持が急いて上手く歩けない。でも急がなきゃと1歩1歩、歩みを進めていく中それは現れた。
突然の突風が起こり吹き飛ばされかなりの距離を戻されてしまう。全身痛みが激しく、起き上がる事もままならない。
そしてそいつは俺のすぐそばに降り立った。
白と金を織り交ぜたその体はまるで神話を描いた絵画からそのまま出て来たように美しく、その巨体は王城すら遥かに凌駕する。その瞳には高い知性をたたえた巨大な白金の竜。
その白金の竜は先ほどの巨大な黒竜すら凌駕する大きさだ。
なにが、なにがここで起きているんだ? そしてこれからなにが起ころうとしているんだ?
俺はただ呆然とその光景を見るしかなかった。
そして事態は動く。
黒竜が白金竜に向かい襲いかかったのだ。
2体の巨竜が王都で闘う。それはなんの悪夢だ。このまま王都が消滅するのはもう覆ることはないだろう。そして俺が死ぬことも。
俺の目の前で激しく争う2体の巨竜。なぜ俺はまだ生きているのか? 激しい衝撃波に何度も飛ばされながらそれでも俺は生きていた。それは奇跡以外ありえないことだ。
2体の巨竜の争いは白金竜が圧倒している。黒竜は全身傷つきそれでも戦いをやめようとしない。
白金竜が止めとばかりにブレスを放とうとした瞬間、黒竜はブレスを恐れず突撃を仕掛ける。
そして黒竜は白金竜のブレスを放つと同時に巨大な黒き爪で白金竜の胴体を切り裂いた。
白金竜の身体の肉は抉れ、大量の血が噴き出し俺の下にも肉片や大量の血が降り掛かる。
黒竜はブレスにより肩が完全に抉り取られている。そのまま白金竜と距離をとりしばらく睨み合う。その後一度咆哮を上げ北に向かい飛び立っていってしまった。
その光景を俺は全身白金竜の血に塗れた状態でただ呆然とみていた。
俺は助かったのだろうか? そう思った瞬間突然頭の中に声が響く。
『人の子よ、貴様は我が血を浴びてなぜ生きている?』
???! 突然話しかけられたことも、何を言っているのかもよくわからない。だからただ、
「なっ、えっと……分かりません」
としか答えられなかった。
『ふむ、我が血は強烈な神気を帯びておる。普通の人間が浴びれば精神は壊れ、肉体は崩壊して行くはずだが……』
何を言っているんだ?
『人の子よ、そこにある我が肉を喰ろうてみよ』
えっ、えっ、何を……
『何をしておる、早く食らえ!!』
「わっ。分かりました」
迫力に押されて返事をしてしまう。仕方がない、どうせ今までも腐肉を食って生き延びてきたんだ。竜の生肉ぐらい平気だ、食ってやるさ。
そして近くにあった肉片を一つとり齧りつく。思ったよりも柔らかい。しかし肉を噛むたびに生臭い血の香りが口いっぱいに広がる。それを無理やり咀嚼して飲みくだした。
『ほぉ、死なずに飲み下すか』
おい! マジか? 死ぬと思って食わせたのか!? このトカゲ野郎!! と思うが声には出せずただ黙って白金竜を見る。
『人の子よ、貴様を良き所に連れていってやろう』
なんだ突然、この竜は何を言っているんだ?
ただ呆然と反応出来ないでいると突然、
『では行って来るがいい、人の子よ』
そう白金竜が言うと俺の身体は光に包まれ、文句も言う間もなく俺の意識は途切れた……
『ふむ、行ったか。まぁ、彼奴が帰って来ても彼の地で起こった事を覚えておらんだろうがな』
そして白金竜は廃都となった王都を飛び立っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
この日一つの国が滅びた。
大陸中央よりやや南東にそれた位置にあるラングスター王国。かつて史上最強の冒険者だったラングスターが瘴気の森から襲い来る魔物たちの対する防壁となる為に500年前に興した国。
故に多くの冒険者が住まう戦士の国だった。
その国が、2体の巨竜の戦場となり、多くの人と共に滅びた。
この災害により、スラムで野垂れ死ぬだけの人生だった少年の人生は、大きく様変わりすることになる。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。