ショートケーキおじさん
うわ、また来た。
「ショートケーキおじさん」
午後8時過ぎ、毎日やってくる客がいる。
まあ、客って言っても人じゃないんだけど。
私の働くここ「小さなおうち」はいわゆるケーキ屋さんだ。
ジャムおじさんのような店長が作るケーキは、絶品ってほどじゃないけど家庭的でおいしい。
特にショートケーキは、THEケーキって感じでよく誕生日なんかに買っていく人が多い。
このショートケーキには幽霊も虜にする魅力があるみたいだ。
私は幼いころから霊感が強いらしく、そりゃいろんなものが見えた。
片足、片腕、頭がない人がフラフラしてるのなんてまぁしょっちゅう見る。
そしてここにやってくる幽霊、通称「ショートケーキおじさん」は比較的まともな見た目ではある。
頭から血を流し、鼻血出しているけど両手両足ついている(ただ曲がっちゃいけないほうに足が曲がってはいるけれど)。
見たところ交通事故ってやつかな?と推理してみる。
私がここで働き始めてすぐに、おじさんはやってきた。
いつの間にか店の中にいて、ショーケースの前をフラフラする。
そしてショートケーキの前で、ピタッと止まってそこからなかなか動かない。
だからショートケーキおじさん。
一度だけ、おじさんの顔を真正面から見てしまった。
血だらけの顔でにやにやとして、夢に出てきそうな顔だった。
そしてある程度たつと店を出ていこうとする。
ただそこからがまた長いのだ。
玄関の前で何時間もじっとしている。
他のお客さんに見えていたら、あんな営業妨害はないって感じだ。
そしていつの間にか消えている。
おじさんは私の知る限り毎日同じ時間にやってくる。
きっとおじさんは自分が死んだということに気が付いていない。
死んだことに気づいていない霊は、最後の日を何度も繰り返すらしい。
まぁ、ケーキ買って帰るくらいだし、最後の日はいい日だったんかな?