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第46話 ※斎視点:斎の兄、司(3)

「貴斗君は完璧な計画を立てすぎたね」


 司は笑いながら肩をすくめた。


「嫌疑から逃れるための言い訳が自身もあやかしに襲われただなんて、手垢がべたべたついた化石並みの手法だよ。どうせなら、そこまで趣向を凝らすべきだ。正真君が生け捕りにすべきあやかしを殲滅しかけたのは、戦いたい一心だっただけ。脳筋だからね、正真君は。貴斗君はそれも読んでいたんだろう。しかし頭が凝り固まった上層部の時代遅れどもは、正真君が今回の犯人だと考えている」

「うわぁ。悪口しか言っていない……」


 青ざめる千尋に斎も苦笑いが誘われる。


「ですが、司様はなぜ黒澤貴斗を疑っているのですか?」


 千尋は司に尋ねた。


「匂いだよ。彼の霊気からは嫌な匂いがするんだ。血生臭さとでも言うのかな」

「匂いですか」

「うん。以前、人を呪殺する生業の呪術師を捕まえたことがあるんだけど、まさにそんな危険な匂いがした。そこで少し調べてみたところ、確かに彼の管轄の第二地区であやかしによる人的被害は少なかったが、小動物が殺されている事件が多かったんだ。あやかしの仕業で片付けられていたけど。しかし実は、それはあやかしで蠱術を行う前の練習だったんじゃないかとね」


 ――伊吹もいつか私から解放してあげたいです。


 茉莉の言葉を思い出す。

 人間の身勝手で、苦しみながら生み出された犬神を解放したいと願っていた彼女が聞けば、心を痛めることだろう。

 斎は膝の上で拳を作った。


「とはいえ、明確な証拠はないし、貴斗君が犯人なら疑いの目を向けないほうがいいと思った。対策を取られそうだからね」

「正真さんならいいのですか……」


 千尋がまた呟く。


「そんなわけでひとまず沈黙を貫いて、密かに証拠集めしている最中だったんだ。それで? 斎君はなぜそう思った? いや、なぜ貴斗君だと断定したのかな?」

「はい。まずはこちらをご覧ください。――黄金」

「ココンッ!」


 斎が黄金を呼び出すと、黄金はすぐに姿を現した。


「美しい狐だね。新たに式神にしたのかい?」

「いいえ。この狐が私に怪我を負わせ、傷に巣食った妖狐です」

「何だって!? ……まさか。妖気をまったく感じない。むしろ霊気すら感じる」


 司は訝しげに眉をひそめる。


「私も驚きました。確かに黄金は瘴気で私を苦しめた妖狐だったのですから。ですが、黄金が妖狐だったことは証明できます。――黄金、瘴気を」

「ココギュアンッ!」


 斎のかけ声とともに黄金は瘴気を一気に放つ。


「――っ!」


 司は反射的に結界を張った。


「黄金、ありがとう。もういい」

「ココン」


 再び声をかけると、黄金は体内に瘴気を取り込んだ。


「兄上、失礼いたしました。ですが、お分かりいただいたでしょう」

「まあね」

「力を取り戻し、実体化した時には霊気を持つ白狐に変わっていました。もしかしたら茉莉がずっと霊気を与えていたからかもしれません」

「茉莉さんが?」


 斎はこれまでの茉莉のことをすべて話した。

 斎の傷に巣食う妖狐に霊気を与えていたこと。犬神の世話を怠っても襲われることなく、むしろ茉莉に絡みついて離れなかったこと。千尋が半日寝込むほどの霊気量を毎日、犬神に与え続けてきたこと。現在は体が慣れてきたと言って、黄金とともに伊吹にも霊気を与えていること。そのせいで霊気が枯渇ぎみであることを。


「茉莉が言うには、この黄金も何かに巣食われ、侵食されていたそうです。瘴気を放って私を攻撃しているように見えたのは、私から霊気を奪って力を得て、自分の中のそれらを排除しようとしていたため。黄金もまた蠱毒の道具となっていたのです」

「なぜ茉莉さんはそのようなことが分かる?」


 司は眉をひそめる。


「彼女は深夜、黄金の体から何かが隆起するのを見たそうです。体のあちこちから隆起しては引っ込みを繰り返し、それにより黄金は苦しんでいたと。さらに本来なら一体につき一つある核、つまり生命の源が複数見えたそうです。黄金に関しては、彼女が霊気を与えたことで力を得た黄金が、他のあやかしを排除することに成功し、ただ一つになっ――」

「斎君待って情報量が多すぎる!」


 とうとう司は叫んだ。

 斎はもう一度最初からゆっくりと説明することにした。


「……なるほど。斎君の怪我も、蠱毒による事件だということは分かった。続いて茉莉さんのことだけれど、つまり何だろう、その。茉莉さんは霊気をうまく扱えないのに、霊気量は千尋君の倍はあって、飢餓で暴走する犬神も大人しくできて、見鬼の才に優れていて、妖狐を式神に変えるほどの能力を持っていると? ……斎君。君は一体何という女性を妻に娶ろうとしているんだ!?」

「ああ、まとめるとそうなるのですね。ですが、茉莉は茉莉です」


 自分でもおかしく思う。つい最近までは能力の高い妻を娶りたいと考えていたのに、気づけばそんなことも忘れ、北上条家を支える女性ではなく、自分という人間を支えてくれた女性に心惹かれていたのだから。


「話を戻しますが、黒澤貴斗が犯人だと断言したのは、これを解析したからです」


 斎は黄金と繋がる紐を持ち上げた。


「これは……」

「私と黄金を縛り付けている拘束術です。解析の結果、この術を施したのは黒澤貴斗だと分かりました」


 同じ術を使った場合でも、指紋のような独自性が出る。それを解析したのだ。


「証拠保存のために、この紐は切っていません」

「そうか。よくこの拘束術を実体化できたね」

「ええ。茉莉のおかげです。最初、私の目でも見えませんでした。それを茉莉が指摘したのです。靄の状態では切ることも、触ることもできませんでしたが、茉莉の霊気を込めることで実体化させたようです」

「うーん、なるほど。よく分からない……」


 司は苦笑いした。


「聞けば聞くほど茉莉さんには特異性があるようだね。まあ、でも証拠品が手に入ったのは幸いだ。これを証拠として、捜査令状を発付させよう。だけど急いだほうがいいな。貴斗君にも斎君が回復してきている話は耳に入って、焦っているはず。彼にとっても彼女の特異性は想定外だっただろうね」

「……はい」


 茉莉が来てくれなかったら、斎はいまだ瘴気に侵され続けていたはずだ。黄金も一度は戦い勝って取り込んだはずのあやかしたちが体内で暴れ、四六時中、瘴気を放つくらい余裕がない状態だった。斎が瘴気に倒れ、黄金も霊気を奪えなくなって共倒れするのを狙っていたのだろう。


「とにかく明日にでも中央本部に来てほしい。それと茉莉さんも一緒に。その子は黄金と言ったね。黄金も蠱毒によって再構成されたあやかしで、斎君をそのあやかしに襲わせたということを証明する必要があるから」


 生け捕りにしている変異型のあやかしと普通のあやかしを見せて、どちらが蠱毒かを確かめさせる試験をするということらしい。


「分かりました」


 そうして司との話を終えた。

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