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追放された俺、実はパーティ全員の死亡フラグを見ていました

作者: ギア丸
掲載日:2026/02/01

 その日、俺はパーティから追放された。


 理由は簡単だ。


「役に立たない」


それだけだった。


 ギルド併設の会議室。石造りの壁に囲まれた無機質な空間で、リーダーのガルドが腕を組んだまま、俺を見下ろしていた。


「なあ、正直に言うぞ。お前がいなくても、俺たちは回る」


 背中に冷たい汗が流れる。


 俺の隣には誰もいない。かつて背を預け合った仲間たちは、全員がガルドの後ろに立っていた。


「索敵も中途半端、戦闘能力は皆無。なのに口だけは出す。正直、足手まといだ」


 反論しようとして、言葉を飲み込む。

 何度も同じ場面を経験してきたからだ。


「次の《白葬回廊》だってそうだ。

 “全滅する”だの、“順路を変えろ”だの……縁起でもないことを言いやがって」


 ――違う。


 縁起でも何でもない。

 俺には、見えているだけだ。


 ガルドの頭上。

 赤黒い文字が、ゆっくりと明滅している。


 【死亡まで:残り1回】


 他のメンバーも同じだ。


 前衛の剣士、後衛の魔術師、回復役の神官。

 全員の頭上に、逃げ場のない赤が浮かんでいる。


「……最後に一つだけ言わせてくれ」


 俺は静かに口を開いた。


「今回の編成で、あのダンジョンに入れば――生きては帰れない」


 一瞬、沈黙。


 次の瞬間、嘲笑が弾けた。


「ははっ、まだ言うか」


「観測士気取りも大概にしろよ」


「不安を煽るだけのスキルなら、いらねえんだよ」


 ガルドが椅子から立ち上がり、宣告する。


「決まりだ。今日限りで、お前はクビだ」


 それで終わりだった。


 契約書にサインをさせられ、俺は会議室を追い出された。

 扉が閉まる直前、最後に見えたのは――


 全員の頭上で、赤い文字が点滅から固定に変わる瞬間だった。


 *


 俺の職は《観測士》。


 戦えない。回復もできない。


 代わりに、俺は“死”を見る。

 人の頭上に浮かぶ、死亡フラグ。


 それが見えるようになったのは、物心ついた頃からだった。


 最初は意味が分からなかった。

 数字が減り、ある日突然、消える。


 その直後に、その人はいなくなる。

 助けられなかった人も多い。


 助けた結果、もっと酷い未来になったこともある。

 だから俺は、学んだ。


 フラグは、必ずしも折るべきものじゃない。


 ギルドの外。

 夕暮れの石畳に立ち尽くしながら、俺は空を仰いだ。

 すでに、彼らは《白葬回廊》へ向かっているはずだ。


 あのダンジョンは“帰還率九割”。

 だがそれは、条件を満たした場合に限る。


 今日の時間帯。

 今日の順路。

 今日のメンバー構成。


 すべてが噛み合った結果――

 全滅ルートが確定している。


 今なら、まだ追いつける。

 俺が戻れば、フラグは揺らぐ。


 だが、その先に待つ未来を、

 俺はすでに一度、見ていた。


 ――だから俺は、歩き出さなかった。


 *


 翌朝、ギルドは騒然となった。

 《白葬回廊》攻略パーティ、帰還者ゼロ。


 瓦礫に潰された前衛。

 誤爆に巻き込まれた後衛。


 回復の届かない位置取り。

 すべて、俺が警告した通りだった。


 人々は口々に囁く。


「……あの追放された観測士、何か知ってたんじゃないか?」


 俺は何も答えなかった。

 答えられなかった。


 五人を救わなかった理由を、

 理解できる人間は、ここにはいない。


 ――そして今日もまた、

 俺の視界の端で、新しい赤が静かに灯っていた。



 その噂が広がるまで、そう時間はかからなかった。

 俺が《白葬回廊》の全滅を“言い当てていた”こと。


 そして、追放されたのが出発の直前だったこと。

 ギルドの受付嬢が、意を決したように俺に声をかけてきたのは、その日の夕方だった。


「……どうして、止めなかったんですか」


 責めるような口調ではなかった。

 むしろ、縋るような声音だった。


「あなたが戻っていれば、助かったんでしょう?」


 俺は答えなかった。

 代わりに、彼女の頭上を見る。


 【死亡まで:残り 63】


 まだ、赤くはない。


「一度だけ……」


 俺はゆっくりと口を開いた。


「一度だけ、同じことがあった」


 それは、数年前の話だ。


 別の街。

 別のパーティ。


 同じように、全員に“赤いフラグ”が立っていた。


 あのときの俺は、迷わなかった。

 必死に警告し、無理やり同行し、未来をねじ曲げた。


 結果――


 彼らは生き残った。

 だが、その“成功”の先で、世界は壊れた。


 魔王討伐が予定より早まり、

 本来なら封印されるはずだった災厄が解放された。


 一つの街が消え、

 数万人が死んだ。


 俺の視界は、そのとき初めて理解した。

 死亡フラグは、個人の死を示しているんじゃない。


 世界が破綻しないための“必要な犠牲”を示している。


 《白葬回廊》のパーティも同じだった。


 彼らが生き残れば、

 英雄として名を上げ、

 最短ルートで魔王に辿り着く。


 そして――

 世界は、耐えきれずに崩れる。


「……だから、助けなかった」


 受付嬢は唇を噛みしめ、何も言わなかった。

 正しいかどうかなんて、俺にも分からない。


 分かっているのは、これだけだ。

 俺は、五人を見捨てて、世界を選んだ。


 *


 それから俺は、どこのパーティにも属さなくなった。


 名前も、功績も、いらない。

 必要なのは、“見ること”だけだ。


 都市の片隅で、

 戦場の外で、


 俺は今日もフラグを観測する。


 折るべきもの。

 折ってはいけないもの。


 英雄の頭上に浮かぶ、輝かしい光。

 その裏で、静かに赤へと変わっていく未来。


 ――俺の役割は、ただ一つ。


 物語の表に立たないこと。


 誰にも感謝されず、

 誰にも理解されず、

 それでも世界が続くなら、それでいい。


 その日、俺は一人の少年を見た。

 まだ幼く、剣も持てない。


 だが、彼の頭上には――


 【死亡まで:残り 1】

 【確定】


 かつてのパーティよりも、

 ずっと重く、逃げ場のない赤。


 世界は、また選択を俺に突きつけてくる。

 俺は深く息を吸い、歩き出した。


 今回も、

 正解かどうかは分からない。


 それでも――

 見ることだけは、やめられない。


 それが《観測士》という役割なのだから。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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