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第6話 決意2

およそ1ヶ月ぶりの投稿です。本当に申し訳ありません。何卒これからもよろしくお願い致します。


名前に関して


望月悠真もちづきゆうま


白瀬澪しらせみお


白瀬薫しらせかおる

薫さんと入ったのはオシャレなカフェだった。


古びた喫茶店のドアを開けると、鈴の音がカランコロンと小さく鳴った。

 

大きな窓と吹き抜けの天井からの光が店内を明るく照らしている。カウンターの奥で年配のマスターが静かにカップを磨いていた。


「澪、入学式は元気にしてた?」

 

薫さんは注文したコーヒーを口にしながら、やわらかく尋ねた。

 

「……元気、だと思います。でも………。」


「そうでしょうね。」

 

暫しの沈黙の後、目を伏せ、カップの縁を指でなぞった。


ほんのわずかだけど、とても長い長い沈黙。その静寂を終わらせるように、薫さんはこう言った。


「あなたは、澪の特別だと思うの。仙台に来てからあの子の口からあなた以外の名前は聞いた事がないの。」


「そ、そうなんですか?澪が………?

 ……はい。澪は大切な人です。小さい頃からずっと。」


「えぇ、ありがとう。そして今あなたは澪と同じ高校同じクラスよね?」

 

「はい、そうですけど、どうしてそんなことを聞くんですか?」


「昨日私が澪に電話をかけた時、望月悠真くんが高校の同じクラスだよって言ってきたの。

 あの子、自分から誰かの話をするなんて滅多になくて、それが小さい頃いつも一緒にいてとても仲の良かったと聞いていた悠真くんだったからこれは運命だと考えたわ。だから実はね、今日私はあなたに会うために仙台からここまで来たの。」

 

「えっ、どういうことですか僕に会うため?何のために?」


「あなたに伝えておきたいことがあるの。聞いてちょうだい。」


 僕は、まだ訳が分からなかった。でも話を聞きたいと思った。あの日の後の澪のことを知りたい。その気持ちが全てだった。




 


 

 

「あの子が仙台に来たばかりの頃は、本当に人形のようだったのよ。泣かないし、笑わない。声をかけても、まるで世界の音が聞こえていないみたいでね。

 中学に上がってもしばらく学校を休みがちで、友達もできなかったの。」


コーヒーの香りが、かすかに苦かった。

 

「でも、あるとき少しずつ変わっていったのよ。表情が出るようになって、穏やかに話しかけてくれたり。……その時は、やっと立ち直ってくれたのだと思ったの。」


おばあちゃんは、そこで少し言葉を切った。

 

「――でもね、それは違ったの。」


「違った……?」


「あの子が中学2年生のある日ね、掃除をしていたときに、澪の机の引き出しの奥から偶然、分厚いノートを見つけたの。

 最初は、ただの日記だと思って開いたの。けれどそこには……“五年間分の予定”が書かれていたのよ。」


「……五年間分の予定?えっ…どういうことですか?」


「澪の5年間分の予定が事細かに書いてあったのよ。あの火災があった日を初めとして。

 そしてね…5年後の1月16日にはね、『おわり』って書いてあるのよ。ただそれだけ。ページをめくるたびに、胸の奥が冷えていくようだったわ。

 

 わたし、震えが止まらなかった。何とかしなきゃと思って、怪しまれないようにではあるけどあの子に話しかけてみたり、病院にも連れて行こうとしたわ。でも……あの子は結局、一度もその話をしてくれなかった。私には心を開いてくれなかったわ。」


おばあちゃんは静かにカップを見つめた。

 

そこには、自分の無力を噛みしめるような沈黙があった。

 

「これは澪の予定日記を見た私の憶測ではあるけど、あの子はきっとあの火災を自分のせいだと思ってしまっているのだと思うわ。直接聞いたことは無いけれど、あの子の日記には、『懺悔』とか『私のせい』とか『ごめんなさい』とか、消された文字の痕跡がいくつも残っていたわ。

 わたしね、あの子のことを守るって決意したのに……何もできなかったのよ。あの子の日記を見た後は尚更、知っていても、あの子の心に入りたくても入れなかったの。もうあの子のことを考えると涙が止まらなくて…

 これが私の知っている澪のことよ。」


また静寂が訪れた。今度は永遠かと思うほどの、長い長い沈黙。


薫さんはどんなに苦しかっただろうか?助けてあげたいけど心を開いてくれない、自分の前では自然に振る舞う澪を見て薫さんはどう思っていたのだろうか?

僕の胸は張り裂けそうだった。

 





 


しばらくして、沈黙を破ったのは僕の声だった。


「実は昨日……入学式のあと、澪に言われたんです。」

 

「言われた?何を?」

 

「“この街には自分の人生を終わらせるために帰ってきた”って。」


おばあちゃんの目が見開かれた。

手の中のカップが、かすかに震えている。

 

「……そんなことを……あの子が、自分の口から?」


僕は頷いた。

言葉が出なかった。おばあちゃんは唇を押さえ、しばらく目を閉じていた。

長い沈黙のあと、震える声で言った。


「あなたには話してくれたのね。あの子が自分のことを語るなんて……それだけで、奇跡みたい……。」


おばあちゃんは、ゆっくりと顔を上げた。

その瞳には、涙と一緒に、かすかな光が宿っていた。


「悠真くん、わたしには、無理だった。あの子はわたしに心を開いてはくれなかったわ。私は日記を見ただけ。でも、あなたなら出来るかもしれない。あのこが心を開いてくれるかも知れない。あの子をもう一度生きさせて欲しい。救ってあげて欲しいの。お願いします。あの子を…澪を救ってあげてください。」

 

薫さんはそう言って立ち上がり、頭を下げた。


「やめてください、薫さん…。

 僕は、きっと薫さんが今まで澪を救って来たんだと思います。

 日記の5年後には『おわり』って書いてあったって言っていましたよね?もし本当に諦めていたら、もっと早い段階で、心が折れてしまっていてもおかしくなかったと思います。でも澪はそうしなかった、澪は少なくともまだ生きてる。薫さんが澪を今まで繋ぎ止めていたんだと思います。薫さんの前では自然に振舞っていたっていうのも、澪のことだから、きっと、薫さんをこれ以上悲しませたくなくて……だから何でもないふりをしていたんじゃないですか?」


薫さんは目を見開いて驚き、


「そんなことを言ってくれて、ありがとう…

 本当にありがとう…………」


と言って、しばらくうずくまり動けなかくなってしまった。






「今日は、本当にありがとう。」

 

「こちらこそありがとうございました。」


薫さんが落ち着いて外に出ると僕たちはそう挨拶して別れた。


別れ際に薫さんが、薫さんの連絡先と、澪の連絡先と、住所が書かれている紙を渡してくれた。


「もう一度澪と会おう。」


そう呟いた僕の独り言は、真上に昇った太陽の光に祝福されるように消えていった。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。


評価、コメント、ブックマーク等、気軽にして頂けると幸いです。


今後もよろしくお願い致します。


 

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