第5話 決意1
前回からの続きになります。
名前に関して
望月悠真もちづきゆうま
水澄澪みすみみお
白瀬澪しらせみお
白瀬薫しらせかおる
何があった?
何が起きた?
意味がわからない。
どうしてだ?
終わらせるってどういうことだ?
どうしよう?
どうすればいいんだ?
僕の心の内は暴風の吹き荒れる台風の中のようだった。ぐるぐると思考の渦が、僕の周りをとてつもない速さでうずまき、その景色を凄まじい速さで奪い去っていく。
「澪が、殺した?澪の、家族を?」
何度考えても信じられない。彼女の言葉を胸の中で反芻する度、頭の中がシェイクされるような感覚になる。
でもやっぱり、今日話した澪は何かを抱えていた。だからそれを聞きたいと思って聞いた。でも僕はただ混乱しているだけじゃないか。
きっと何かが澪を狂わせているのだろう。その何かは、澪が語ってくれたあの話のことなはずだ。
「でも、分っかんないよ。なんで…、あの火災は事故だったはずだ。澪は誰も殺してなんかいないはずじゃないか。」
夜の気配が滲む遊歩道で、そうつぶやいて、僕はアスファルトを蹴り、逃げるように走り出した。
どうしたらいいか分からなかった。ただただ走ることしか出来なかった。
高校の入学式は土曜日だったため、翌日は日曜日だった。
朝は汗だくで、目が覚めた。最悪な夢を見た。
澪がどこかまた僕の手の届かないところに行ってしまうという夢だ。悲しい夢だった。でも妙にリアルで、僕はこれから澪がそうなってしまうんじゃないかと予期してしまい、怖くてたまらなかった。
「悠真ー、今起きたのー?もう10時よー」
「はーい、ごめん、母さん」
胸の奥の重たさを引きずりながら、キッチンで僕を呼ぶ母さんにそう返した。
寝不足の眠い目を擦りながら布団から這い出た僕は、リビングへと階段を下っていく。
「珍しいわね、いつも早起きの悠真がこんな時間に起きるなんて。昨日の入学式で、はしゃいで疲れちゃったの?」
「……!そんなんじゃないよ」
「あら、ごめんなさい」
思ってもみないのにぶっきらぼうな声をあげてしまった。
「いや、ごめん。」
気まずくなってしまい、朝食をとるとすぐに、僕は当てもないのにそそくさと外に出た。少し風が強く、春なのに、どこか冷たかった。
なんとなく、昨日、澪と歩いた道をもう一度歩いてみようと思った。理由なんてなかった。ただ、自分でもどうしたらいいか分からなくて気づいたら脚がそっちに向かっていた。
玄関を出て、通学路を抜け、駅を通り過ぎ、川沿いを歩く。昨日と同じ風景なのに、やけに静かだった。
澪の「終わらせるために」という言葉が、頭の奥で何度も反響する。
まるで呪文みたいに僕の頭から離れてくれない。
「……どういう意味なんだよ、澪。」
そうつぶやいて、川辺のフェンスにもたれかかった。
行き交う車の音が遠くで混ざっている。
澪の顔と声がまた僕の胸の中を掻き乱した。
ふと、華やかな花の香りがした。
顔を上げると、駅前の花屋の前で、小柄な初老の女性が花束を選んでいた。
グレーのカーディガンに紫のスカーフ。
いつだったかどこかで見たような気がして、しばらく立ち止まる。
その時、女性がこちらに気づいて、驚いたように目を大きく開いた。
「あら……もしかして、悠真くん?」
名前を呼ばれて、思わず反射的に返してしまった。
「え、あ、はい……えっと、どちら様ですか?」
女性は少し驚いたように笑って、花束を胸に抱えた。
「やっぱりね。澪からよく聞いてたのよ。小さいころ、とっても仲が良くて一緒に遊んでたって。」
その言葉を聞いて、全てが繋がった。
――澪のおばあちゃんだ。
「……もしかして、澪のおばあちゃんですか?」
「そうよ、澪の祖母の、白瀬薫といいます。
まさか、こんなところで会うなんてねぇ。小学校4年生くらいだったかしらねぇ、会ったこともあるのだけど覚えてる?」
僕は少し照れくさくなって、頭をかいた。
「そうだったんですね……なんか、すみません。忘れてて。」
「謝ることなんてないわよ。」
そう言って澪の祖母ーーー薫さんは穏やかに笑った。
その笑顔がどこか昔の澪に似ていて、胸が締めつけられる。
「立ち話もなんだから、少しお茶でもどう?さっき良さげなお店を見つけたの。」
断る理由なんて、なかった。
「あっ、……はい、是非。」
そうして僕は、薫さんと並んで歩き出した。
冷たかった春の風が少しだけ柔らかくなった気がした。
最後までご覧頂き、ありがとうございました。
今回の作品は元々1話で構成したいたものを長さの兼ね合いから半分にしてお送りするものとなります。少々短めですが、よろしくお願いいたします。
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