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第4話 再開3

前回からの続きになります。




名前に関して


望月悠真もちづきゆうま


白瀬澪しらせみお


「――悠真くん。……久しぶり。」


その声を聞いた瞬間、胸の奥で何かが静かに弾けた。


嬉しかった。ただ嬉しかった。また澪に会えた。


「澪……。」


懐かしさと緊張が入り混じって、声が少し震えていた。


「なあに、悠真くん。」


微笑んだように見えた。


けれど、その表情の奥にはどこか硬さがあった。

あの日の記憶のせいか、それとも僕の心がそう見せているだけなのか、判断がつかない。


「あ、いや、その……久しぶり。小学校の時以来だね。元気だった?」

 

「うん、まぁ、元気だよ。」


短く答える声。春の風がその言葉をさらっていった。


少しの間、二人の間に沈黙が流れる。


通りを渡る学生たちの笑い声が、遠くに霞んで聞こえた。


「仙台に行ってたって聞いたけど、こっちに戻ってきたの?」


「うん。こっちの高校に入学するって決めたから。」


「そっか。」


言葉が続かない。

彼女の目を見て話すことが、どうしてもできなかった。


何かを言い間違えれば、すぐに壊れてしまいそうで――それが怖かった。


澪が小さく息を吸い、そして視線を逸らした。


「そろそろ行くね。」


その一言に、心臓がひやりとした。

去ってしまう――また、届かなくなる。

その感覚が体の奥を突き抜ける。


彼女の背中が、ほんの少しだけ揺れた。

その瞬間、僕は彼女にまたどこかに行って欲しくなくて、自然と口から言葉を発していた。



「澪!――ーこの後、時間ある? 少し、付き合ってくれない?」


春の光が、ふたりの間に静かに差し込んでいた。

澪は少しの間、黙っていたけれど、やがて小さくうなずいた。


「……うん、いいよ。少しだけなら。」


僕らは並んで歩き出した。






 

僕と澪は言葉は少なかったが、沈黙は不思議と心地よかった。互いに一緒にいる時間を噛み締めていられるようなそんな感じがした。

 

道端のチューリップが風に揺れ、遠くで子どもたちの笑い声がした時、僕は澪にふと話しかけた。


「この通り、懐かしいね。」


「うん。小学校の帰り、よく通った。」


「アイス買って、すぐ落としたの、まだ覚えてる?」


「……そんなことまで覚えてるんだ。」


「そりゃ覚えてるよ。澪が泣いたから。」


短い会話の間に、過去の懐かしさがふっと戻ってくる。


けれど、その懐かしさは少し辛かった。

それは彼女が笑っても、その瞳の奥に影が差しているように見えたからだった。

それほどあの日の火災は彼女の心を焼いたのだろうと密かに思った。

  



僕らの目的地は、駅近くの小さなカフェだった。そこで、ゆっくり澪と話がしたかった。


店に入ると澪はストレートティーを頼み、僕はアイスコーヒーを注文した後、窓際の空いている席に向かい合って腰を下ろす。


「こうして悠真くんと話すのも、なんか変な感じだね。」


「うん。でも……なんか、嬉しいよ。」


「そっか。……私も。」


ほんの少しだけど、でも確かに澪が笑った。

それは幼い頃と同じ笑い方だった。

あの無邪気な日々の澪が、一瞬だけ戻ってきたように思えた。


僕もつられて笑う。

ガラス越しの午後の光が、彼女の髪にやわらかく反射していた。


けれど――

カップを持つ指が、かすかに震えているのに気づいた。

目を伏せた拍子に、彼女の瞳から零れ落ちた雫が頬を伝い、紅茶の水面を揺らす。


「えっ、ど、どうしたの澪」


僕が焦ってそう声をかけると澪は


「ううん、ごめんね。何でもないの。」


と言ってなかなか止まらない涙を拭っていた。



 

澪が落ち着いた後はまたお互いの話をしてカフェを出た。

その頃には、陽が傾きはじめていた。


澪が「少し歩こう」と言い、僕らは川沿いへ向かった。


水面が金色に染まり、空の端から夜がにじんでいく。そんな時空を見上げて澪が


「なんかさ、今日の空、すごく綺麗だね。」


「うんそうだね。……澪も、そう思うんだ。」


「うん。でも、綺麗って、どこか怖いよね。簡単に壊れてしまいそうで。」


その言葉に、胸がざわめいた。

笑っているのに、まるで別れの挨拶みたいだった。

別れたくない。離れて欲しくない。そう思って僕は今日1日中、澪に会った時から胸にしまってあった事を言おうと決意した。

 

「ねぇ澪、この街に戻ってきてくれた理由……聞いてもいい?」


「……聞かない方がいいよ。」


「それでも、知りたいんだ。」


澪は少しだけ目を閉じて、夕風に髪を揺らした。

そのまま小さく息を吐き、川の向こうを見つめる。


「……わたしが殺したの。」


「……え?」


「わたしが家族を殺してしまったの。」


その言葉は、ただただ淡々としていた。

でも、声の奥にある震えが、すべてを真実に変えてしまう。


「えっ、それって……どういう――」


言いかけた僕の言葉を、澪は静かに遮った。

 

「悠真くん、もういいの。話すと、全部壊れちゃうから。」


その声は微かに震えていた。

けれど次の瞬間、まるで自分に言い聞かせるように続けた。


「……私ね、この街に戻ってきたの。

 もう一度、人生を楽しむためじゃなくて――終わらせるために。」


風が止んだ。

水面に映る夕焼けが、ゆらりと揺れた。

その言葉の意味を理解するまでに、少し時間がかかった。


澪はゆっくりと立ち上がり、川の方を向いたまま言った。


「だからね、今日話せてよかった。ほんとに。

 このことを話したのは悠真くんが初めてだよ。

 なんでだろうね。誰にも話さないって決めていたの

 に。ごめんね。」


そう言って歩き出す。

足音だけが残り、世界が急に冷たくなった気がした。


沈みかけた夕陽が川面を赤く染め、

その光の中で、澪の背中だけが遠ざかっていく。


僕は追いかけようとした。

でも、足が動かなかった。

喉の奥に詰まった言葉が、どうしても形にならなかった。


風が吹き抜ける。

桜の花びらが、ゆっくりと流れに落ちていった。

それがまるで、過去の欠片のように見えた。


澪の姿が夕闇に溶けていく。

残された僕だけが、立ち尽くしていた。

各作品後書きテンプレ

最後までご覧いただき、ありがとうございました。


評価、コメント、ブックマーク等、気軽にして頂けると幸いです。


今後もよろしくお願い致します。


 

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