表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

第3話 再開2.5

前回からの続きになります。




名前に関して


望月悠真もちづきゆうま


水澄澪みすみみお


白瀬澪しらせみお


倉田将暉くらたまさき


春町桃華はるまちとうか

朝起きて、カーテンを開けた。


澄み切った青空に、わたあめのような雲が点々と浮いている。

 

父さんと、母さんと、弟が死んだあの日も、こんな晴天だった。 

どうして、あの日は、空だけはあんなに綺麗だったのだろう。

  

そう思いながら私、白瀬澪は、朝の寝室を出た。

 

中学の三年間は、祖母の住む仙台で過ごした。

けれど、高校入学を機に、私はもう一度この街へ戻ってきたのだった。今日でこの街での生活は1週間弱になる。

 

日課となっているカレンダーを確認する。

最初は1500枚以上あった日めくりカレンダーもあと281枚。白瀬という名前を使い始めてもう4年、随分と時間が経ったものだと感じる。

 

朝食を食べ終え、洗い物をしながら部屋を見渡す。一人暮らし用の賃貸アパートの一室は、よく掃除が行き届き、窓から光が差し込んでいた。

 

室内を見ながら、よくおばあちゃんは私の一人暮らしを許してくれたなと思いつつ、寝室に戻り洋服がしまってあるクローゼットを開ける。

 

中から真新しい純白のセーラー服を丁寧に取り出し、着替えを済ませた。通学バッグを肩にかけて、最後にもう一度身だしなみを整える。


今日の私の目的は大きく2つある、ひとつはしっかりと新しい学校の入学式に参加すること。

 

2つ目は、高校の同じクラスにいるであろう私の初恋の人、望月悠真くんのことだ。

 

名簿で名前を見てからずっと会ってもいいのか、話をしてもいいのか考えているが、未だ全く決まっていない。

多分彼のことを思うなら私は彼に会わない方がいい。一も二も迷うことなく会わないべきだ。なのに決められない。


「ほんと、どうしてだろう。」

 

そう呟いてドアを閉めた。

春の風が、頬に触れた。



 



入学式が終わった。結局、悠真くんとはどうするのかを決められなかった。

いざ彼を前にすると、なおさら迷ってしまう。頭では会うなと言っているのに、心では悠真くんに会いたいと叫んでいるような気がした。そんな自分に密かに戸惑った。





  

結局何も話さなかった。これで良かったはずだ。そう思いながら校門を出たところで、後ろから追うように歩く足音に気づいた。


最初は誰かの靴底の小さなリズムだと思っただけで、振り返る気持ちすら起きなかった。けれど、足音は確かに私の背後を追ってくる。


ほんの少しだけ、肩越しに視線をやる。濃い影の中に見覚えのある輪郭があった。驚きが先に立ち、次に、嬉しさと恐れが同時に押し寄せる。悠真くんだった。私の少し後ろを私の方を見ながらひとりで歩いて来ていた。


どうしよう、という考えが刃のように私の中で折り重なる。


彼には、会ってはいけない。話してはもっとダメだ。言葉にしてはいけない過去、数え切れない悲しみ、そして私が決めたこと――。彼に会えばそれらが揺らぎ、崩れ落ちてしまう。彼の存在は、私が閉じてきた傷のふちを指先でなぞるようなものだった。


私はただ、足を動かすだけしか出来なかった。声をかけられたらどうしよう。悠真くんは無視されたら、どう思うだろう。私は一体ここで何をしているのだろう。問いが次々と流れ込んでは、どれも答えを得られないまま、心の奥で泡のように消えていく。どんどんと時間だけが流れた。


彼も私に追いつこうと、足を早めたのかもしれない。彼の呼吸と靴音が、静かに距離を詰めてくるのがわかった。


春の風が通り、桜の花びらがひらりと舞った。光はいつもの通りに優しく、世界は変わらず回っている。


幼い日のことが、ふっと顔を出す。

公園のブランコ、放課後の約束、並んで食べたアイスの甘さ。思い出は古いフィルムのように淡く色褪せているが、触れるとあの日の匂いがする。


火事の夜のことも、ふっと浮かんではすぐに影を落とす。あの匂いは、私を何度も何度も目覚めさせる。目を閉じれば、あのときの光も熱も、叫びも胸に押し寄せてくる。


私は息を止めて、一瞬だけ全てを過ぎ去る景色に預けようとした。だが、預ければ預けるほど、何かを失う気がして怖かった。


その時彼が、私の肩越しに小さく息を吐いた気配がした。


それは気のせいだったのかもしれない。でも私は悠真くんがすぐ近くに来ていると感じた。振り返れば、すべてが動き出す。振り返らなければ、何も変わらない。ただ、私の心の底の悠真くんに対する思いが私を動かした。


私はゆっくりと、しかし、確かに、足を止めた。風が吹き、顔に髪がかかる。目の前の世界が少しだけ鮮やかになる。彼の姿がはっきりと定まった。


瞳が合った瞬間、悩み迷っていたはずなのに、言葉が自然と喉を通った。


「――悠真くん。……久しぶり。」


私は自然と唇の端を引き上げ、小さく笑った。それがどれほど久しぶりの表情か、自分でもわからなかった。


お遠い昔の日の無邪気な私が再び私の中で息をし始めた。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。


評価、コメント、ブックマーク等、気軽にして頂けると幸いです。


今後もよろしくお願い致します。


(注)12月5日 15行目訂正602→281

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ