第1章 転生と決意
目を開けると、そこは真っ白な空間だった。
光も影もなく、ただ広がる白。自分の体すら輪郭が曖昧で、夢の中にいるような感覚。
「……え、ここどこ?」
ぼんやりした頭でつぶやいた瞬間、どこからともなく声が降ってきた。
『よくぞ来たな、異界よりの魂よ』
「うおっ!?」
反射的に飛び退く。声の主は、いかにも神様っぽい白髭の老人だった。金色の衣をまとい、背には意味不明な羽が八枚も生えている。
「じ、じゃあ俺……死んだんですか?」
『うむ。トラックに轢かれてな』
「やっぱトラックかよ!」
テンプレすぎて逆に笑えてくる。
『安心せよ。お主には異世界で生き直す権利を与えよう』
「マジっすか! チートとかスキルとか貰えるんですよね?」
ここまで来たらベタ展開でもありがたい。どうせなら勇者的な何かをもらって、俺TUEEEしたいじゃないか。
『与えるスキルは――“努力が必ず報われる”』
「……え?」
予想外すぎて固まった。
『剣を千日振れば、剣聖を超える力を得る。魔法書を全部暗記すれば、大賢者を凌駕する知識を得る。だが、努力せねば何も得られぬ』
「……いやいやいや。努力って、普通だろ? もっとこう、“一瞬で最強”みたいなのは……」
『無い』
「ちょっ……」
がっかり感は否めない。けれど、よく考えたらこれはこれで最強じゃないか?
努力すれば絶対に報われる。つまり、限界までやれば最強になれる。
そして俺の胸に、とある欲望が芽生えた。
(あ……あれだよ。俺、あの台詞言いたいんだよな)
脳裏に浮かぶのは、ラノベやアニメの主人公が敵を圧倒した後にドヤ顔で言う、あの決め台詞。
――“あっ、俺……なんかしちゃいましたか?”
あれを言うためだけに、俺は最強を目指す!
「よし……神様、異世界に送ってください! 俺、がんばりますから!」
『……理由が軽すぎぬか?』
「いいんです! 俺の人生の目的はもう決まりました!」
こうして俺は、異世界での第二の人生をスタートさせた。
目標はただひとつ。
「あっ、俺……なんかしちゃいましたか?」を完璧に言うために。




