第3話:歌う秘密
庭園の月明かりが、私たち二人を静かに照らしていた。
「アリア、君は……不思議だ。」レオンがつぶやく。
「え?」思わず振り返る。
「まるで、別の世界から来たみたいだ。」
本当のことは言えない。異世界から来たことも、私の魔法の力も――。
庭園の奥には、先日の毒事件の影がまだ残っていた。幻の花――触れれば幻覚を起こす危険な花が、ひっそりと咲いている。
「……危ない!」
レオンが私を庇い、体がぶつかる。鼓動が速くなる。
私は深呼吸して、歌声を心に響かせる。
「♪ 毒の鎖を解き放て、愛の光で癒せよ ♪」
すると光が庭園に広がり、花は枯れ、危険は消えた。
――魔法の力が、私の歌とともに発動する。
「すごい……」レオンの声が、いつもより優しい。
「ありがとうございます。でも、毒の元はまだ分かっていません。」
庭園を注意深く見渡すと、姫君のライバル貴族が庭の影に隠れているのを見つけた。
「……あの人が犯人ね。」
私が静かに指をさすと、レオンは鋭い目で頷いた。
「君は本当に観察力が鋭い。私も手伝う。」
二人で慎重に近づき、証拠を押さえる。ライバル貴族は言い訳もできず、動揺している。
「あなた……なぜこんなことを?」私は問いかける。
「嫉妬だ……姫君に勝ちたかったんだ!」
事件はこれで一件落着。だが、レオンの視線は優しく、私に向けられていた。
「アリア……君の歌声、魔法……本当にすごい。」
胸が熱くなる。私も、ほんの少し勇気を出して言う。
「でも、宮廷はまだ危険がいっぱいです。私だけで守れるか……」
「僕がいる。」レオンが手を差し伸べる。
その手の温かさに、思わず握り返してしまう。
――心臓の音が、庭園の静けさに響く。
しかし、喜びに浸る暇はなかった。宮廷の闇は深く、まだ見えない陰謀が私たちを待ち受けている。
「次の毒……まだ始まったばかりだわ。」
私は拳を握り、心の中で誓う。
――誰も傷つけさせない。
その夜、私は自室で日記を開く。
「今日も無事に事件を解決。だけど、宮廷は危険でいっぱい……」
文字を綴りながら、ふと顔を上げると、窓の外に月明かりに照らされたレオンの姿が見えた。
――次に何が起こるのか、まだ誰も知らない。
こうして、私――アリア・ローズの宮廷での日々は、危険と恋と魔法に彩られたものになっていくのだった。