不死鳥を飼う姫
【1.ソウェア山】
ソウェア山に辿り着くまでは、一番最寄りの村からでも長い距離を歩かなければならなかった。
この辺りは木が生えておらず、なだらかに続く丘は一面緑の草で覆われていて、たまに牛たちが放牧されているのを見かける。
一見のどかな風景。
スタン・ゲントナーはふうふう息を切らしながら、それでも力強い足取りで山への道を歩いて行く。
見晴らしがよいので、ソウェア山は道中、ずっと目の前に見えている。
ただその山の様子は、周辺の緑の丘と全然雰囲気が違って厳つく、ごつごつとした岩肌がむき出しだった。
そして、まだ離れているにも関わらず、スタンはずっと何か異様なものをその山から感じているのだった。
そもそもスタンがソウェア山に来ることになったのは、親交のあるダルテ伯の命令だった。
スタンは男爵家の気ままな三男だったが、父や兄の事業を手伝わされている間にダルテ伯と知り合うことになり、やや強引なダルテ伯の性格も相まって彼に便利遣いされるようになった。
このダルテ伯は多方面に忙しい人だった。
事業会社もいくつかやっていたし、文化人でもあり、王立科学院の上級委員も務めている。
この王立科学院の仕事というのが厄介だった。というのも、現在に至っても『占い』や『まじない』といったものがまるで真実のように市中に蔓延っており、それ関連の本が出版されればたちまちベストセラーになるほど受け入れられていたからだった。
ダルテ伯は合理的な性格だったので、王立科学院では『占い』や『まじない』を科学的に分別するという仕事を好んでやっていた。
具体的に言えば、家の勝手口にお札を貼ってある呪文を唱えれば「ネズミはその家には入れない」という『まじない』が市中で人気だが、ダルテ伯は新築の家にその『まじない』を施しそれでもネズミが棲みつくという『実験』を行って、科学的に否定していったのである。(※もちろん『実験』をするのはダルテ伯ではない、スタンのような彼の便利屋たちだ。)
そしてある日、そんなダルテ伯のもとに『魔女の滅びの予言』といったものが持ち込まれた。
勝気なダルテ伯はすぐさまこれを否定しようと、滅びの予言を精査した。
その結果、予言された場所がソウェア山付近のことであり、文献によるとソウェア山は数十年おきに定期的に噴火する火山だったが、なんと前回の噴火から100年近く経つのにまだ噴火していない、ということが分かった。
ダルテ伯は、『魔女の滅びの予言』自体はどうでもよかったが、「噴火すると予想されるのに噴火していない」という事実はたいへん重く受け止めた。
それで、スタンが呼ばれたのである。
「スタン、ソウェア山を見てきてくれ」
とダルテ伯は命じた。
「見てくるって……何をですか?」
ざっくりした命令にスタンは口を尖らせた。
しかし、そんな態度には慣れっこのダルテ伯は、
「おまえの特殊能力の使いどころだぞ! 噴火しそうなら住民の待避などもよろしくな」
と笑顔で言うのだった。
まあ、スタンなんかがダルテ伯に口答えできる立場でもない。強引だなと思いながらも来るしかなかったのだった。
長く歩いてようやく、スタンはソウェア山を見上げるところまで来た。
先程から草がまばらになってきたなと思ってはいたが、もうここまでくると草も生えていなかった。
剥きだしの岩肌がごつごつしている。
見上げて、直感で「この山は変だ」とスタンは思った。
文献通り間違いなく火山だ。
そして眠っている火山でもない。たぶん、けっこうな量のマグマが山の下まで上がってきている。
だが、噴火の気配を感じない。
なぜだ!?
スタンは違和感の正体を暴くため、山に登ることにした。
大丈夫、この山は傾斜も緩やかだし、見えている山頂もここから数百メートルくらいだ。
スタンが決意してまた歩き出したとき、急に奇妙な霧が出てきた。
霧?
スタンは立ち止まった。
霧の中なんか歩けないぞ、いくら見晴らしのよい岩山だとしても!
その霧はまるでスタンに纏わりつくように濃く立ち込め、妙に生ぬるい感じがした。
霧は冷たい感じがするはずなのに、生ぬるい感じというのは?
スタンが不気味に思っていたら、急に「わーっ!」と耳鳴りかと思うほどの大きな声が聞こえたような気がした。
スタンがぎょっとして周りを見渡すと、風もないのに周囲がざわざわしている。そして微かに人の足音が聞こえてきた。
足音――!?
相変わらずの霧でよく見えないが、そう、確かに霧の向こう側から何か人影が数人駆けてくるのが見えた。
「え!? こんなところに人が? 村人? だが駆けてくるというのは?」
スタンは焦って状況を把握しようとするが、何だか違和感ばかりが先行してちっとも考えが纏まらない。そんな間にも、数人の人影は足音をたて、真っすぐにこちら目掛けて駆け下りてくるのだった。
「逃げる? 説明する? どっちだ!?」
スタンは立ちすくみ、回らない頭を必死に回転させた。
人影はついに数メートルのところまで近づき、もう岩を踏みしめる音がはっきりと聞こえる。蹴散らされて転がる小石のカラカラという音まで聞こえる。
だが濃い霧の中だ。相手は色もはっきりせず、影でしかない。
その瞬間、その人影は何かを振り上げるような仕草をした。
え! 襲われる!? いきなり襲ってくるとかあるか?
何かおかしい――!
本当に、人か!?
そのとき、
「しゃがんで!」
と女性の声がした。
え?と思いながら、言われた通りすぐにスタンがしゃがみ込むと、女性は凛と響く声で、
「風よ――、災いの霧を振り払え――」
とまじないのようなものを唱えた。
「!?」
スタンが驚いていると、急に強い風が地面からざっと湧き起こり、渦を描きながら空へ舞い上がった。
風の勢いは相当で、一緒に巻き上げた小石がスタンの体をバチバチと打った。スタンは慌てて腕で頭を守った。そして、風で体も持って行かれそうになるので、急いで体を丸めた。
不自然な風はしばらく湧き立ち続け、耳元で恐ろしく風が唸る音がした。
が、スタンが縮こまってやり過ごしていると、そのうち風が弱まってきて、小石が体に当たるのもなくなり、皮膚に纏わりついていたた生ぬるい霧も感じなくなった。
「もう大丈夫」
という声にスタンが恐る恐る顔を上げてみると、目の前に美しい少女がすっくと立っていた。
【2.火口】
誰かが助けてくれたと思ったら美しい少女だったので、スタンは驚いた。
「あ、ありがとう! あなたは誰?」
「私はベス。さっきのは『悪意の影』。実態はないんだけど、ああやって人を脅して弱気にさせたり体調を悪くさせたりするから、山では危険ね」
ベスは、大事無くてよかったねとばかりに微笑んだ。
スタンは軽く頷いてから自己紹介した。
「俺はスタン・ゲントナー。王立科学院から来たんだ」
ベスは『王立科学院』と聞いて胡散臭そうに顔を顰めた。
「……じゃあ、あなたはああいう『まじないの類』は信じないのかしら」
スタンは、ベスがに『王立科学院』に良い印象を持っていないことに気付いて、
「あ、いや、別に君のことを否定しているわけじゃ! 俺は調査とか災害予防でこの山に来ただけで、別に……」
と慌てて言い訳をした。
すると、ベスは訝し気に聞き返した。
「災害予防?」
「うん、この山、火山だろう? 噴火してもおかしくない山なんだけど噴火してないから、調査に来た。この山が噴火をやめて休火山になってるならいいんだが、もしこれから噴火するなら、人命を守る対策をしないとね」
スタンは真面目な顔で説明した。まあ、半分はダルテ伯の受け売りだ。
ベスはごくりと唾を呑み込んだ。
「噴火ってヤバくない? 大事な仕事だったんだ」
「うん、まあね。ところで、君はなぜここに?」
「旅行者がこの山にって他の村人から聞いたからよ。この辺で『悪意の影』が出るのは分かってたから、忠告しに追いかけたの」
ベスは親切そうな顔で言った。
「そうだったのか。もしかして、この山は歩き慣れている?」
「ええ、まあ」
スタンは助かったといった顔をした。
「じゃあ、火口までの比較的安全なルート、案内してもらえないだろうか。あ、もちろんお金は払うよ!」
するとベスは、
「いいわ。案内してあげる。それに調査ということだったらお金はいらない。村のためだもの」
と軽く手を振って答えた。
しかし、そこでスタンは怖い顔をした。
「いや、だめだ、お金は払うよ、ただ働きはよくない!」
「え?」
ベスがスタンの気迫に驚いていると、スタンはたいそう深刻な顔で力説した。
「いや、俺の上司は人をこき使うことに抵抗がない人なわけ。だからこっちが待遇改善とか、労働分に見合った対価とか要求しなきゃ、何もしてくれないわけ。俺はあいつ許せないから、そういうとこ。君にはちゃんとしたい」
ベスは笑った。
「すごく気持ちがこもってる。じゃあ遠慮なく」
ベスは先に立って歩きだした。
ごつごつした岩だらけの山肌、足元は石の斜面で不安定な箇所がたくさんあった。しかしベスはさすが地元なのか、比較的安全なルートを辿ってどんどん山を登っていく。
1~2時間も登ると、山頂の脇に、噴火の跡の生々しい、大きく抉られた火口が姿を現した。幾筋も縦に割れた岩々が火口の壁面に露出している。
200~300メートルはありそうな陥没した穴を見下ろして、スタンはぎょっとした。
火口の底の方には気味の悪い緑がかった水が溜まっていたが、よく見ると、ボコボコと泡が立っているのが見えたからだ。
緑がかっているということは、マグマ由来の鉄の成分などが含まれているかもしれない。
そして泡が出ているので、きっと高温だ。
また、スタンは目に強い刺激を感じた。目を開けていられないほどで、涙が出てきて目をこする。鼻にも喉にもつんとした刺激臭が届き、思わず肺の奥から咽そうになった。
――火山ガス!
「あんまり長居できないな。有毒ガスだ」
スタンはベスに早口で言った。
ベスも頷いた。
「うん、村人もここに来て気分が悪くなる人がいるの。早く山を下りた方がいいわね」
「あ、いや、俺は今夜この辺に泊まるよ」
「え? あなた今、自分で危ないって言ったじゃない」
ベスが呆れて言い返すと、スタンは言葉足らずを詫びるように慌てて答えた。
「あ、ごめん、ちゃんとここから離れたところにね。夜の火口もちょっと見ておきたいんだ。君は山を下りて」
その言葉に、ベスは間髪入れずに、
「いいえ、私も泊まるわ。何を見たいのか気になるし」
と言った。好奇心が滲んでいる。
「女の子に野宿はちょっと」
とスタンが断ろうとすると、
「そんなの平気。それに帰りの案内がいるでしょ。一応、私お金もらうんだし」
とベスはにっこりした。
【3.夜の襲撃】
ベスは気付いたらうとうとしていたが、何やらガサゴソ音がしたので目が覚めた。日はもう落ちていて、スタンが簡易テントから抜け出そうとしていたところだった。
「どこ行くの。ちゃんと起こしてよ」
とベスが口を尖らすと、スタンは、
「じゃあついておいで。もしかしたら珍しいものが見れるかもしれない」
と言った。
火口に辿り着くと、スタンが真っ暗な火口の下の方を指差した。
「火口の下の方、岩壁をよく見てご覧。ところどころ赤い光がぽつぽつ見えるだろ?」
ベスが目を凝らすと確かに、赤い光がぽつぽつと、奥深い火口の縁の岩壁で揺らめいて見えた。赤い光はおぼつかなく不規則で、ここで赤くゆらりと光ったかと思うとすうっと消えて、次は別の場所でぽっと光る。
ベスは気味悪さを感じた。
「何あれ! 鬼火?」
「ははは、違うよ。あれは火口の奥底から吹き上げてきた高温の火山ガスがね、岩壁を熱しているんだ。岩が真っ赤になるほどにね」
スタンが答えた。
「こんなの初めて見た。きれいね」
「うん。火山と思わなければ、君の言うように霊的なものかと思うかもね。ま、実際は熱された岩なんだけど」
「せっかくキレイなのに、科学的に言っちゃうと残念ね」
ベスが苦笑すると、スタンは首を横に振った。
「凄いロマンだと思うけど。岩が赤くなるって相当な高温だよ。火口の下のマグマが火山ガスを噴き出してるんだ。この山は物凄いエネルギーを抱えてる」
それを聞くとベスは不安になった。
「ねえ、本当に噴火するの?」
するとスタンは、途端に自信なさげな顔になった。
「それが分からない。何か変なんだ。噴火する山はもっとグラグラと煮えたぎったようなエネルギーを感じるのに、この山はとても落ち着いているんだよ」
「噴火やめたのかしら」
とベスがほっとしたように言うと、スタンは困った顔をした。
「でもマグマは来てる。明日また周囲を歩いてみるよ。違和感の原因が分かるといいけど」
そのとき、スタンは昼間に感じたような生ぬるさをまた顔に感じ、ぎょっとして身構えた。
ベスも異変に気付いたようだった。緊張したように体を強張らせ、何かの襲撃に備えて神経をピンと研ぎ澄ませている。
周囲は気味が悪いほど静かだった。火口に溜まった緑の水が泡を吹く音がたまに微かに聞こえるくらいで、風の音もしない。
次の瞬間、空が見えなくなっていることにスタンは気付いた。暗闇の中、空が見えないというのは変な表現かもしれない。しかし、星が見えないのだ。
おかしいと思った瞬間、バサバサっといった複数の大きな羽音が沈黙を切り裂き、スタンは驚いて腰を抜かしかけた。
「屈んで!」
というベスの声が聞こえ、慌ててスタンは身を屈ませて耳を塞いだが、何十というコウモリのような羽音がひっきりなしに頭上を飛びかっている。スタンは前も後ろも、上も下も分からないような感覚に陥った。
だが頭の片隅で、ほんの少し理性が疼く。
コウモリ!? こんな岩肌の露出した火山で? おかしくないか?
そう思っていたら、ベスがまたしても、
「風よ――」
と風を呼ぶ声が聞こえた。
ベスの呼んだ風はまるで嵐のようで、耳が割れんばかりにゴウゴウと唸り、スタンから悪意の影を引き剥がそうと容赦なく横殴りに吹き付ける。
スタンは這いつくばるのがやっとだったが、とにかくベスの『まじない』を信じてじっと目を瞑って耐えていた。
すると、気付いたときには羽音も生ぬるい感触も、消えてなくなっていた。
スタンがそっと顔を上げると、ベスは仁王立ちで肩で息をしていた。
【4.不死鳥】
「ベス?」
とスタンが弱々しく聞くと、ベスは舌打ちした。
「しつこく狙われてるわね。狙われる理由は? あなた何か隠してる?」
疑うような口調にスタンは首を横に振った。
「いや、俺はただの王立科学院の雇われ人だ」
「じゃあ、きっとこの山の方に隠し事があるのね! 暴かれたくない秘密が。あなたの言う『違和感』って何。『違和感』ってどう調べるの。もう説明しちゃってくれない?」
ベスが憤然と言うので、スタンは気圧されるように口を開いた。
「ええと『違和感』ね。俺も何だか分からないけど、特殊な能力が俺にはあるんだ。高温のマグマが下にあると地面が温まったりする。それにマグマが下から充填されてるなら山が膨張したりする。マグマに含まれる鉄は高温になると磁力を失う場合がある――。俺はそういったのを感じることができる。つまり噴火の予知だ! 火山だけじゃない。地震前の大地のひずみみたいなものも感じることができる。本当に、これはいったい何なのか自分でも分からないけど――」
スタンはまだ説明途中だったが、急に、月影の下にぼんやりと人型が立ったので、スタンとベスはぎくっとした。
誰だ!? こんなところに。しかも夜?
見たところ、それは遊牧民の姿をした少女だった。
遊牧民とはいえ上等な厚手の生地の布を纏い、身に着けている装飾品は品が良かった。
「不死鳥を捕まえに来たの? そうならあなたを排除する」
と少女は透き通った声で言った。
「不死鳥?」
スタンは震える声を絞り出して聞き返す。
その反応を食い入るように見つめていた少女は、スタンが本当に心当たりなさそうなのにほっとして、
「違うのね、ならいいわ」
とくるりと向きを変え立ち去ろうとした。
しかし、ベスは食い下がった。
「待って! 不死鳥と言った!? なるほど、不死鳥の羽根は幻を出せる。幻の襲撃者や幻のコウモリの大群、あなたのしわざね? あなた、不死鳥の居場所を知ってるの?」
スタンは怪訝そうな顔をした。
「不死鳥って火山が噴火した時に飛ぶ鳥だっけ? 爆発的なエネルギーを浴びて生まれ変わる――でもそれって伝説じゃ?」
「さすが王立科学院の雇われ人! 伝説は信じないと言うのね」
ベスがスタンを睨むと、スタンはちょっと焦ったが言い返した。
「不死鳥が本当にいたとしても変じゃないか。噴火した時に飛ぶ鳥なんだろう? この山は噴火していない」
スタンが指摘すると、ベスは首を横に振った。
「私たちが不死鳥について何も知らないだけかもしれない。あなたは、この山は噴火するはずなのに噴火してないって言ってた。それ不死鳥のせいってことは?」
「何?」
「不死鳥が噴火のエネルギーで生まれ変わるというけど、噴火した後じゃなくて、噴火前にエネルギーを掠め取ったら? 山は噴火しないかもしれないわ」
「なるほど! でも待って、不死鳥のそんな話聞いたことない――」
スタンが怪訝そうに言うと、
「育てている、不死鳥の幼鳥を。噴火前のエネルギーを奪って育つ」
と少女はかぶせるように言った。
ベスは驚いた。
「不死鳥を育てる? 何のために?」
少女は淡々と説明した。
「滅びの予言があった。我々の一族はそれを回避しようとしている。噴火を抑えるのに不死鳥の幼鳥が使えるので、人工的に育てている」
「王立科学院に持ち込まれた『魔女の滅びの予言』のことか!」
スタンは合点がいった。
方向性は違うがダルテ伯と目的は一緒ではないか!
「王立科学院は我々の一族を『魔女』と罵り嫌っているが、我々は構わない、勝手にやる。不死鳥のことがバレたのでここは立ち去るが。大丈夫、噴火するほどのエネルギーは残ってない」
そう言ったかと思うと、身なりの良い少女はふっと消え失せた。
【5.ナマズ】
「ってことでしたよ」
王立科学院に戻ったスタンは、ダルテ伯に報告をした。
ダルテ伯は興味深そうに聞いていたが、スタンが話し終わるともの足りなさそうに言った。
「不死鳥、何で捕まえてこないんだ。誰も分類してないんだろう? 新種じゃないか」
「新種? 新種って言葉で片づけます?」
スタンは呆れた。
「それ以外に何か?」
「いや、神秘的な生き物を分類するというのが」
「神秘的ね。確かに噴火エネルギーを成長に使うなんて、調べる価値は大いにあるよな」
ダルテ伯はズレた視点でうんうん肯いた。
「そういうことじゃないんですけど。というか、まさか捕まえたら不死鳥を解剖する気じゃないでしょうね。そんな罰当たりなこと――」
スタンが抗議の目を向けると、ダルテ伯は、
「新種の鳥を解剖して何が悪い」
と開き直っている。
スタンはため息をついた。
「不死鳥は普通の生き物と思わない方がいいんじゃないですか。不死鳥の羽根とやらで、俺、幻を二度ほど見ました。あなたは『まじないの類』を否定してますけどね、あの山で俺が見たのは、むしろ非科学的なものばっかりです」
しかし、ダルテ伯は信じる気は全くなかった。
「幻? じゃあ幻覚だ。君の中枢神経に何かが働きかけたに違いない」
スタンは、ダルテ伯がちっとも話を聞く気がないので、文句を言いたくなった。
「じゃあ非科学的なものを否定するあなたが、なぜ俺の特殊能力みたいな『まじないの類』を重宝してるんですか。矛盾してますよ」
するとダルテ伯はきょとんとした。
「え? おまえが『まじないの類』? まさか! 私は君のこと『ナマズ』みたいなもんだと思ってるよ」
「ナマズ?」
「異国じゃナマズが地震を予知するらしい」
ダルテ伯はもっともらしい顔で言った。
スタンは呆れ果ててしまった。
「あなたの中じゃ、俺は人間ですらないんですか」
スタンはため息をついて窓から遠く空を眺めた。
この空の下、どこかに不死鳥がいるんだよなー、と思いながら。
(終わり)
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『科学』と『まじない』の対立構造を主軸に書いてみました(*´ω`*)
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