第85話 『宝』の会議。ランの性癖が追加された。
数日後、狐組本社の会議室にて。
「この会議室に、ここまで人が集まるなんて……何の会議だ? 俺、何も聞いてないんだが」
「僕も聞いていない」
「てことは、議論じゃなくて報告が主ってわけか」
サイラスの問いにマサミツが返したが、サイラスは特に表情を変えることなく頷いた。
「……サイラスさんは姉様と付き合いが長いんですか? それだけでわかりますか普通」
「別にそんな長くねえけど、ま、ユキメもすぐにわかるようになるさ。姉貴は報告だけなら書類で済ませることが多いが、反応を直に見たいときはこういう会議を使うこともある」
「そうですか……」
「多分、サイラスさんより私の方が付き合いが長いはずっスけど、全然わかんなかったんスよ?」
頷くユキメに対して、エレノアは苦笑している。
それに対して、セラフィナが答えた。
「サイラスさんは指導力も高いと聞いたことがありますが、言い換えれば個別に『どんな才能と傾向があるのか』を見抜く必要がありますから、その影響でしょうね」
「ぴぃ……」
セラフィナは自身の傍でウロウロしているランを撫でている。
「……なんだか。ランちゃん、セラフィナさんに懐いてますね」
「そりゃそうだろ」
ポプラが撫でられているランを見ながら呟くと、それに対してベラルダが鼻で笑いながら言った。
「え、ベラルダさん。どういうことですか?」
「アタシとユキメとエレノアは論外、ポプラはちょっと変態の地雷臭がする。消去法でセラフィナだろ」
「「「自覚あんのかよ」」」
サイラス、ユキメ、マサミツの三人から突っ込まれた。
「いやぁ……でもさ、狐組って、馬鹿じゃないけど手遅れって奴ばっかだろ? アタシだって別に無自覚じゃねえぜ?」
「手遅れであって馬鹿ではない。か……なんだか妙に納得だな」
サイラスはため息をついた。
……そう、この場には、各コミュニティのトップとナンバーツー。そして本部職員であるエレノアの七人が集まっている。
「ぴ、ぴいぃ……」
ただ、ランは周囲の人間が一体何の話をしているのかを理解している。
本人としては、『なんでそんな話を真面目な顔でしてるの?』と言ったところだろう。
「お、全員揃ってるな。お待たせだぜ」
会議室にキュウビが入ってきた。
「キュウビさん……えっと、会長は?」
「ちょっと鏡で確認してからくるってさ。もう少しかかるかも――」
「もうすませたよ」
アグリも扉を開けて入ってきた。
「ぴいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」
その姿を見て、ランは大歓喜。
そのまま、アグリに飛びついた。
「あ、姉貴……なんで、ミニスカスーツ着てんの?」
そう、アグリだが……なんと、その恰好はミニスカスーツである!
普段のアグリは半袖シャツとスキニージーンズのため、腕は見えているが足は見えていない。
だが、今回は逆。
上半身はきっちりしているので首から上と手首から先くらいしか肌が見えないが、足は結構、ガッツリである。
なお、アグリの体格はボンキュッボンならぬ、全部がキュッ! としているので、足はびっくりするほど細くて白い。
普段は見せないが、だからといってキュウビが手を抜くわけではない。
真っ白な長い髪と神秘的で美しい顔のアグリのミニスカスーツであり、ランは大興奮。
「ん? ああ……ランの『ミニスカスーツ恐怖症』を克服するにはこれが一番だからね」
「克服する必要あったか?」
「これから会議に全くでない、なんてことはないだろうから、今のうちにこういうのは必要だよ。ただ……いろいろ企んだマサミツは後で反省会ね」
「本望です!」
「はぁ……」
アグリは椅子に座ると、そのまま足を組んで、自身の太ももにランを乗せた。
「ぴい、ぴいいっ♪ ぴいいいっ!」
ランの性癖が捻じ曲がるかもしれん。
アグリの太ももに抱き着いて離れなくなった。
「……でもああいうことをすると、後で『姉貴の太ももの匂いがする』って騒ぐ奴が出るぞ」
ランは抱き着き具合を緩めた。
ただ離れることはない。
だって……ランも変態だから!
「はぁ、救いのないグループですね。ほんと」
セラフィナが全てを代表して呟いたが、まあおおむね間違っていない。
「……で、かいちょー。議題は何なんだ? アタシも聞いてねえけど」
「ああ。まあ、端的に言うと……本部からこの王都に持ち込まれた『宝』なんだけど、どうやらオーバス課、および『ウロボロス』で使われることになったらしい」
「はい?」
「狐組としてこの扱いをどうとらえるべきか。議論しようかなって思ったんだけど、まあ、向こうに『宝』があろうとなかろうと、大した差はないからね」
「ただ、実際に、使った『兵隊』たちがかなりの実力者に変貌していたのは事実……王都の冒険者の勢力図への影響は?」
「限られるでしょ。コストは本部基準では安いけど、ウロボロス基準だと高いからね。無差別に力をばらまくようなのは、シェルディみたいな立場じゃないと考えないさ」
「それは……そうか」
本部が持っている『宝』だが、王都に持ち込まれたそれは、レミントン派が扱えなくなった今、新しい管理者が決まったばかり。
その管理者が決めたのが、『ウロボロスでの使用』とのことだ。
「次の管理者の情報は?」
「私も持ってないっスね。流石に『宝』の利権に絡む情報は、上の方で秘匿されるっスよ」
「べレグも一方的に言われたらしい」
「まあ、べレグは『どうでもいいガラクタの話は良いから人を寄越せ』って言ってたけどな……」
アグリが用意した莫大な金を使い、シェルディの騒動で疲弊した冒険者市場を持ち直しているところだ。
ただ、それを何とかする窓口がべレグ課しかないので、マジで多忙だ。
「……思ったんだが、オーバス課の誰かが、何かの会社を通じてべレグ課から金を引っ張ってきて、それを使って『宝』を起動する。なんてことも……」
「まあ考えられるだろうけど、それくらいの小細工なら可愛いもんだよ。別に誰も損はしないし」
「いや、お金は実質、アグリさんが出してますよね」
「あんな端金の議論なんてする意味ないよ」
「そうですか……」
アグリが狐組を作ってから、アンスト、ブルマス、ムーンライトⅨにはかなりの金貨が入ってきている。
マサミツたちも、普段は、『金貨のことはとりあえずいいとして、今はどのようにしてドロップアイテムを集めるか』ということを重要視している。
それほどの財力であり、それに対してケチをつけるつもりはない。
それを可能とすることの恐ろしさを相手が理解できないのなら、既に格付けが済んだも同然であり、アグリが気に留めるほどではない。
「とりあえず、これからウロボロスの中から、数人。『強い人』が出る可能性はある。そこは考慮する必要があるね」
「ウロボロスか……」
「ん? マサミツはなんか、予想できることがあるのか?」
「ああ……というより、ウロボロスの中で『宝』を使うとして、そこで最大の稼ぎを出すならば、使う先は一択だ」
「そこまで絞れるか?」
「ああ」
サイラスは驚いた顔をしているが、マサミツは頷く。
「アティカスがリーダーを務めていたエースパーティー……確か、彼を含めて五人だったはずだ。残る四人。そこに、どこかから前衛を務められる人間を加えて、『新生エースパーティー』としてくみ上げてくる可能性は、十分にある」
「なるほど、今は才能を抜かれてカードも機能しねえし、『元エース』だが……ギルドを追放されたアティカスがアンストで大活躍だもんなぁ」
サイラスはため息をついた。
「……アティカスとエースパーティーで、一悶着。起きそうじゃね?」
「僕もそう思う。レミントンが除名されて、上級役員には冷水を叩き込んだに等しいが、ウロボロスまでその感覚が降りてくることはないはずだ」
「……だりぃな。姉貴。そのあたりはどうする?」
「アティカスは仲間だ。といえばいいかな?」
「十分だ」
頷くサイラス。
「さて、じゃあ、アタシから見て、最も重要な話がある」
「なんだ?」
「かいちょーって、いつまでその恰好なんだ?」
「ランが慣れるまでに時間がかかりそうだから、ざっと一週間だな!」
「「よっしゃあああああああああああああああああああっ!」」
マサミツとベラルダが大歓喜。
「……元気ですね」
「そうですねぇ」
ポプラとセラフィナは、呆れた目で見ていた。
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