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第82話【レミントンSIDE】 レミントン連行

 役員不信任案の提出。


 しかも、『上級役員』だ。


 圧倒的な権力を持つ役員だが、絶対的な暴力を持つ冒険者には逆らえないという、冷水(ひやみず)をぶっかけることはおろか、絶対零度の氷塊をストレートでぶつけるような行為。


 金貨100万枚という莫大な量の硬貨が、『協会長』に支払われることでのみ、この決議案の書類を用意できる。


「レミントン。あなたに不信任案が出ています。本部に来てもらいますよ」

「何!? 私に不信任案だと!? 一体どこのギルドが、何の国家の支援を得て――」


 不信任案。という言葉を聞いて、レミントンは驚愕している。


 そしてつづけた言葉は、『どこのギルドが』『何の国家の』というもの。


 誰が誰の……いや、組織が国家の、と言い換えてもいい。


「『四源嬢』アグリです」


 しかし、レミントンを連行するために来た職員……狐組の担当監査班の班長であるデュリオの口から出てきたのは、アグリの名前だけ。


「……はっ? だ、だけか?」

「そうです。四源嬢アグリ、一名が金貨を支払い、不信任案が提出され、査問にかけることになったのです」

「ば、馬鹿な!」


 レミントンは顔が真っ青になる。


 本部役員に対して不信任案を提出したいと申し出ることができるのは、冒険者だけだ。


 だが、冒険者が一人で金貨を100万枚を溜められるというのは、考えられないというより直感に反する。


 そのため、どこかの冒険者が、どこかの国家……それも王族から援助を受けて、金貨を用意したと考えた。


 ……言い換えれば、『国家から援助を受けた冒険者が、特定の役員を追放しようとした前例』があるのだ。


「あ、ありえん。一人で金貨を100万枚も集めたのか! い、いや、狐組の規模は確かなものだ。吸い上げたに違いない。それでも足りんぞ。まさか莫大な借金まで……だがそうなれば、今頃、狐組の金庫は底をつくはず。まさか、ギルドを犠牲にして用意したのか!」


 窮地に達した人間の思考速度は何かと早い。


 失礼を承知だが、レミントンとは思えないほど、『普通なら考えられる状況』が見えている。


「そんなはずがないでしょう。全額、四源嬢のポケットマネーです」


 デュリオは淡々と告げる。


 もっとも、信じられない気持ちはデュリオにもわかる。


 実際に彼も、金貨100万枚の山を見たのだが、言葉が出なかったくらいだ。


 そもそも、狐組は報告免除特権が最大レベルフル装備なので、報告はおろか何かを記録しておく必要すらない。


 言い換えると、デュリオにも、アグリの財力はわからない。


 ただ、事実も現実も変わらない。


 アグリによって、『不信任案』は出されたのだ。


「ば、馬鹿な……こ、この国が裏にいるんじゃないのか! そうだ。そうに決まっている!」

「少なくとも金銭的な援助は受けていませんよ。それを証明するために、書類を持って私も本部に行くんですから。ほら、早くいきますよ」


 神血旅。


 血統国家と冒険者は分けるべき。しっかりとした線引きがあるべきだというのが風潮だ。


 よって、特定の冒険者が国家の援助で不信任案を用意できたとしても、『国家が裏にいない』ことを証明できないと、不信任案そのものが条件を満たさない。


 不信任案の書類が提出された。という状態で止まってしまう。


 金貨100万枚という、莫大という言葉では表現しきれないルールであり、問答無用で破棄されることはない。


 査問会が開いて、『国家が裏にいない』ことが証明されれば、ほぼ確実に通る。それは間違いない。


 だが、この『国家が裏にいない』ことを証明するのはかなり苦労する。


 一応、『ギルド』なら『監査部』が入るルールになっているので、『国家から支援を受けていない』という書類を普段から作ってもらうことができる。


 そのためにデュリオは書類を持って本部に行くわけだ。正直に言えばこの書類が重要な場面で必要になるとは微塵も思っていなかったが。


「ま、待て、金なら払う。私は行きたくない!」

「行きたくない。が通るのなら不信任案はいらないんですよ。ほら、さっさと行きますよ。大丈夫。私は暇なので最後まで引っ張ってあげます」


 報告免除特権が最高レベルフル装備。


 デュリオの仕事は、限りなく少ない。


 暇人であることは間違いないが、横暴の限りを尽くしてきた小太りのおっさんを連れていくのは、『何らかの手当』が欲しいと思うのだった。

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