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第74話 ラン。ブルマスの執務室にて。

 アグリは圧倒的な美しさを持っているため、基本的にはいるだけで周囲の性癖を捻じ曲げる。


 ……まあ、その時点でいろいろ『ヤバすぎる』ともいえるが、時折、『イベント』がある。


 キュウビのプロデュースによって関係者に提示される、圧倒的な『アグリが自身を崇拝させるための催し物』であり、これをどうにか精神的に捌けるものはほぼいない。


 直近で言えば、白いミニスカワンピの姿で、ムーンライトⅨにある『教会』で演じた『女神の降臨』だろう。


 持ち前のルックスと、それを完全に仕上げる『集中力強化』の付与魔法によって、あの時、あの場に、間違いなく、女神が居たのだ。


 全体として、直近かつ一番大きなもので言えばそれになるが、そのほかにも、風呂に入って身体を洗っただの、ベッドで一緒に寝ただの、個別にいろいろある。


 いずれにせよ、関わった時間が長ければ長いほど、アグリに対する崇拝感情が大きくなる。


 関わった時間の長さが変態レベルに直結するが、その熱意から逃れる方法はない。


 狐組の傘下コミュニティに入った場合、共通の話題がアグリの話になる上に、話題に困らないのだ。


 アグリは圧倒的な強さを持っているが、それでも分かりやすい話題はその外見であり、最近はキュウビがアグリの写真をあちこちの記者に配って広めているため、話題の種を集めるのにも苦労しない。


「私達にも何かが必要だと思いませんか!」

「ポプラちゃん。どうしたの?」


 ブルー・マスターズ拠点の執務室。


 リーダーのセラフィナと、サブリーダーのポプラがそこで書類を作っていたわけだが、休憩になった段階で、ポプラが強く要求した。


「ムーンライトⅨには『女神像』があって、アンストには『闇市』があります。何か、アグリさんを象徴とする概念がこのコミュニティにも必要だと思うんです!」

「ぴい?」

「ランちゃんは可愛いですね~」

「ぴいっ♪」


 ……で、叫んでいるポプラのテーブルでは、ランがかき氷を食べていた。


 ブルマスは狐組の中でアグリと関わった時間が短い。


 そして、その初対面が『柴欠病の治療』であったため、『信仰』よりも『感謝』の方が大きく、その分、他のコミュニティとは違うルートをたどっている。


 ポプラの様に、特別、アグリに対して思い入れがある人間は確かにいるが、他二つよりはまだ人類にとって適切な範疇にとどまっている。


「というか、最近、ランちゃんはアグリさんから離れて行動することも多くなりましたけど、何か心境の変化があったんですかね?」

「さあ……」


 美味しそうにかき氷を食べるランだが、周りにはアグリもキュウビもいない。


 一応、この建物の中でいろいろ調査しているところではあるので、『同じ建物の中にはいる』のだが、だからと言って赤ん坊が離れていい距離かと言われると少々微妙だ。


 もっとも、ランに何かあればすっ飛んでくることができる方法は何かしら確立していると思われるので、別にポプラたちも心配はしていない。


「ぴいっ♪」


 ただ、ランが生まれてからのこれまでを振り返ると、その思考がどのようなものになるのか、何を避けるのかはいろいろ見えてくる。


 まず、巨乳を見ると興奮する。これは間違いない。


 よくわからないが、巨乳であることはランがパタパタ近づいていく条件である。


 ……もちろん、アグリは男であり、しかも細身なので胸なんぞ全くないのだが、夜になればアグリの胸に抱かれて眠るので、どうともいえるけど。


 近づく条件が巨乳なのはわかった。


 で、何を避けようとするのか。


 おそらくだが、ランの中で、『ミニスカスーツを着た美少女はヤバい』という印象があるはずだ。


 ユキメとエレノアという、狐組のミニスカスーツ美少女の中でもかなりの実力者が、ランからみて圧倒的な変態である。


 ユキメが近くに居たら袋に入れられて匂いをかがれるし、エレノアが近くに居たら掴まれる上に鼻血をぶっかけてくるのだ。


 明らかに赤ん坊に対して教育が悪い二大巨頭がミニスカスーツなので、おそらくランは怖がっているはず。


 で、ブルマスは制服が定まっている。


 そしてその制服は、ブレザー型ではありスーツではない。


 ランはまだ人の中身まで判断できるほどの経験や知性はないため、やはり外見は大事だ。


 そう、『ミニスカスーツではない巨乳美少女』が集まるのがブルマスなので、寄り付きやすいのである。


「ぴい、ぴいいっ♪」


 シャクシャクと口を動かすランは、本当に美味しそうによく食べる。


「……ランちゃんをテーマにした何かがあれば良いですかね?」

「まあ、こちらに預けやすくなるのは事実ですね」

「……フフッ、では、そんな感じで進めるとして……それにしても、ランちゃんって、良い匂いがしますね~」


 ポプラがそう言いながら、優しくランを撫でている。


「……ぴい?」


 ちょっと地雷臭を嗅ぎ取ったランが、ポプラの顔を見上げる。


 ポプラの顔はニコニコしているが、強い何かを求める印象はない。


 そう、掴んで袋に入れてクンカクンカしたり、抱き着いた挙句に鼻血をぶっかけることもない。


「……ぴいっ!」


 安心できる。と判断したようだ。


 まあそれはそれでいいとして、なんだか『節度』の話になってしまいそうな感じがするのは気のせいだろうか。


 そして、狐組に『節度』ってあるのだろうか。


 ……欲望は用法用量を守ってご利用ください。としか言いようがない。

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