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第52話 氾濫調査

「ロクセイ商会が、王都から消えたか」


 新聞には、ロクセイ商会の王都本社が空き家になった事が記されている。


 廃業届も出ているようで、どうやら王都から……いや、この国から出ていくつもりらしい。


「まっ、最初から最後まではっきりしてるぜ。多くの人間にカードを使って欲しい。それだけだ」

「使用を強制できる人間に接触してアレコレ抜き取っていたけど、それが叶わなくなったから出ていく。しかも、王都から、じゃなくて『国から』だ。随分、思い切ったことをするね」

「ここまでやることなすことが一つの理屈ってのが十分おかしいぜ。それに……『何を抜き取っているのか』は分かっても、『何のために使うのか』はわからねえ」

「そうだね。俺も、それはわからない」


 脳から神経に流れる命令。


 これによって、人の動きの精度は変わる。


 この『命令力』を……言い換えれば、その人間の『才能』を抜き取っていると言える。


 ただ、それが何に使われるのかはわからない。


 ただただ、莫大な量を集めているという事実があるだけだ。


「……姉貴」

「ん? べレグさん」


 支援部べレグ課の課長。べレグが執務室に入ってきた。


「なんだか珍しいが……何かあったん?」

「ああ。これを」


 キュウビの問いに頷きながら、紙を取り出してアグリに見せる。


「『迷宮氾濫(スタンピード)』の可能性があるダンジョンの調査……ねぇ」


 迷宮氾濫(スタンピード)


 ダンジョンは一度でも入った後、誰も入らない期間が続いた場合、内部でモンスターが溜まり始めて、それが一定数を超えると地上に一気にあふれ出す。


 この時、深い階層のモンスターも地上に出てくることがあり、非常に危険。


 最初の層である『第一層』でもいいので、ある程度モンスターを倒していれば発生しない。


 そして……ダンジョンそのものが、そんなホイホイ見つかるものではないし、モンスターを倒せば硬貨が出てくる世界において、ダンジョンは実質、造幣局と同じだ。


 冒険者が使いにくいから訪れない。と言うパターンはあるが、逆に言えば、そう言ったダンジョンは『冒険者協会の利権に絡まないダンジョン』ということで、国が入りやすい。


 ダンジョンは見つかれば、その時点で、冒険者か国家に利用される。


 そういうものであり、誰も入らないことの方が珍しいと言える。


 ただ、それは、迷宮氾濫(スタンピード)の発生に対する知識を持っている場合の話だ。


「最近、その言葉はあまり聞いてないけど……確か、脛に傷がある冒険者が偶然、誰も知らないダンジョンを発見し、個人的に利用。その後、金が十分に溜まって利用しなくなり、それが原因で発生したことがある」

「まっ、アノニマスにいた俺様達からすれば、『冒険者でありながら指名手配犯』があんなにいたんだから、そう言うパターンで考えるのが自然ともいえるけどな」

「……そこまでなら、自然と言えるかもね」

「ん?」

「キュウビも読んでみて」


 アグリはキュウビに紙を渡す。


「……ダンジョンの発見者はロクセイ商会。現状、王都で調査部隊を構築できるのは、フォックス・ホールディングスとその傘下であり、この者たちに頼むのが適切と判断……か」

「しかもべレグ課の金庫に、ロクセイ商会経由だと思うが、かなりの金貨が報酬として振り込まれた」

「全額前金で支払いか。随分太っ腹っていうか……」


 アグリはいろいろ考えたが……。


「まあ、この手の調査なら、調査責任者として俺が行くことは必然か」

「それ以前の問題だ」

「ん?」

「氾濫する可能性があるダンジョンがあった。という報告から、調査部隊の選定が終わるまで、早すぎる。明らかに……」

「王都の支部長が、ロクセイ商会から金を貰っていると?」

「……そういうことだ」

「まあ、報酬は全額前金で払うし、氾濫したらヤバいのは事実だ。王都からそこそこ近いしな。ロクセイ商会は築いたのは良いが、流石に兵士たちにそれらを話す権限もないし、だったら頼る相手は冒険者になる……この時点で、支部長が俺様達に依頼することに後ろ暗さはねえわな」


 要するに。


「……なんていうか、俺に遠慮しなくなったな」

「この国から出るってことは、あるじの勢力圏から出るってことだぜ? 最後の最後に、刀でも奪って出て行こうって算段じゃねえか?」

「かもね」

「それにおかしいもんなぁ」

「そうだね」


 アグリとキュウビとしては、何かが『おかしい』らしい。


「……まあ、確かにいろいろおかしい部分は……」

「このダンジョン、三か月前に入って大暴れしたことがある。氾濫の発生って、五年後とか十年後とかの話でしょ?」

「……なるほど、おかしいな」


 そもそも論。


 氾濫そのものが、発生するはずがない。


 ロクセイ商会は単なる虚偽報告であり、それを支部側はロクな裏取りもせず、フォックス・ホールディングスに依頼が来た。


「……ここまでくると、こっちの嗅覚は関係ない。向こうの腐臭が強すぎる」

「乗るか乗らないかってことになるが……調査することはもう決まってんだろ?」

「ああ。決まってる。上がゴリ押しした」

「……はぁ」


 アグリは溜息をついた。


「……さっさと片づけるか」


 とはいえ、シェルディの最善手としては、このまま何もせずに国から出ることのはず。


 おそらく、ダンジョンに行けば待ち構えていることだろう。


(思ってたより、欲張りなのかもしれないね)


 アグリはそんなことを思いながらも、誰を連れていくかを考え始めた。

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