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第4話 ダンジョン『転移街』

 ダンジョンは全て百層構造であり、手前は難易度も報酬も低く、奥に行けば行くほど難易度も報酬も高い。


 基本的にダンジョンは硬貨を得るために国が巡回ルートを作っている。

 安定した量の効果を得るための『公務』として行っており、そのルートに入れる道は兵士が立っていて通ることはできない。


 冒険者たちは、その巡回ルートを通らないようにしつつ進んで、モンスターを倒し、宝箱を開けて稼ぐ。


「ダンジョンの中には『人間視点で便利』と思うものもあるけど、不思議だよね」

「何がだ? あるじ」


 ダンジョン『転移街』。

 石材で組まれた通路と部屋で構成されており、モンスターと宝箱の出現頻度にも特筆すべき点はない。


 ただ、多種多様が原則と称されるのが『ダンジョン』であり、この場所にも特殊な点はある。


 それは、『転移スポット』の存在だ。


 モンスターが出現、侵入しない『安全エリア』が全てのダンジョンに存在するが、このダンジョンも同様。

 そのうちのいくつかが『転移スポット』として存在し、冒険者ライセンスを当てると番号が浮かび上がる水晶の柱が存在する。


 この柱にライセンスを当てると登録され、登録した番号の柱がある安全エリアに『転移』できる。


 奥まで進むのに多くの資材が必要になるのがダンジョン攻略と言うものだが、この転移システムがある事で、それらの大部分を解消できる。


 冒険者ライセンスに後付けでその機能が追加されたわけではない。

 この手の『ライセンスダンジョン』の出入り口付近に置かれている『ライセンス発行魔道具』を回収、定期的に『再設置』されるそれを管理することで冒険者の間で普及している。


『転移街』以外のダンジョンの中にも、いくつか『ライセンスダンジョン』と呼ばれるものがあり、そうしたダンジョンは、『ライセンスを持っていると利点がある構造』になっている。


 ライセンスを発行できる魔道具の管理業務は『冒険者協会』のトップシークレットであり、うっすらと概要が表に知らされている程度だ。


「……いや、ダンジョンってさ。人間が産まれるよりも前から存在するって言い張る学者も多いんだよ。『転移街』みたいなライセンスダンジョンもね」

「ああ、なるほど、いもしない種族を前提とした構造が存在するっていうのが不思議ってことか」

「そういうこと」

「そんなの気にするの、あるじくらいじゃね?」

「それはそうかもしれないね」


 便利な物があるのなら、それを使うのに抵抗はない。

 疑問を口にするのも贅沢と言うものだ。


「まあ、気にするのも無理はないと俺様も思うぜ」

「キュウビは驚いてたね。別のダンジョンで手に入れたライセンスが、他のライセンスダンジョンでも使えるっていう事実」

「俺様が一番気になるのはそこだ。明らかに、ダンジョンはそれぞれで独立してねぇ。何か大きなシステムの内側にあるみたいだ」

「まだ、そのあたりは、おいおい分かるかもしれないね」

「あんまり興味なさそうだな」

「そりゃあね」


 話していると、ゴブリンの集団が現れた。

 かなり多い。

 安っぽい棍棒ではなく、全員が鍔に宝石のついたロングソードを握り、鎧を着ている。


「お、ゴブリンか」

「この階層までくると、装備も充実しているね。倒したら剣も鎧も塵になって消えるから回収できないけど」

「いるのか?」

「別に」


 アグリはそんなことを言いつつも、腰の鞘から刀を抜く。


「……なあ、あるじ」

「どうしたの?」

「俺様の気のせいか? ゴブリンどもの鼻の下が伸びてる気がするけど」

「同性愛の存在を拒否したりしないよ」

「いや、明らかにあるじを女だと思ってるだろ……」


 アグリとキュウビが話していると、その話を聞いたゴブリンたちはお互いの顔を見合わせ……そしてアグリを見て……お互いに顔を見合わせて……『?』となっている。


「ゴブリンには『男の娘』という概念がないのかもしれないね」

「どうだろうな……」


 アグリとキュウビから見て、目の前にいるゴブリンは全員が同じ顔に見える。

 ……どうなのだろう。あるのだろうか。男の娘。


「片付けようか」


 アグリはズボンの左ポケットに手を入れると、一枚の銅貨を抜き取る。

 それを、親指でピンッと弾いた。


 次の瞬間、ゴブリンは全て、その銅貨から目を放せなくなった。


「あーあ、かわいそうに」


 キュウビがそうつぶやいた時、隣にいたアグリが消えた。


 一秒後には、近くにいたゴブリンの首が飛ぶ。

 まだ、ゴブリンたちの視線は変わらない。


 アグリは舞う。

 刀を振るたびに、アグリの長い白髪が揺れる。なびく。


 身体強化くらいは使っているだろうが、他の魔法は使っていない。


 しかし、そんななかでも、アグリの戦いは、とても幻想的な光を放つ。


 何と言えばいいだろうか。『長い白髪』という魅力を最大限に引き出すかのような戦い方。

 それがアグリの剣技であり、見慣れているキュウビも綺麗に感じる。


「……終わり」


 全てのゴブリンを斬って、刀を鞘に納める。

 次の瞬間、全てのゴブリンは地面に倒れて、塵となっていく。

 その跡には、金貨だけが残った。


「いやぁ、なんていうか、世の中にいる手品師(マジシャン)が見たら発狂しそうだよな」

「まあ実際、俺が一番向いている職業だろうね」


 魔法がある世界で言うのもアレだが、マジックで使うトリックというのは、大部分が『ミスリード』で構成されている。


 相手がどこに集中するのか。

 相手が集中できていない場所でどんな細工をするのか。

 マジックのトリックと言うのはそう言うもの。


 そういう意味で、集中力を強化するアグリの付与魔法は反則だ。


 アグリも、集中力を『強化』するので、零を一にはできない。

 ただ、銅貨を一枚でも弾けば、相手はそれに目を向ける。集中する。

 そこに付与魔法を使えば、相手の視線は銅貨に釘付けになる。


 あとは細工など仕込み放題だ。


「……っ!」


 その時、アグリの耳に、悲鳴が届く。

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