エルシーズ(ふたたび)
明日で、ハワイ島ともしばしの別れとなる。
朝起きてラナイから外を見るとコハラコーストは、今日も晴れだ。
この前、エルシーさんにも話したとおり、もう一度エルシーズに行ってみよう。
バッグにカメラ、携帯電話、財布、ペットボトルetc.を入れて部屋を出る。
玄関前のバレーパーキングのお兄ちゃんのところに行く。
彼は、最初車を取り違えたことで、顔を覚えている。おはようございますと言いながら車のキーの半券を受け取って、キーボックスからキーを取り出したら番号を確認してパーキングへと走って行った。
車を待つ間に、マウナロアの方を見ると、この前のような雲はかかってはいなかった。
車を受け取る際に、念のためナンバーを確認すると、今度は間違えてないと、どや顔で兄ちゃんは言ってきたので、にやっと笑ってからチップを渡してキーを受け取り、荷物を後ろの座席に放り込んで車を出した。
行きは前回と同じ北回りのルートにして、帰りは南回りにしてみようと思いながら車を走らせる。
車外の景色が、草原からジャングルへと変わっていく景色は、何度か同じルートを走ったので慣れてきたが、天気だけは少し違っていた。
今日は珍しく雨は降ってこない、といっても西海岸のように快晴とまでは行かないが、雲間からの日差しもあるので、なんか不思議だなと思っているうちに、ヒロの街が見えてきた。
ヒロの入り口の橋を渡り、右折して前回と同じパーキングロットに車を止めて店へと歩く。
ヒロの街は、思いのほか天気がいいこともあり、前回とは違い町並みが明るく見える。
今回は、戸惑うことなく店にたどり着いた。もちろん店のドアは開いている。
この前よりは少し早い時間だ。店に入ると、前回の常連さんたちは来ていないようだった。
常連さんたちの席は開けておいた方がいいと思い、前回と同じカウンターの角の席に座ることとした。
エルシーさんが、おはよう、また来たねといって、前回と同じく朝のメニューを流れるように説明してくれた。
やはり、前回と同じくベーコンエッグ、トースト、コーヒーをお願いした。
それを受けてジェームスさんが厨房に入り調理を始める、しばらくすると美味そうなベーコンの焼ける匂いが流れてきた。
料理を待ちながら、外をぼんやり眺めていると年配の女性が通りを渡っているのが、目に入った。
その女性は、通りを渡りきると真っ直ぐ迷わず店に入ってきて、この前常連さんが座っていた隣に腰掛けた。
エルシーさんは、水の入ったグラスを女性の前に置くと、いつものでいいかねとだけ独り言のように話すと、サーバーからコーヒーを淹れて、シュガーポットとミルクポットとともに女性の前にそっと置いた。
しばらくすると、この前とは違う老人が、やはり通りを渡ってくるのが目に入った。彼も、通りを渡りきると迷うことなく開いているドアから店内に入り、先日の常連さんが座っていたカウンターの端の席に腰掛けた。
エルシーさんは、水の入ったグラスを彼の前に置くと、やはり、いつものでいいかねとだけ独り言のように話すと、彼はわずかにうなずくそぶりを見せた。
エルシーさんは、それがいつものことのように自然にサーバーからコーヒーを淹れて、ミルクポットとともに彼の前にそっと置いた。
この店には、なんで看板が目立たないものしかないのかが、判った気がした。
ここが店であると主張する、誘蛾灯のような看板は、ここの店の常連には必要ない、店に来る人たちは何年ものあいだずっと通っている人たちであり、ここに店があるのが当たり前だ。
店の場所は体が覚えている、だから看板の文字が見えなくてもいい、ただ、ここに店があり、その店がエルシーズであることは、みんなが知っているからそれでいいのだと。
そんな簡単なことがわからなかった自分に少し呆れていたら、いつの間にか料理が出来たようで、エルシーさんがコーヒーをジェームスさんがベーコンエックとトーストを私の前に。置いてくれた。
かすかに湯気が立っているベーコンエッグをいつもよりゆっくりと食べていく。
食べ終わり、コーヒーのお代わりをもらいまったりとしていたら、背後に人の気配がしたら、どうやらお客さんが来たようで、エルシーさんがカウンターの外に出た。
コーヒーショップのお客さんなのにと、後ろを振り返ると、やってきた老人の客はエルシーさんに何か話しかけていた。
するとエルシーさんは、物差しのようなものを脇から取ってきて、背の届かないショーケースの上にあるペーパータオルをはたき落として、老人に渡した。
どうやら、老人はペーパータオルが目当てのようだった。彼は、代金を支払いエルシーさんと一言二言話をした後で礼を言って、店を出て行った。
グロッサリーストアならば、既に近所にはKTAストアなんかがあるはずで、普通ならばそちらで買うのではないかと頭をよぎったが、先ほどの店にやってきた人たちのことを思い出した。
彼にとっては、自分が若いときからここにエルシーズがあり、エルシーズがグロッサリーストアだという想い、彼にとっては、それがあたりまえであり、いつものことであると。
ここにはわずか2回来ただけだが、ここの店とそれに係る人たちの時間を感じた気がした。
そんなことを思っていたら、いつの間にかエルシーさんは、カウンターの中に戻ってきて常連さんたちと世間話を始めていた。
そんな世間話をなんとはなしに聴いていたら、女性から、どこから来たのかと話しかけてきた。
私は、この店を訪れたことのある知り合いから、もしかしたら年末に閉めるかもという話を聞いたので、それはもったいないと思いやってきたことや、この店の居心地がいいこととなどを話した。
そうすると彼女は微笑みながら、エルシーズは、日本一有名なヒロのコーヒーショップだと言ったら、エルシーさんたちは、にっこりと微笑んだ。
それからしばらくの間、話の輪に入れてもらっていたが、良い時間になってきたので、会計をして暇の挨拶をすると、エルシーさんが、縁があったら、また会いましょうと声をかけてくださり、私も再訪を約束して、店を後にした。
その日は、せっかくだからとスイサンマーケットに立ち寄ってみたが、時間も遅かったので、魚市場やせりは終わっていた。
丁度小腹も空いてきたので、ロコモコの元祖といわれているCafe100に立ち寄って、ロコモコを食べてからホテルに戻ってから、翌日の移動の用意をしてその日は早々と就寝した。
翌日、アロハ航空でホノルルへ向かったが、残念ながらヒロ発11時58分の便ではなかった。
(続く)