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エルシーズ  作者: Stray__cat
3/8

ヒロへ(北回り-2)

 ワイメア、ハマクア、ホノカアと相変わらず降ってくる雨の中を進んでいく、道の両側は、いつのまにか牧草地から熱帯雨林のような景色が道の両側に現れてくる。


 日本では、雨に濡れた森は、もっと鬱蒼としたはずだが、ここではどこか少し、明るい印象を受ける。

そんな景色の移り変わりを眺めながら車を走らせると、道の右手が突然開けた空き地のようになったところにさしかかった。


 何だろうと、車を脇に止め開けた視界を見つめてみると、そこは墓地だった。

 そこには、本来あるべき西洋風の墓標以外に、結構な数の日本風の墓石や雨に打たれ朽ちかけた卒塔婆などが立ち並び、その外れには教会ではなく、お寺らしきものが見えた。

 そんな一瞬場違いと思えるような景色を眺めていると、ふと「望郷」という言葉が、浮かんできた。


 いくつかの墓地では、墓石の向きは東向き、つまり日本に向いているということを誰からか聞いたことがある。心の中に、言葉にはできない感情が滲み出てくるのを振り払い、再び、車を走らせる。


 しばらく走ると、高台にさしかかった。ここには、ヒロ湾を望む展望ポイントがある。

 こから眺めるヒロの街は、その大きさを改めて認識させてくれる。

 今もハワイ州第二の都市であり、かつてはサトウキビ産業で隆盛を見せた街であることが、クレッセントシティと言われた三日月形の街の全容とその街を囲むように湾内に作られた長大な防波堤から窺い知ることができる。


 坂道を下り、ヒロへと車を走らせる。徐々に道は、ジャングルから家々が立ち並ぶ景色へと変わっていく。

 街の入口であるワイルク川にかかる橋を渡りヒロの街に入る。

 橋を渡り直ぐのワイアヌエヌエ通りへ右折し、ケアヴェ通りとの交差点にあるパーキングスペースに車を止め、ここからは店まで歩いて行くことにする。


 ヒロ、ハワイ州第二の都市であるが、その佇まいはホノルルと比較すると、とても静かで、落ち着いた町である。落ち着いたというよりは、若干寂れた印象も受ける。それは、ホノルルと違い、雨が多い気候、曇りがちの天候から来る印象がそうさせるのかもしれない。事実、ヒロはハワイ州で最も晴天率の低い街である。


 ヒロの町は、西側に旧市街のダウンタウン、東側に新市街があるが、その間を分断するように海沿いから町の中へ切り込むように広大な公園が広がっている。公園の東側の海沿いに広大な日本式庭園もある。

本来、港があれば、それに沿って街が存在するはずであるが、ここではかなりの部分が公園になっている。


 それは、過去にヒロの町を襲ったハリケーンと2度に渡る津波で壊滅状態になった海沿いの部分が、復興せずにそのまま公園に変わったものだった。

 如何に、この街を襲った自然の猛威がすさまじいものであったのかは、その公園の大きさから容易に知ることが出来るが、そんなことを知らない人には、何の感慨も持たないであろう。


 もし、それに興味があれば、ダウンタウンにある太平洋津波博物館を訪れるといいかもしれない。そこには、津波に襲われる前のヒロの街を資料から観ることができ、そして、それを襲ったものがどれほどのものであったのかを認識することが出来る。


 グーグルマップとかで、少し引いた形でヒロの街を見てみてほしい。

 ヒロの街の緑の部分、復興しなかった街の部分を津波が北側から押し寄せてきて、湾内に入り、津波のエネルギーが集中して町の中心部、海抜の低い部分を襲っていったということが、理解できる。


 それは、南海トラフ地震による津波を想像する一助になるかもしれない。

 ちなみに、津波は英語でもTSUNAMIといわれるが、それが一般化したのが、1946年にヒロの街を襲ったアリューシャン地震において、日系人がTSUNAMIという言葉を使ったのが、一つの契機となっている。

 アリューシャン地震を受け1949年ハワイに設置された太平洋津波警報センターの名称もPacific Tsunami Warning Centerである。


 ワイアヌエヌエ通に入ると、両側には、ノスタルジーを感じさせる木造の建物が目に入る。典型的なダウンタウンの風景、ホノルルのように両側に見上げるような高層ビルが並ぶ景色はここにはなく、低層の木造建物が続いていく。


挿絵(By みてみん)


 海沿いには、少し高い建物も並んでいたが、街に入ると二階建て程度の建物が並んでいる。道の両側には歩道が整備されており、道路は、かまぼこ状になっており、雨水は両側の歩道にところどころ設置されている側溝の開口部分から、下水に流れ込むように作られている。

 また、歩道にはアーケードが設置されており、人々が雨を気にせずに歩けるようにと作られたものである。これらは、遙か昔ヒロの街が今とは異なり隆盛を極めていた時代に整備されているようであり、当時のすごさがうかがい知れる。


 車をパーキングスペースに止めた頃に、雨は降りやんだが、太陽は顔を見せずに相変わらず機嫌の悪そうな空が街を覆っていた。


(続く)

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