第1章 (3)
校門を出たが、両脇の広い通りには、水色のワンピースの姿はない。
僕はすぐ側にある、狭い路地のことを思い出す。
距離的に、この道で曲がったんだろうか。
アスファルトの上に、陽炎が揺らいでいた。
揺らぎのせいではっきりと見えなかったが、水色を着た後ろ姿が次の小路の左に曲がったのが見えた。
飛び出そうとしたその時、大きな長いトラックが二台続けて交差する道をのろのろと横切ってきて、僕は足止めを食らった。ヒヤリとしたし、なんてタイミングの悪さだ。
焦る僕の心に反して、納涼な服装の彼女は早足で駆けていって、そのまま狭い道を抜けるように去ってしまった。
それからも、僕をあざ笑うように、彼女の後ろ姿は、入れ違いに角を曲がって見失いかけたり、途中で車が何台も横切ったりして、間が悪いことに追いつくことができない。
「…………え?」
だけど僕は、ある事に気がついて、ふいに自らの歩みを緩めた。
彼女が歩く道の数々は、この街で生まれ育った僕がよく知る、とある場所へ続く裏道と、全く一緒だったからだ。
その路地のルートを、彼女は早足で抜けていく。勘違いではない。「あの場所」にたどり着くための迷路のような道順に、非常に正確に沿っていた。
彼女の歩みは、明らかに、僕の秘密の場所へと、続いている。
高校からは、徒歩での最短距離だった。
彼女が公園の路をぬう未舗装のせまい木立を横切ったとき、その疑惑は確信に変わった。
僕は今や、彼女に追いつくためではなく、彼女が目的地にたどり着くところを見届けようと、ひたすら後を追っていた。
その場所とは、迷路のような路地を抜け、坂道を行った先にある、さびれた小さな伏見稲荷の高台だった。