表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/32

第1章 (3)

 校門を出たが、両脇の広い通りには、水色のワンピースの姿はない。


 僕はすぐ側にある、狭い路地のことを思い出す。


 距離的に、この道で曲がったんだろうか。


 アスファルトの上に、陽炎(かげろう)が揺らいでいた。


 揺らぎのせいではっきりと見えなかったが、水色を着た後ろ姿が次の小路の左に曲がったのが見えた。


 飛び出そうとしたその時、大きな長いトラックが二台続けて交差する道をのろのろと横切ってきて、僕は足止めを食らった。ヒヤリとしたし、なんてタイミングの悪さだ。


 焦る僕の心に反して、納涼(のうりょう)な服装の彼女は早足で駆けていって、そのまま狭い道を抜けるように去ってしまった。


 それからも、僕をあざ笑うように、彼女の後ろ姿は、入れ違いに角を曲がって見失いかけたり、途中で車が何台も横切ったりして、間が悪いことに追いつくことができない。


「…………え?」


 だけど僕は、ある事に気がついて、ふいに自らの歩みを緩めた。


 彼女が歩く道の数々は、この街で生まれ育った僕がよく知る、とある場所へ続く裏道と、全く一緒だったからだ。


 その路地のルートを、彼女は早足で抜けていく。勘違いではない。「あの場所」にたどり着くための迷路のような道順に、非常に正確に沿っていた。


 彼女の歩みは、明らかに、僕の秘密の場所へと、続いている。


 高校からは、徒歩での最短距離だった。

 彼女が公園の路をぬう未舗装のせまい木立を横切ったとき、その疑惑は確信に変わった。


 僕は今や、彼女に追いつくためではなく、彼女が目的地にたどり着くところを見届けようと、ひたすら後を追っていた。


 その場所とは、迷路のような路地を抜け、坂道を行った先にある、さびれた小さな伏見稲荷(ふしみいなり)の高台だった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ