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第1章 (2)
教室を出て、職員室前の廊下にたどり着くが、水色のワンピースの彼女はもうそこにはいなかった。
「おお、城田か。今日は蒸し暑いな、まったく」
代わりに職員室の扉から出てきた、ポロシャツとジャージのズボンを着て髪を後ろで結んだ担任の倉井先生が、僕を見て片手を上げた。
「さっきまで話してた、佐野さんはどこに?」
『明るいけど倉井先生』と自称し、『くらちゃん』と生徒たちに呼ばれる、まだ教師歴の浅い体育副担当の彼女は、きょとんとした顔をした。
「なんだ、お前、佐野の知り合いだったのか?」
やっぱり、転校生とは、さっきの水色ワンピースの彼女だったのか。だけど、今やその事実は、些細なことだった。
「佐野なら、書類を取りに来てさっき帰ったけど? 体調が良くなってきたらしいから、そのうち――って、おい!」
僕は、先生の言葉が終わらないうちに踵を返して階段を降りた。
正面玄関に付くと、揺れる水色の衣服が遠く前方に見えて、僕は慌てて上履きからスニーカーに履き替えると、『風の又三郎』を持って彼女のあとを追いかけた。