飯マズ問題を解決するためにも、この国を脱出する相談をしました
よろしくお願いします。
一応一通り食べてみた。
黒パンは酸味が強く堅焼きせんべいの様に硬い。
スープの野菜に火は通っているけど味が薄い。野菜の旨味は感じられず薄い塩味のみ。
ステーキはなんだろ?血生臭い。硬いし表面は美味しそうに焼けてるけど中はレアっていうか生。
ヤバい、どうする?!飽食日本で生まれ育った俺にこの飯マズ状態がたえれるのか?!
先代勇者様なんで食事改善してくれなかったんだっ!
俺は男の料理程度でチート知識なんて持ってないんだぞ!
せめて前の世界の物を取り寄せできるスキルが欲しかった!!
心の中が荒れ荒れだ。
召喚されて元の世界に帰れないのは諦めついてるけど、食べ物に関しては諦められない。
ロマンスグレーの紳士の所で飲んだお茶が割りといけてたから油断した。
要検証どころか最重要課題だぞこれ。
この国を出たら絶対取り掛かろうと心に決めた。
その為にもさっさとピアの事を片付けよう。
「ピアの話を要約すると、第二王子が婚約破棄の件で落ちた権威を復活する為に、魔国でも攻めて戦果を上げる為に司教にそそのかされて勇者召喚をしたと」
「お、おう」
急に平静を取り戻して喋り出す俺に戸惑いながらもピアは返事をして食事を始めた。
豪快にステーキの半分を口に放り込む様子を見ながら考える。
ほっぺたはリスの頬袋みたいになってる。
それだけじゃないよな。
多分国王陛下とかその周囲の面々はガッツリ関わってるよな。
たまたま国王陛下たちが留守だったり、教会に厳重に保管されてるだろう勇者召喚の事を司教が手に入れたり、幽閉されてるはずの第二王子が誰にも咎められずに城内を歩けたり…上げたらきりがない。
ただもう先がない第二王子やあの体型からしてろくなことをしてなさそうな司教を失脚させる為だけに、おそらく大陸で歴史的にも大事な勇者召喚をたかが一国が容認するだけで行う事が出来るんだろうか?
ピアは話した以上の事は知らないだろうな。
俺の視線を感じて小首を傾げる。いや可愛くないから。
「そういや、一泊つーことは明日にはここを出て行くんだろ?旅支度もいるし何時に出るんだ?」
その質問に怪訝な顔をすると口の中の物を飲み込んで捲し立ててきた。
「ちょっと待てよ、俺をおいて行くなよ!絶対ついて行くんだからなっ!」
「何言ってんだよ。近衛じゃなくなっても騎士の仕事があるだろ?無責任な事は俺が許さん」
「ちゃんとゲイツ様に許しを請うから待っていてくれ!」
「いや、いいよ。目立ちたくないから独りで行く」
本当、ピアは目立つ。
平民はどうやら焦げ茶っぽい髪色やまばらに金髪に近い色が多いみたいで、ピアみたいな鮮やかな赤い髪はいなさそう。しかも2mはあるだろう巨体だ。
俺はこの世界でも平均っぽい170cmちょっとだし、黒髪に焦げ茶の目の色だから平民に溶け込める。
それに右頬にある傷。名誉の負傷じゃないよな、あれは。
…俺のチート魔法で治せるか?
好奇心に負けてピアの右頬に手をかざす。
医療の知識があるわけじゃないけど、出来るだけ傷が治るイメージで…
俺の手から白い光が灯り徐々にピアの顔、部屋全体へと広がっていく。
暫くして手に反発を覚えて意識を戻すと光も収まった。
唖然としていたピアはそっと自分の右頬に触れ、目を見開いてマジックバッグから鏡とは言い難い欠片を取り出し顔を映した。
そこに映ったのは傷のない頬。
「ふぁー!!すっげえ!さすが勇者っ、王宮の治療師でも治せなかったのがあっと言う間だ!
でもこれで髪さえなんとかすりゃあ、着いていけるな!」
「いや、それとこれとは…」
「何いってんだ、目立ちたくねぇなら勇者って知っててこの世界をよぉく知ってる、しかも旅の途中で魔獣に襲われても警護出来る俺ならお供にぴったりだぞっ。
ゲイツ様が勇者は平和な世界から来てるから魔獣でも殺す事になかなか慣れなかったって言ってたもんな!」
ゲイツ様とやら余計な知恵を…。
俺はゴキブ○リなら容赦なく殺るけど、蜘蛛は益虫として逃がす派だ。
う~ん、確かに勇者の事知ってて、この世界の事ももちろん知ってる、しかもすごく強そうだもんなぁ。お得だよな…。
「…じゃあとりあえず、この国を出るまでで。後はまた要相談ってことでどう?」
こっちに都合のいい話だけど。
なのにほっとした顔で笑ったんだ。
「それでかまわねぇ。国を出るまでにお供として認めさせりゃあいいんだもんなっ!」
この真っ直ぐさがキラキラ眩しい。
「そうと決まればどこに行くか決めとこうぜっ」
そう言ってマジックバッグから今度は古い羊皮紙を取り出して広げた。
「地図?」
「おう、詳しいのは軍事機密になってっから、冒険者は皆このおおざっぱなもん使ってんだ」
本当に大雑把、子供が宝の地図を書いた様な感じ。大体の国の位置と山があったり森があったりが解る程度だ。
余談だがこの世界は紙が普及してないのか?
「なんとなく魔国じゃない方が気が楽かな。仮にも魔国と戦う為に召喚されたらしいし」
「ぷっ、そうだな仮にもだな」
「となると反対の東の方、海なんていいな」
港があるだろうから、貿易してたら俺でも扱える食材があるかもしれないしな。
ちなみに大陸の中心に今いるアールスト王国があってその北西に魔国がある。
俺が行き先として指し示したのは大陸の最東、ちょっと南にあるジュポン国と言うらしい。
「いいんじゃねぇか。ジュポン国は魚がうめぇし、いろんな国の物が港に入ってくる。
なんと言っても3つもダンジョンがあるっ!」
「行かないぞ。忘れてるようだけど一緒に行くのはこの国を出るまでだぞ」
「わかってるって!そんで要相談なんだろ?まかせろっ」
いや何を?本当にわかってんのか?
まぁそれより…
「問題はこの森かな」
地図によるとアールスト王国とジュポン国の間には深遠の森なる結構大きな森がある。
だから普通の旅程で行けば森を大きく迂回する安全な街道を選ぶ。
そうなるとなかなかこの国を出られない。
「おめぇ、慎重なのか大胆なのかわかんねぇな。普通森を突っ切ろうとは思わねぇぞ。
だがおもしれぇ!」
膝をパシンと叩いて豪快に笑いだした。
「いや、日持ちする食料をピアのマジックバッグに入れてもらって、魔物は程々に倒してもらいながら、俺のチートな魔法結界があれば行けるんじゃないかと思ったんだけど」
ちょっと大胆な計画だけど魔力∞らしいしな。
「おお、そんで足に俺の愛馬に乗っていきゃあすぐだな」
「馬?乗馬なんてした事ないから徒歩のつもりなんだけど」
「何言ってんだ、歩きだと50日はかかるぞ」
マジか。本当にこの地図大雑把過ぎて距離の感覚がわからん。
ううう…
「よし、念の為60日分の食料を用意しよう」
「おいっ、…はぁしょうがねぇ、なるようになるか」
そう言うとテーブルと椅子をマジックバッグにしまいながら、明日の予定を確認する。
「じゃあ明日朝鐘七つ頃迎えに来るから。そんで俺の行きつけの店で旅支度揃えて出発だ」
「それまでに騎士を辞める許可とれるのか?」
「…だ、大丈夫だ。ゲイツ様はまだ城の詰所にいるはずだ」
こいつ忘れてたな。
大将軍が城の詰所にいるのか分からないけど、まぁ無理なら置いて行こう。
そんな俺の不穏な考えに気付くことなく、ニカリと白い歯を見せ手を上げた。
「おっし、また明日な!」
元気よくそう言って出て行った。
なんだか嵐の様に騒がし奴だったな。一緒に行くのはやまったか?
そう思いながらもベッドへ倒れこむ。
枕元の黒ネコがビクッとしてたけどお構い無しだ。
今日はいろいろ有りすぎて疲れた。
明日も早いし、おやすみなさい……
ありがとうございました。