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城を追い出されたら素敵な紳士と会いました

宜しくお願いします。

いや本当に計画通りなんだからな。

あのまま奴らと一緒にいたらいいように使われて無駄に死ぬ未来しか見えない。


そもそも国を挙げての大戦の筈なのになんで、高位らしいのが第二王子と教会関係者ぽい肥満体の老人しかいないのか?

しかもたった五人で戦うなんて無策な事を仮にも国の中枢にいる人間が考えるか?

勇者(おれ)を召喚するのも一大事だろうにあんな頭の中がお花畑なヤツに任せるだろうか?

疑問は尽きないので、早々に離れて正解な筈だ。


まぁ無一文で追い出されたんだけど。

言い訳めいた事を考えてると黒ネコが「みぎゃ~」とため息混じりにまた鳴いた。

えらく人間っぽいヤツだな。鑑定にでた【聖獣】ってのと関係あるのかな?

その辺もじっくり検証したいんだけど、さてどうしようか…。


まずは路銀だな。早くこの国から出ないと絶対難癖つけられそうだ。

それと服装かな。今の俺は二着で39800円のステキ価格な濃紺のスーツだ。

これは目立つ。

その辺を歩いてる平民らしき人達は貫頭衣みたいなのを重ね着したりして、男性はパンツをブーツに突っ込んでる人が多いみたい。年配の女性は踝丈のスカート、若目の女性は膝下丈のスカートにロングブーツな感じ。

あとは冒険者なのかな?簡単な鎧を着けてる人や胸当てだけの人もいるし、男性でもハーフパンツの人、女性では短パンやミニスカートの人もいる。動き易さ重視なんだろうけどやっぱりあいつらみたいなコスプレはいない。

ちょっとホッとした。現代日本のキャミソールやらチューブトップやら知ってるけど、あいつらみたいなのがうようよしてたら草食系の俺は(自称)ノイローゼになりそうだ。


そんな事をつらつら考えながら歩いていたら見つけました、ちょっと上品な仕立て屋らしき建物にその扉から肩にメジャーをかけてこちらを窺っているロマンスグレーな紳士。スーツが珍しいからか大きく目を見開いて固まっている。


「こんにちは」


この世界で通じるかわからないけど、営業スマイルでご挨拶。

そうするとあちらも満面の笑みになり勢いよく俺を店内へいざなった。

店内は落ち着いた木目を基調としていて、布地を壁際に規則正しく並べている。

吊しの既製服の店しか知らないので物珍しくてキョロキョロしてる間も、ロマンスグレーな紳士はご機嫌に口すべらかだ。


「いやぁこの少し光沢のある、でも頑丈そうな生地は見た事がありません。縫製も縫い目が均一で素晴らしい。色合いもこの様に鮮やかにでるものではございません、素晴らしい技術ですなぁ」


べた褒めである。

召喚の間や街の雰囲気からして察してたけど、この世界は布を織る技術も染色技術も比べるもなく、縫製も当然ミシンなんかなく手縫いなんだろう。

本来上品なロマンスグレーな紳士ですら物欲しそうな眼差しは止められないみたいだ。


「実は訳あって目立ちたくないので、この服を売りたいのですが…」


「私どもにぜひお譲り下さい!なるべくご要望にお応えします!」


言い出しが下手くそだったけど、食い込みにきてくれて助かった。


「こちらこそお願いします。それと平民的な旅装が欲しいのですが」


「適当な物を見繕うよう使いの者に買いに行かせましょう」


俺の腕の中で縮こまっている黒ネコを見ながら気を利かせてくれた。

有難い、ネコを抱えながらあちこち店に行けないからな。


それから買いに行ってもらっている間にお茶をだしてくれた。

何気にこの世界で初めての飲食だな。

見た目は紅茶っぽいけどいろんな花の香りがする。

味は紅茶(詳しくないので銘柄はわからない)の味に後から花の味?香り?がする。

ちょっと紅茶に気をとられながらも、聞かぬは一生の恥と思い子供でも知ってそうな事を聞いた。


まずお金の単位。


鉄貨  →  10円

銅貨  →  100円

銀貨  →  1000円

金貨  →  10000円

大金貨 →  100000円

白金貨 →  1000000円


だいたいこのくらいの価値、物価はこちらの方がやや安め。成人男性一人なら一月大金貨1枚で暮らせるらしい。10進法で助かる。


ついでに時間は12進法で言い方も元の世界と同じなんでこちらも助かった。


他にもいろんな話を聞いた。

スーツで機嫌がいいのか、もとから気がいいのか親切に教えてくれた。

この後泊まる治安そこそこで安い従魔okの宿。そんな無茶ぶりにも答えてくれた。


そうこうして膝の上で黒ネコがあくびをした頃、お使いの人が帰ってきた。

生成色の貫頭衣と腰紐で調整するズボン、ショートブーツにフード付の焦げ茶色のマント。これは皮そのままの色らしい。なんの皮だろう?

それに黒ネコが入るカゴっぽい形をしてる斜めがけの鞄。中には柔らかい布まで敷いてくれてる。

黒ネコは早速鞄にはいり「に~」と嬉しそうに鳴いた。

俺の持っている鞄はスリーウェイのビニール製のビジネスバッグなので厚みがないから助かった。


早速買ってきてもらった服に着替える。多少ゴワゴワして着心地が悪いけど仕方がないよな。

そう思いながらスーツを畳むロマンスグレーの紳士を見る。


「ハンガーにかけないんですか?シワになりませんか?」


「?」


「??」


お互いに訳がわからない。俺なにか変な事いったか?


「確かにこのままではシワになりますので【アイロン】と言う魔導具でシワを伸ばさないといけませんが、【ハンガーにかける】とはどういった事でしょう?」


しまった、それかっ。

元の世界では当たり前過ぎてうっかりした。

仕立て屋だから製品は置いてないのかと思ってたけど、よく見ればチェストや長持の様な物がある。


あー、どうすっかなぁー。いろいろ親切に教えてくれたから心情的には教えてあげたい。

どうせ早ければ明日にはこの街を出るしいいかな…、いいよな?


で、教えました。ハンガーとハンガーラック、あとクローゼットの様なものも。

固めの針金で半円を作ってかける部分を作り、肩を支える枝?部分を作る。これでよっぽど襟首が広くない限りかけれる。

これをかけるのに其なりの重量に耐えれるポール、個人的な部屋にそれを取り入れると店的にも個人宅的にも見映え良く収納力マシマシな物が完成するはず。

あとは使い勝手よく工夫してくれるだろう。

ついでにトルソーなるものも教えといた、ちょっとやけくそだ。


その結果がこれです。はい、ドーン!

ローテーブルに積まれた大金貨しめて50枚!


「なんですか、これ?」


「ええ、少ないとお思いでしょう。しかし何分未知の物ですからこれでご容赦願えればと」


「いやいやいやっ、服の代金じゃなく、ハンガーなんかのアイデア代なんですよね?!多すぎますよ!」


小説読んでる時は現代知識の横流しだからって遠慮せず、貰える物は貰えばいいじゃん。って思ってたけど、良くしてもらった相手からこんなに貰うのはさすがに気が引ける。


「何を仰いますか、こんな画期的なこと、これでも安過ぎるくらいですよ。我々服飾関係だけでなく、住宅事情、いやそれより王侯貴族様方のお屋敷やお城までも変えてしまうことでしょう!」


ロマンスグレーの紳士大興奮、お使いの人も必死に首を振ってる。

これは素直に受け取らないと収まらないな…。


「分かりました、有り難く頂戴します。ただもうお分かりと思いますが私は少々訳ありなので、私の事は極秘でお願いします」


「もちろんです。ああ、大金貨10枚越える取引ですから魔導契約する際にそちらも明記しましょう」


いやぁ、思わぬ幸運だったな。有難い。

こっちの世界に来て早々とんでもない奴らに会ったけど、いい人に会えてよかった。

これからの生活にちょっとは希望が持てるな。


気分良く別れた俺は知らない。

ロマンスグレーの紳士は先見の明があったらしくこの怪しげな国から移り、新しく出した店にディスプレイを取り入れ店舗また収納の革命児と呼ばれる事を。


ありがとうございました。

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