名も無き日の想い
温かな日差しが眩しく空を照らす下で、ぼくときみは今日も日向ぼっこを楽しむ。
街を一望できる草木豊かな丘の上で、家からはじまる小さな冒険の達成感に浸っているのだ。
丘を吹き抜ける心地良い風が青々と茂る草原の葉を揺らし、木に集まる小鳥たちが歌うように鳴いている。
そうした辺りの情景に気づき始める頃には何故だか瞼は重くなっていて、満を持した微睡みはぼくらを夢の中へと連れていく。
ぼくはそんな瞬く間に過ぎてしまう時間を口惜しく思うけど、きみはどう思ってるだろうか。
その宝石のように輝く綺麗な瞳には、この世界はどんなふうに映っているのだろうか。
いつまでもふたり並んで歩いていけるなんて保証はどこにも無くて、確かじゃない未来に不安になるときもある。
きみは今幸せなんだろうか。
ぼくは……──
辺りが茜色に染まる頃にぼくは目覚めた。
きみは夕日と共に色を変えていく街の景色を眺めていた。
「おはよう、ノラ」
ぼくが目を覚ましたことに気づいたきみは、取ってつけたような呆れ顔で笑ってくる。
そんな顔を見てぼくは、また明日もここへ来たいと思うんだ。
恥ずかしくてきみには言えないけれど。
「うん、おはようマリア」
明日も晴れるといいななんて考えながら、ぼくらは帰り道を歩き出す。
いつも一緒のぼくらなら、これから先もずっと一緒に居られるだろうか。
淡い光とともにぼくらは街へ溶けていく。