佐古修 後日譚
自分のPCの前日譚や、後日譚って、色々と想像が広がりますよね。
私はそういうの想像するの、大好きです。
……前にも同じこと書いたな。
ともあれ、今回は、以前私が投稿したダブルクロス the 3rd リプレイ
『ラノベにありそうなハンドアウトタイトルを貰った四人が集った顛末はこうなりました(仮)』
に出てくる佐古修というPCを、主軸に据えたお話です。
リプレイの内容も踏まえての話となっておりますので、ご興味があればそちらもご覧下さい(宣伝)。
色々考えた結果、なんとDロイス2個持ち状態になったので、佐古くんはNPCとして何処かで使えたらいいなって思ってます。
Dロイス2個とか、PCで使ったらジャーム化の予感しかしない(笑)
「そういえば支部長、親御さんはどちらに? オレの親は、U市にいるんすけど。」
事務仕事をしながら、優希が尋ねた。
無音の空間に耐えられなくなったらしい。
「知りませんねぇ。」
対する佐古の答えは至ってシンプルだ。
報告書を書く手も止めない。
「え? 行方不明……とか、すか?」
「いえいえ。僕が知らないだけで、何処かで生きてはいると思いますよ。」
あくまで手は止めないまま、受け答えをする佐古。
「まあ、保護者はちゃんと居ますから。日本支部に。」
「日本支部!? エリートじゃないっすか!」
「実際強い人ではありますね。原島さん、って、言うんですが……その人が居たから、僕は今UGNにいるんですよ。」
「へぇー、そうなんすね。」
話しながら、優希が再びキーボードを叩き始めた時、佐古がポソリと呟いた。
「最初に保護されたのがFHだったら、FHエージェントをやっていたでしょうね……。」
「えぇ!? 支部長が!? 全然合わなそうっすよ?」
驚く優希に佐古は続ける。
「まだ善悪も分からない……そんな年齢の頃だったんです。僕がUGNに保護されたのは。」
「……本当のご両親に会いたい、とか思わないんすか?」
「思いませんね。今更会っても、どうなるものでもないでしょうし。」
「でも、あっちも会いたがってるかもしれないじゃないっすか!」
「それは無いでしょう。育児放棄されてたらしいですから、僕。」
「え……」
「原島さんがその状態に出くわして、放っておけないってことで、保護してくれたんだそうですよ。」
「そう、だったんすか……。て、ことは、支部長さんは生まれつきオーヴァードだったとかっすか?」
非オーヴァードの親元にオーヴァードが生まれれば、受け入れ難いだろうと考えての、優希の質問。
だが。
「いえ。オーヴァードには、原島さんに保護された後になりました。僕の本当の両親は、原島さんの親戚筋の人らしくて。それで引き取ってくれたところもあったみたいですよ。」
事も無げに語る佐古。
だが、内容は中々にヘヴィだ。
「……」
何と返したものか悩む優希に、さあ、と佐古は声をかける。
「今日はここまでにしましょうか。キリのいい所で、優希さんも上がってください。ーーーー変な話してしまって、申し訳ありません。」
苦笑しながら言う佐古は、少し疲れた表情にも見えた。
(でも、自分の親のことなんだし、気になってないことはないんじゃないかなー……。)
支部長も素直になれないのかな。
よし、オレが見つけてあげよう。
居場所まで分かれば、支部長も会いに行きたいって気持ちになるかも!
そう考えた優希は、自身のコネや端末を使って、佐古の過去を、そして両親の居所を探った。
数日後、目的の情報は手に入った。
「見つけましたよ! 支部長のホントの親御さん。」
そう言って、1つの紙片を佐古に向けて差し出す優希。
紙片には、住所が書かれてある。そこに、佐古の本当の両親が住んでいるのだという。
その紙を受け取った佐古は、自分の中の何かがザワつくのを感じた。
黒い感情を乗せた言葉が口をつきそうになり、咄嗟に口を引き結ぶ。
そして、1つ息を吐いた後、佐古はゆっくりと言葉を紡いだ。
「……ありがとう、ございますーーーー。」
普段口にする礼とは、大きく違うことを認識しながらも、笑顔で繕うことは忘れなかった。
その時、支部のインターフォンが押された。
「はい、どちらさまでしょう?」
まずは音声で対応をしながら、佐古はインターフォンのカメラをオンにした。
『よぉ、修。久しぶりだな。』
精悍という言葉が似合う中年男性が、インターフォンの画面の中に立っている。
「え? 誠志郎さん? 何故ここに?」
『近くに用があったからな。ついでに顔出しに来た。』
「そうだったんですか。どうぞ、中へ。お茶でも煎れますよ。」
佐古が誠志郎と呼ばれた中年男を招き入れる。
「よぉ。」
「お久しぶりです。お元気そうで何よりです。」
言いながら、誠志郎を応接セットへと促す佐古。
にこやかな表情の佐古を見て、誠志郎はわずかに目を細める。
「おい修。お前……」
「はい? どうしーーー……っ!? ……っく!!」
佐古が突然苦悶の表情になり、自身を抱えるように蹲った。
「っち、馬鹿野郎が……!」
誠志郎が、小さく毒づく。
「ちと手荒になるが、仕方ねーか。」
そう言うと誠志郎は、右の拳を腰だめに構え、素早く突き出した。
目に見えない力の奔流が、蹲る佐古に向けて放たれる。
「なーーーーッ!?」
目の前で行われたことについていけずに、優希は半ば呆然と成り行きを見守る。
周囲の気温を変えるほどの勢いで放たれたその攻撃を、瞬時に右手を上げた佐古が、拳銃の銃身で止めた。
「危ないなぁ、もう。誠志郎さんてば。」
「こうでもしなきゃ、テメェが出てこれねえだろうが。」
ゆったりとした動作で立ち上がる佐古に対して、苦々しい表情で応じる、誠志郎。
「あはは。まあ、助かりましたよ。実際ね。」
丁寧に応じているように見えるが、普段の佐古とは感じが違う。
その「違い」の原因が分からないまま、優希は佐古に話し掛けた。
「あ、の……支部長……。」
「ああ、優希さん。……困ったことをしてくれましたねぇ。」
「え?」
「佐古修の本当の親の情報、こいつに見せたでしょう?」
自身の心臓の辺りをトントンと左手の親指で指しながら、佐古が言う。
「え? あの、……え??」
「あれねー、結構クリティカルに“知られたくない”情報だったんですよ。こいつが。」
そう言うと、佐古は優希に向かってにこりと笑いかける。
「あー……なるほどな。それが原因か。」
誠志郎が、がしがしと頭をかきながら呟く。
「それで、暴走しかけたのか。……ったく。」
「ど、どういうことなんすかっ!?」
自分だけが置き去りにされている感覚に苛立ちを覚えながら、声を上げる優希。
「佐古修は、自分の本当の親の居場所を、実は知ってたんですよ。」
「え? じゃあ、どうして……?」
「自分を捨てた人間同士が、自分ではない新しい人間を加えて家族をやってるトコ、見たいです?」
「え、それってーーーー」
「自分を除外したら、家族が再構成されたーーーーそれってつまり、自分が家庭崩壊の元凶だったんだってコトになりません?」
「そんな……」
「佐古修はね、そう思ったんです。……そして、『俺』が生まれた。俺は、佐古修の自身に対する嫌悪の象徴なんですよ。」
「まぁ、早い話が、こいつは修の裏の人格ってこった。」
誠志郎が佐古の言葉を引き継ぐ。
「上手くストレスを流せればいいんですけどねぇ。いつまでも俺がいる状態なのも、良くないですし。」
「だぁから、もっと力抜いて生きろって、いつも言ってんのによー。」
「佐古修は、自身に善良であることを強いてますからねぇ。誠志郎さんみたいには、なれませんって。」
「その言い方じゃ、オレが善良じゃねぇみたいに聞こえるんだが?」
「そう言いましたから。」
「んだと、コラ!?」
じゃれ合うような2人を見て、優希は思った。
さっき感じた「違い」の原因は、この慇懃無礼さだったのだと。
「えっと、その……支部長は、二重人格だった、ってことっすか?」
「ああ。」
端的に肯定する誠志郎。
「こいつが主人格ーーーー善の担当で、俺が副人格。悪担当です。」
にこりと笑って、佐古が引き継ぐ。
「さて。じゃ俺、ちょっとダラダラして来ます。丁度いい所にいた誠志郎さん、あとよろしくです。」
「……しゃーねぇな。行ってこい。」
ひらひらと誠志郎に対して手を振り、佐古は部屋を出て行った。
「…………おい、坊主。今この支部が速攻で対処しなきゃなんねぇ問題は、特にねえな?」
佐古が出ていった扉を見つめながら、誠志郎が優希に問う。
「え? はぁ……特には。あ、でも、報告書がーーーー」
「よし。じゃあ、文書関連は修が戻って来たらやらせりゃ問題ナシ! 待機だ。」
勝手な論を唱えて、支部長の椅子に深々と腰掛けると、リラックスした様子で端末をいじり始める誠志郎。
どうしたものかと、呆然とする優希に、
「なぁにつっ立ってんだ? やりたいコトあんならやってていいぜ? 緊急出動でもなきゃ、暇なんだしよ。」
と、軽い調子で誠志郎は言うのだった。
「……あの。」
「ん? 何だ。」
「支部長の、その……二重人格のこと、どうしてご存知だったんすか?」
報告書を打っていた手を止めて、意を決したといった様子で尋ねる、優希。
「オレは、あいつが『出てきた』時にたまたま居合わせたからな。」
対して誠志郎は、端末に目を落としたまま応じる。
「修は、主人格の方が主導権を握ってるらしくてな。副人格の方も、自分がサブだってことを心得てやがるからか、副人格は滅多に出てこねぇ。主人格の方に余程のことが起きない限り、な。」
「そうなんですか……。」
「ま、今回は主人格の方が“暴走”しかけたから、無理くり副人格ーーーー戦闘用人格を起こしたけどな。」
佐古修は、自身に「常に善人たること」を課した。
親にすら棄てられた自分は、善でなければ存在してはならないと認識していたからだ。
怒りや恨み、他人を羨んだり傷つけたりすることを、自分はしてはならないのだと、強く自制し続けてきた。
実際それは、功を奏していると言えた。
人当たりの良さや面倒見の良さで評価を受けた佐古は、若くして支部を任せられる程になったのだ。
勿論、アルフレッド・J・コードウェル博士の帰還以後の混乱もあっただろう。
UGNとしては、FHに寝返るかもしれない人間を新支部長には据えられない。
必然、チルドレン上がりで、養成施設で教官めいた仕事をしていた佐古に辞令が下ることとなった。
支部長就任にあたり、佐古は自制をより強めた。
支部長になってしばらくは、目が回るほどの忙しさというやつで、些事を考える余裕はなかった。
だが支部運営が落ち着いた頃、ふと自分の出自が気になった。
今となっては、魔が差したとしか思えない考えだが、当時は調べてみてもいいかという気になったのだ。
何も覚えていないとはいえ、自身の過去のこと。
別段秘匿されていたわけでもない親の情報は、容易に手に入った。
自分の親が二人とも同じ住所ーーーーそれも、現在居る所からそう遠くない土地で生きていると知り、佐古はそこに足を向けた。
たどり着いたそこは、小さな一戸建てだった。
中から、小さな子供の声が聞こえる。
そして、子供をあやす様な大人の声も。
外から聞いただけで分かる、それは、「幸せな家庭」の風景だった。
その時心に沸いたものを、佐古は全て閉じ込めた。
そして、静かにその場を離れ、二度と近づくまいと決意したのだった。
そうやってずっと負の感情を閉じこめ続けてきた佐古だったが、ある時限界を迎える。
佐古は自身の中に、もう1人のーーーー負の感情を担う人格を作り出したのだ。
ただしここでも、佐古の自制力が強く働く。
その人格が外に出ないよう、無意識下で抑えつけたのだ。
長い長い時間をかけて溜まった澱が確実に佐古を蝕み、後詰の任務の最中に意識を失うに至って漸く、もう1人の人格が表に出た。
「ーーーーったく、無理し過ぎでしょう。こいつは。」
それが、もう1人の佐古の第一声だった。
共にそこにいた誠志郎が真っ先に佐古の「異状」に気付き、他のエージェントから遠ざけた為、今のところ佐古の二重人格のことを知っている人間はほとんど居ない。
「ーーーーで、今回は家族のことを優希さんに『知られた』ことで、被害妄想が強く呼び起こされました」
とさ、と小さく呟き、佐古は閉じていた目を開けた。
一眠りしてもまだ元の人格が目覚める様子がないあたり、今回のストレスは強いものだったらしい。
「過去を知られたら嫌われる、なんて……妄想ですよ。」
大丈夫大丈夫、と佐古は一人呟く。
実際、優希がどう思っているのかは判らないが、主人格がネガティブに捉えていることを、どうでもいいことと切り捨てるのが副人格の役割だ。
「戦闘用人格……」
「そー。……オレが知ってる限りじゃあ、あそこまで徹底してサポートに回る副人格ってのも、珍しいがな。」
本来ならこんな説明は面倒くさいと他人に丸投げするところだが、今ここにそれが出来そうな人間が居ないのだから仕方ない。
修のやつ、早く起きねぇかなあと思いながら、今回の顛末を解説してやる。
目の前の坊主は、なるほどーなどと言っているが、実際のところ何処まで理解っているかは判らない。
「あ、二重人格のことは、あんま他人に吹聴すんなよ?」
「はい。もちろんっす!…で、あの……支部長が元に戻るのには、どのくらいかかるんすかね?」
優希の疑問に、誠志郎はさあなぁ、と応じる。
「最初ん時は4日程ほとんど寝っぱなしだったからなぁ。ちょこちょこ目を覚ました時に副人格と話したんだが、主人格がいつ目覚めるかは、ヤツにも分からんらしい。」
「そうなんすか……。」
「ま、今回は『変わって』から少し喋る余裕があったからな。最初ん時よりは幾分かマシだろうよ。」
戦闘行為がストレス発散になるなら、話は早ぇんだがな、と誠志郎は続ける。
「ストレスが無くなれば、支部長が元に戻る……ってことっすか。」
「まぁ、そうだ。んで、修の場合それは、安静にすることでのみ快復する……んだとよ。」
「……じゃあ、オレらに出来ることは待つことだけってことっすか。」
「あ? オレ『ら』だぁ? 待つのはオメーだけだろう、坊主。引き継ぐ奴も見つかったし、オレは帰るぜ。」
誠志郎は、さも当然のことといった風に言う。
「ええっ!? い、居なくなっちゃうんすか!? オレ1人じゃ無理っすよ!!」
情けない声を出す優希に対し、まぁ大丈夫だろと根拠の無いことを言う誠志郎。
「引き継ぐ奴も、おっつけ来るから心配すんなって。じゃ、な!」
そう言い残すと、誠志郎は去っていった。
「さて。次、眠るまでに何をしましょうか?」
精神の耗弱を回復する為、不定期に強力な睡魔に襲われるのが、副人格たる「俺」が表に出ている間の常だ。
下手に動き回って倒れても迷惑だろうし、部屋の中で出来ることをするのがいいだろう……と考えたところで、最近主人格が借りて読んでいた本に目が止まった。
「……読んじゃいましょうかね。」
互いの人格が表に出ている間のことについて、全ての記憶を共有しているわけではない為、ここで俺が本を読み進めることで、後に目覚めた主人格に軽い混乱が起きる可能性がある、というリスクにはすぐに思い至ったが、こうして、堅物な主人格には出来ない“ゆったりと過ごす”という任を代わりにこなしているのだ。
そのくらいのイタズラは許されるだろう。
佐古が部屋に籠って、丸一日が過ぎた。
幸い、というべきか、事件が起こることも無く過ぎ、途中で止まっていた報告書を書き終えた優希は、暇を持て余していた。
「……支部長、大丈夫かなぁ?」
開く気配の無い扉を見ながら、独りごちる。
と、インターフォンが鳴った。
「はい。」
佐古が普段しているように、返事をしながらカメラ機能をオンにすると、そこには気だるそうに立つ青年が映っていた。
「えー……っと、M市から来たんだけど……。」
M市といえば、佐古が本来配属されている市だ。
ここ数ヶ月は、このA市に出向という形で二支部の支部長を兼任している。
「あ、今開けるっす!」
キーを解除して、扉を開ける。
「どうも。」
泰然自若といった雰囲気の青年が、軽く頭を下げて、入ってきた。
「……えっと、誠志郎さんが呼んだっていう、引き継ぎの人っすか?」
誠志郎の名前が出た瞬間、青年の目に、殺意にも似た感情が灯る。
「ひっ!?」
気圧されて後ずさる優希を見て、青年は我に返ったらしく、剣呑な光はすぐに瞳から消えた。
「あのバカ親父から、佐古さんが倒れたって連絡来たんだけど……マジ?」
「あぁ、はい。マジっす。もう丸一日支部長室に篭もりっぱなしで。」
「マジか……。何か食わさなきゃまずいんじゃねーの?」
「そうかもしれないっすけど……安静にしないとって誠志郎さんが言ってたっすし……。」
優希の言葉に、青年が半眼になって答える。
「あのバカ親父の言うことは、話半分くらいに聞いて丁度いいんだよ。……ちょっと俺、何か買ってくるから、俺がいないうちに佐古さんが出てきたら、ちょっと待っててって言っといて。」
「はぁ……わかったっす。」
「…………。」
佐古はゆっくりと目を開けた。
ここは、A市の支部長室だ。何故今、自分はここで目を覚ました?
今日は、誠志郎さんが珍しく支部に来てーーーー……それから?
その後何があったのかが分からない。
身体を起こすと、読みかけのまま体の上に置いてあったらしい本が、パサリと音を立てた。
そこで、思い出す。
ああ、そういえば、副人格の『僕』が、眠りに落ちる直前までこの本を読んでいた。
自分に、読んでいる本のネタバレをされるという経験に、佐古は小さく笑う。
と、扉をノックする音が聞こえた。
「はい。」
返事をすると、ガチャリとノブが回り、見知った顔が覗いた。
「なんだ、大丈夫そうじゃん。」
「え……鴻さん!?」
M市に居るはずの鴻の登場にたじろぐ佐古。
「バカ親父に呼び出されたんだよ。佐古さんが倒れたから来い、って。」
「あぁ……。」
それはすみませんでした、と頭を下げる佐古に、別にいいけどと鴻は応じる。
「こっちの少年が、随分心配してたぜ。」
鴻が扉を大きく開くと、そこには絵に描いたような心配顔の優希がいた。
「優希さん……。ご迷惑をおかけして、申し訳ありません。」
「いえ! そんな! オレの方こそ……なんか、余計なことしたみたいで……。」
「ーーーーッ、ちょっと、待って下さい?」
謝る優希を遮り、佐古が少し青ざめながら訊く。
「僕……どのくらい『寝て』ました?」
「一日半くらいっす。」
優希の言葉に、安心したように息をつく佐古。
「あぁ……その程度で済みましたか。」
「一日半寝っぱなしって、けっこーヤバいと思うけど?」
「いやぁ、ははは。ちょっと事情がありまして……。また今度、お話ししますね。」
苦笑する佐古を見て、まあいいやと呟く、鴻。
「そんだけ寝てたんなら、腹減ってんだろ。何品か作ったから、食えば?」
「鴻さん、作ってくださったんですか? すみません、ありがとうございます。」
「まずはスープからな。」
「病人じゃありませんから、普通に食べても大丈夫なのでは?」
「一日半も飲まず食わずで寝てるなんて、病人みたいなモンだろ。」
鴻の言葉に、確かにと佐古は笑う。
どうやら副人格の『僕』は、本のネタバレと引き換えに、きちんと佐古修のストレスを解消していってくれたらしく、自然に笑うことが出来た。
(ありがとうございます。……出来ればもう迷惑を掛けたくは無かったんですが、僕はまだまだ未熟者ですね。)
役割を終えて休眠状態に入っているだろう、律儀な裏の自分に礼を言い、佐古は日常へと戻っていくのだったーーーー。




