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七宝怪異話集  作者: 七宝


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8/10

キメラ

 これは先日私が体験したお話です。土砂降りの夜でした。私は娘と2人で暮らしているのですが、娘が友達の家に泊まるというので、その日は1人でした。


 特にすることもないのでテレビを見ていたのですが、番組である特集をやっていました。嘘をつくと閻魔様に舌を抜かれるとか、夜に口笛を吹くと蛇が来るとか、そういった言い伝えの特集でした。特に面白かったわけではありませんが、昔おばあちゃんによく言われたなぁ、と懐かしい気持ちになっていました。


 私はあまりそういうことは信じていなかったのですが、こういう話を聞いたこと自体がいい思い出だったんだなぁ、と少し目が潤んでしまいました。私の両親はもうこの世にはいません。妻の両親ももう亡くなりました。妻も2年前、娘が小学6年生の時に病気で亡くなってしまいました。そのため、娘にはとても愛情を注いできたつもりです。今度この特集に出てきた言い伝えでも聞かせてあげよう。


 そんなことを考えているうちに番組が終わってしまいました。私は何かを思いつくとずっとそれについて考えてしまうクセがあります。なので蛇が来る云々以降の話は全く頭に入っていませんでした。


 もうじき9時になります。娘はお友達と楽しくやっているでしょうか。それか、もう寝ちゃったかな? 私ももう1時間くらいで寝てしまおうかな。などと考えていたその時、インターホンが鳴りました。こんな時間にいったい誰が何の用事で来たのでしょうか。私はインターホンに出てみました。


「はい」


「夜遅くごめん、俺だよ。桂木だよ。ちょっと家に入れてくれないか?」


 桂木正雄は私の高校の同級生です。彼とは同じ野球部に所属していて、たまに同窓会で会っていました。しかし、家まで来たのは初めてです。しかもこんな時間に。なにか理由があるのでしょう。私は快く彼を招き入れました。


 玄関を開けると、そこには別人のようになった桂木がいました。最後に会ったのは3年前なのですが、その頃はわりと太っていて、ジャイアンみたいな見た目でした。しかし、今目の前にいる彼はげっそりと痩せているではありませんか。ダイエットで痩せたようには見えませんでした。顔もとても暗く、なにか思い詰めているような表情をしています。


「ごめんな、こんな夜に押しかけて。千佳ちゃんはもう寝たか?」


「今日は友達の所に泊まりに行ってるんだ」


「そうか、それはちょうどよかった」


 そういうと彼は床に膝をつき、手も床につけました。


「おい、なにするつもりだ」


 私は彼の肩に手をかけようとしました。しかし彼は私の手を払い、頭を床に擦り付けました。土下座をしています。


「もうお前にしか頼めない、どうか10万、いや、5万でも貸してくれないか」


 実は私はインターホン越しに話した時点でなんとなく予想がついていました。こんな時間にあまり会わない人間が訪ねて来るんです、こういうことを覚悟しますよね。


「やだ。帰って」


 私にも余裕はありません。男手ひとつで娘を育てているのですから。なんとしても娘が大学卒業するまでのお金を貯めなければなりません。薄情な男だと思われるかもしれませんが、私もうちだけで手一杯なのです。


「うん、分かった!」


 桂木はすぐに帰りました。彼には悪いことをしました。大雨の中わざわざここまでやって来て、電車代だってかかっているでしょうし、それだけでも出してあげるべきだったのかもしれません。


「ピュ〜ピュピュピュ〜」


 私はこういう時、沈んだ気持ちを紛らわすために口笛を吹きます。音楽が好きなので、自分が音を出しているとテンションが上がるのです。


「ピーヒョロロピービーーー」


 FAXみたいな音が出ました。音楽は好きですが、あまり音程を取るのが得意な方ではないのです。口の筋肉が疲れました。私は何をやっても続かない人間なのです。こういうことさえも続けられません。なので野球部でもあまり練習をせず、ずっと補欠でした。


 ガサガサ


 玄関から音が聞こえます。もしかしたらまだ桂木がいるのでしょうか。見送らなかったから怒っているのでしょうか。私は音のする玄関の方へ歩きました。


 そこには小さな蛇がいました。真っ白な体をしており、ゆっくりと動いています。そこで私は思い出しました。


『夜に口笛を吹くと蛇が来る』


 しかし当然私はこんな話は信じていません。あくまで思い出として覚えているだけです。こんなスピリチュアルなことが起こるはずがないのです。たまたまです。こんな調子で私は全て否定していたのですが、この蛇を見た瞬間から心の奥であることを考えていました。この蛇は、妻なのではないか、と。


 白蛇はなんとなく笑っているようにも見えます。本当はそんなことはないのかもしれませんが、私には笑っているように見えるのです。私は白蛇を捕まえ、顔の前まで持ち上げました。


「君は、美沙なのか?」


 蛇が答えるはずありません。そんなことは分かっています。でも、妻の美沙だと感じるんです。私の直感がそう言っているのです。


 私は蛇にキスをしました。嫌がりません。やはり美沙に違いない。私はそのまま蛇の口に空気を送り込みました。これは美沙が生きていた頃、彼女とよくやっていたことなのです。お互いに空気を送り込んで口をパンパンにする。しょうもないことをしているように思えますが、こんなことも時間が経つといい思い出なのです。


『ピー』


 私の送り込んだ空気がどこかの穴から抜けたようで、笛のような音がなりました。もう一度やってみたくなりました。


『ピー』


 楽しいです。とても。妻といるようです。


『ピー』


 下から音が聞こえました。私は何もしていません。下を見ると、そこにはリコーダーが落ちていました。さっきまでは無かったはずです。


『ビーーーーーーー!!』


 リコーダーからとてもこの世のものとは思えない音がしました。あまりに酷い音だったので、私は抱っこしていた妻を落としてしまいました。ちょうどリコーダーの上に落ちた真っ白な体の妻は、リコーダーと融合してしまいました。


『え、喋れるようになった⋯⋯』


 蛇とリコーダーの融合体はなぜか喋れるようになっていました。


『どうも、リコーダーと申します』


 精神はリコーダーなのですね。リコーダーは音を担っているのかと勝手に思っていました。


『どうも、蛇です』


 蛇の人格もあるのですね。二重人格のヘビコーダーですね。


「蛇さん、君は美沙なのかい?」


 喋れるようになった蛇に真っ先に質問をした。


『いや、僕はあなたが吹いた口笛に呼び寄せられて来た、ただの蛇ですよ』


 美沙の生まれ変わりではなかったようです。恥をかきました。ただの蛇とキスをしていたようです。


『私はあなたが蛇を吹いていたのでこちらに参りました』


「どういうことですか?」


『夜に蛇を吹くと笛が来るって言うじゃないですか』


 そういうパターンもあるんですね。明日娘が帰ってきたら聞かせてあげよう。


『じゃあ帰りますね、さようなら』


「さようなら」


 蛇とリコーダーの融合体は帰っていきました。謎の白蛇さん、美沙との懐かしい記憶を思い出させてくれてありがとう。楽しかったよ。

怪異データ

[白蛇とリコーダーのキメラ]

とても直線的な形の身体を持つ。背中には7個か8個くらい穴が空いており、腹側にも1つ穴がある。リコーダーの音を声のように操り、人と会話することが出来る。基本的に無害だが、無視すると騒音を立てる。

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