おじいさん
「もしもし、オレだけど、オレオレ!」
ある冬の日の正午過ぎ、大澤はいつものように一人暮らしの老人の家に電話をかけていた。
「おお、タケシか! 梨の礫でお前、心配しとったんやぞ」
向こうから名前を出してくれるとこちらとしては大いに助かる。何もせずに第一関門突破だ。
「ごめんごめん、最近忙しくてさ。久しぶりの電話でこんな話するのもアレなんだけど、ちょっとお金が足りなくて、貸してほしいんだよね」
家族の具体的な話をするのはリスクがあるので、まず単刀直入に要件を言う。何も聞かずにお金を用意してくれる人もいるからだ。わざわざこちらからボロを出すこともない。
「やっぱり美智子さんの治療費か? いくら用意すればいい?」
こちらから何も言わずとも話が進んでゆく。この老人は大当たりだろう。
「出来れば五百万ほど⋯⋯ほんとごめんよ父さん」
「分かった。明日お前のところに届けに行く。じゃあまた明日な」
そう言って老人は電話を切ってしまった。このままでは五百万は本物のタケシのもとへ行ってしまう。大澤はもう一度電話をかけることにした。
「もしもし、豊嶋ですが」
さっきの男と声が違う。
「あ、もしもし、オレだけど」
大澤は声が違うのは気のせいだろうと思い、電話を続ける。
「オレって誰だ! 名前を言わんか! 言えんかったらオレオレ詐欺だからな! 言えー!」
違う。明らかにさっきの老人ではない。怖くなった大澤は電話を切ってしまった。
電話番号を確認したが間違っていなかった。それがさらに大澤を恐怖させた。大澤はもうこの電話番号には関わらないことにした。
「メリークリスマース」
玄関先から男の低い声がする。そう、今日はクリスマスイブだ。
「メリークリスマース」
今度はドアをドンドン叩きながら、さっきと変わらぬ調子で囁いている。
「メリークリスマース」
大澤はさっきのこともありイライラしていた。
「誰だ、こんなイタズラをするのは!」
犯人を確認しようと玄関のドアを開ける。
「メリー⋯⋯」
外には誰もおらず、声だけが残っていた。
大澤はオレオレ詐欺の常習犯だ。これまでに泣かせてきた被害者の数は百を超えるだろう。その中には自殺した人もいたかもしれない。
大澤は自分が過去にしてきたことへの罪悪感から幻聴を聞いてしまったのだと思うことにした。
(罪悪感か⋯⋯俺の中にもそんなものがあったとはな。最近疲れてるしもう寝るか)
翌朝目覚めると、枕元に大きな靴下が置いてあった。中に四角いものが入っている。大澤は恐る恐る中身を確認してみる。
中には一センチほどの一万円札の束が五つ入っていた。
金を見た大澤はさっきまでの恐怖を忘れ、ただ喜んでいた。そうか、サンタさんがくれたのか。この歳になってプレゼントを貰えるとは。
その日、全国の銀行に偽札を入金しに来た詐欺師が次々と捕まったという。
怪異データ
[黒サンタ]
悪い子には罰を与える。悪いおじさんには偽札を与える。




