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第六話 一度チャンスを逃したものにはもう二度と同じチャンスは訪れない

 広がる景色は壮観と表すほかなかった。壮観というよりかは幻想的、ファンタスティックというべきかもしれないが、確かなのは普通に生活していれば到底見ることはできない景色であるということだろう。


 地面から街を抉り取ったような土塊が空中にいくつも浮いている。土塊の上に城が乗っているのが一つ、その周囲に街を乗せた土塊が四つ浮かんでいる。同様の土塊の集団が六つ存在している所を鑑みるに、あの土塊の集団がおそらく一人分の領地なのだろう。


 遠く離れたところに城単体の領地がある。これはキグルミのものなのだろう。


 あたりを見回してみても、それ以外には何も見当たらない空間だった。ただ眼下には雲らしき物体が敷き詰められており、上を見上げれば青い空が広がっていた。どうやら雲の上にあるという設定なのだろう。


 設定とはいえ、その雲とその青さは本物と相違なかった。これが現実世界だとしたら、どこぞの村の少年がラピュタは本当に……たくさんあったんだ……と落胆なのか、感動なのかわからない感情を抱く羽目になるだろう。


 したがってこの空間は神が作りし空間となるのだろうが、現実世界も神が作ったものであるのならば、なるほどこのクオリティも納得できるものになる。それほどまでの雲そして、頭上の空、そして太陽であった。


 もはやこの近さになると太陽は眩しく感じられる。これから殺し合いのゲームが始まるとは到底思えない。


 しかしながら、現実は非情だとでも言おうか。いつの時代も現実よりかは非情で非常識なのは人間なのだろう。おばけの方より人間の方が怖いなんていうことは古来より言われていることではあるが、実際に目の当たりにするとなかなか言葉が浮かばないものだ。


「池田に宣戦布告する」


 戦いの火蓋はいとも簡単に落とされた。あっさりとなんの躊躇いもなく、快晴のこんな素晴らしい天気の中、殺し合いの宣言はなされた。


 現実世界では滅多に起こらない他人を害するという行為を人間は、他人から赦しを与えられるといとも簡単に起こすことができる。そんなところがお化けよりも人間の方が怖いと言われる所以なのだろう。


 天変地異が起こったかのような、耳を劈くような轟音が響いた。領地が移動し、他の領地に移動している。


 どうやら宣戦布告がなされると攻撃側が防御側の領地にくっつくのだろう。


「わぁ、大変だなぁ」


 そんな光景を一人呑気な声を上げながら、小林は傍観していた。初めて見る光景であるだろうに、畏怖などのマイナスの感情は浮かんでおらず、好奇の感情がありありとその顔に浮かんでいた。


「全く気が早いのなんのって、まだゲームスタートしてちょっとしか経ってないってのに」


 『飯田が池田に宣戦布告をしました』


 そんな無機質な機械音声が小林の耳に響く。


「ありゃりゃ、誰が誰に戦争を仕掛けたのはモロバレしちゃうんすねぇ」


 『これに対してあなたは三つの選択を取ることができます。一つ目はどちらかの陣営の援護、二つ目は偵察、そして三つ目は何もしないことです。偵察には国力を500使用します』


「オッケ、了解。ちなみに今の国力は?」


『ただいまの国力は全員一律、初期値の一万です』


「兵力の割り振りはどうなってん?」


『戦争の際に、自由に割り振ることができます。したがって今の段階では回答することはできません』


「なるほどなるほど。ちなみに敵の割り振りを知る手段ってあるの?」


『先ほど申し上げた偵察でのみ知ることができます』


「にゃるほどね。もう一つちなみに池田ちゃんにコンタクトって取れる?」


『通話を繋ぐことは可能です』


「んじゃよろしくぅ」


 プルルルルと聞き馴染みのある、呼び出し音が鳴った。二回三回となるもののそれが途切れる様子はない。小林がこれは無理かと半ば諦めていると、唐突にその呼び出し音が消えた。


「もしもし、池田です」


 先ほど聞いた気弱そうな声だ。少々涙声になっているところから、相当切羽詰まっていただろうことが伺える。そんな彼女にとってきっと小林の提案は渡に船と言えるだろう。


「よかったよお。なかなか出てくれないからぁ。嫌われたのかと思った。いやでもそれはそれでいいかも。内気な少女に見下されるのも……カ・イ・カ・ン」


「あの……ごめんなさい……要件は……」


 小林が自分の世界に浸っていると、焦ったそうに池田は先を促す。気弱な池田らしからぬその発言に少々小林もめんくらう。


「ああ、そうだった。そうでした。池田ちゃん大変そうだから、援軍いるかなぁって」


「……いいんですか?」


 やや間があっての返答。警戒しているのだろう。それもそうだ。今やっているゲームは殺し合いのゲーム。食うか食われるか、生きるか死ぬかのゲームだ。そのゲームに無条件で助けてくれるプレイヤーなどいるわけがない。


「そりゃもちろん。いいんですよぉ。美少女が真っ先に死んじゃうなんて、世のいや宇宙の損失だからねぇ」


 いけしゃあしゃあとそんなことを論う。殺し合いのゲームに参加しているとは到底思えないほどの気楽さだ。対する池田はこの事態を重く受け止めているようだ。


「……そうですね……ありがとうございます……でもごめんなさい私対価なんて出せませんよ?」


「なになに、ちょっとばかしえっちなことをさせて貰えば十分ですよぉ……なんて冗談「……それならお願いします」…………えっ?…………」


 いつものようにジャブの軽口を挟むと予想を超えた反応が返ってくる。小林はその想定外の反応に慌てた。


「ちょちょちょ、もうちょっと自分の体大切にしな?」


「私なんて……それくらいの価値しかありませんから……」


「ええ……本格的だなぁ……。まあいいや、深く立ち入る気はないし、戦争のシステム確認が主だから対価とか別に気にしないで」


「えっ?……いいんですよ……私の体なんて好きにして……」


 小林の目の色が変わる。万年童貞の小林くんにはその提案はあまりにも魅力的すぎた。棚からぼたもちとはまさにこのことか、降って湧いた幸運とはこう言うことを指すのだろう。


「なんて魅力的な……いや待て落ち着くんだ、小林たける。童貞喪失は彼女とイチャラブしてからいい雰囲気になって、『シャワー浴びよっか?』って言って、一緒に浴びてから、するって決めたじゃないか?」

 

「…しましょうか?……そういう人も中にはいましたよ……」


「とっても魅力的な提案をどうもありがとう。僕の心は大変今揺れております。墜落しそうな飛行機ほど揺れております。天使と悪魔が反復横跳びしてます。だけども、そこに愛はあるんか?そう問わせていただこう」


 そんなふうに言ってはいるが、その顔は苦痛に塗れている。童貞を守ってきたなりに、最後の卒業の時は最高の経験にしたいのだろう。それはきっと童貞卒業の理想を高めてきた結果なのだろう。だから童貞なのだ。


「……それは……ごめんなさい……無理です」


「オッケ、わざわざ謝罪を挟むことによって、すっごい気を使いながらもあなたを好きになることはできませんという明確な拒絶を披露されていくぅ。こんな気の弱そうな美少女に!!なんなら俺のこと好きになれって言ったら、次の日には一生懸命好きになる努力してそうなこんな女の子に!!でも!!ちょっと気持ちいい!!」


 大袈裟な身振り手振りを交えながら、コロコロと表情を変える。怪人百面相も角谷といったていである。


『椎名さんから通話の申し出があります。受けますか?』


割り込むかのようなピコンという音ののちに、機械音声が流れた。


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