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第五話 能ある鷹は爪を隠すとは言うものの、多少は漏れ出る何かはある

参加しないものはそのナイフで刺すなんて野蛮っすよ


 ちょっと戯けながら、小林はそういった。その顔には先ほどまでの軽薄な笑みはなく、真面目そのものだ。


「残念なことにぃ、それは言えないのよぉ。これは神が主催するゲームだから。やる気のないものに参加させると私が消されちゃうのよぉ」


「なるほどね。お姉さま。そのきらめいているものをしまってくれると、小林くんは嬉しいなぁって思うんだけど」


「キャハっ、まだ一人参加しないかもしれない奴がいるかもしれないじゃにゃい」


「あはっ、確かにぃ。不肖小林の参加表明がまだでしたぁ。小林くんはもちもちロンロン参加しますよ」


「よかったぁ。殺さずに済んだぁ。さっきまでの変態キャラは演技かなぁ?小林クゥン。真面目な雰囲気出しちゃってぇ。キグルミのお姉さんは騙されてぇ、傷心中なのぉ」


「あっちも素ですよぉ。やだなぁ。騙してなんかいないですよぉ。キグルミのお姉さんはいっぱい騙してますけどね」


「ヤダァ。なんのことぉ?」


「あはは、まあいいですよ。だけど一つだけ聞かせてくださいな」


「何ぃ?想定外に小林くんが楽しませてくれそうで、キグルミなんでも答えちゃうぅ」


「本当に神が絡んでいるなら、さっき椎名を殺そうとした時、なんでナイフなんか使おうとしたんすか?ブックみたいな超能力的な力で殺せたんじゃないんすか?」


 一時、沈黙がその場を制する。


「キャハ、ほんとにいい質問。追い詰められてるこの感じぃ、ゾクゾクしちゃうわぁ。私もしかしたらドMなのかもねぇ。でもそれはノーコメント。言い過ぎると、私殺されちゃうものぉ」


「なんでも答えるとは」


「答えられる限りなんでもよぉ」


「じゃあキグルミのお姉さまの立ち位置はどんな感じで?」


「……どうしてそれを聞こうと思ったのかしらぁ?」


「キグルミさんは人間っすよね?なのに神とやらが主催しているゲームの進行役をしている。これだけで違和感を覚えるのには十分じゃないっすかねぇ?」


「私がぁ、人間っぽい天使様かもしれないじゃない?」


「不肖小林、背中にジッパーがついている鶏の天使さまを見たことがないもんで」


「ふふ、本当に面白いわねぇ。これもノーコメントよぉ。ただ私も神謁戦争は見守るわ。クリアした時に、スムーズに優勝者にコンタクト取れるように近くにいるわ」


「ちなみにこの情報は他の人は知ってるんすか?」


「ふふ、君風にいうと、一つだけ質問させてくれとは」


「いいじゃないっすか。お姉さまぁ」


「ゲームに参加すると、基本情報は頭に入ってくるわ。だから知っているはずよぉ」


「じゃあルール説明する必要なかったのでは?」


「神様は人間のいざこざを見るのが好きな、ゴミ野郎どもなのよぉ」


「ああ納得」


「小林くんの信仰心のなさがわかるねぇ。まあ日本人ならそんなもんかぁ」


 小林はふんと鼻で一つ笑った。馬鹿にするように、あざけるようにそんな意図を含めて、小林は鼻で笑った。


「何がおかしいのぉ?」


「納得したのは、お姉さまの立ち位置っすよ。お姉さまは少なくとも神側の天使ではないっすね。上司に向かってゴミ野郎なんて、言うわけないっすから。人間のすることならまだしも、なんでも願いを叶えられるような神が、そんなやつを手下にするわけがない。ならなんらかの事情を抱えた雇われの人間って考えた方がよっぽど筋が通りますねぇ」


「神って案外人間臭いものよぉ?」


「ハハッ、声のトーンがちょっと上がりましたね。図星っすか。さらに腕を組みましたね。不信感の表れですね。相手の事情をズバズバ言って優位に立ちたがるくせに、いざ自分が突っ込まれたらこの体たらくですか。ハハっ、だっさいすねぇ」


「なんのことかしらぁ?」


「聞こえなかったんすか?頭も悪ければ、耳も悪いんすねぇ。ポンコツお姉さん?」


「……」


「あはぁ、ついにお口まで壊れちゃったんですかぁ?まぁでも、臭いんで閉じてくれる方がありがたいっすねぇ」


「言わせておけば!!」


「ハハッ、余裕無くしちゃってマジなんすか。ブラフってかけてみるもんですねぇ。声のトーンも腕組みもあまつさえ立ち位置云々も出鱈目っすよ。よくそんなポンコツで俺に対して優位取ろうとしましたね。笑える」


 キグルミのプライドをくすぐるように、というか破壊するように小林はわざと煽るように言ったのだろう。その目は挑戦的で扇動的だ。キグルミはその目を見ると大きな声を上げた。


 先程までの変態ムーブは彼女の性格を窺い知るためにやっていたのだろう。プライドが異常に高いその性格を炙り出すために。そして同時に馬鹿にしていた、下に見ていた小林から舐めた口を聞かれたら、怒り出すのを想定した行動だったのだろう。


「テメェ!!」


 白刃を煌めかせ、感情のままにキグルミは小林に突進するが、たった一言にその突進は止められた。


「神が見てるんじゃないんっすか?」


 ピタリとその動きが止まる。体を操る権利を誰かに奪われてしまったかのように、止まる。キグルミの荒い声が着ぐるみの中から聞こえてくる。


「あらら、マジで神いるっぽいっすね。現実味帯びてきた。一か八か言ってみたらまじでか」


 参加する意思を見せている参加者を殺すことを神はどう思うんだろうね?と言う意味が先程の問いかけにはあった。その問いかけによってキグルミは殺そうとすることを止めざるを得ないと言うことは、神でなくとも何かしらこの状況を監視している上位の存在がいることを示唆している。


 すなわちこのゲームが冗談や偽りの類ではなく、説明されたことが実際に起こりうる可能性が非常に高いことが小林は確認できた。


「こんな情報までくれるなんて、ポンコツキグルミお姉さまったら、お優しいこと ハート」


「テメェ、覚えとけよ」


 ナイフを持つ手が、カタカタと小刻みに揺れている。溢れんばかりの怒りがそうさせた。


「キャラ作り忘れるほどお怒りとか、どんだけプライド高いんっすか。じゃあ情報も集められたんで、俺もう行きますね。ほいじゃ」


 小林はそういうと、刺されそうになった時に保険用に出現させておいたブックに手を触れた。抜け目のない男である。


 その小部屋に静寂が訪れる。キグルミの大きく息を吐く音が、やけに大きく響く。キグルミは震える手でナイフをなんとか着ぐるみの中に戻した。


「無様だな」


 威圧。そう表現するのが最も適切であり、それ以外の表現は全くそぐわないと言い切れる。そんな声が静寂の中に降りかかる。しかしながら声の主は現れない。声だけがその部屋に充満する。


「ウルセェな。クソ神」


 キグルミは不遜にもそう言い放つ。おおよそ神に向けるような台詞ではなく、一切敬意の念を感じさせない。ただ神と言われ方も特に気にしてはいないようだ。


「あのまま感情のままに殺していたら、朕もわぬしを罰せねばならんかったがまあ良い。あやつに感謝するんじゃな」


「黙れと言ったのが聞こえなかったか?」


 キグルミは着ぐるみの頭を脱ぐと目をきつく上げながら言い放つ。


「威勢のいいことじゃ。これなら楽しめそうじゃの。ほれお前も行ってこい。ちゃんと導いてやれ、それがわぬしの仕事じゃ」


「わかってるよ」


 キグルミはブックとつぶやくと、躊躇なくブックを触った。


「今回は楽しめそうじゃの。さあ皆様方誰にかけるかの?」


 これより始まりますは、彼ら彼女らの一世一代の大舞台。殺すか殺されるか、願いを叶えるか叶えられないか、命を賭した我儘をどうか一座にてお楽しみください。


神謁戦争の始まり始まり。


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