第一話 プロローグ
こんな都市伝説があるのを知っているだろうか。
曰く、この世に絶望したものだけが招かれる秘密の部屋があると。
曰く、底なしの願いを持ったものだけが神隠しにあうと。
曰く、神に会うことのできるゲームがあると。
曰く、全てをやり直すことができるゲームがあると。
もちろんこれら全ては他の都市伝説のように人々の憶測に過ぎず、悪の結社が存在するだの、UFOがあるだのそんな根も葉もない冗談のようなものに過ぎない。
あったら面白いなぁ…そんな人々の願望と言い換えても差し支えないだろうか。嘘と欺瞞なんて言っても問題はないだろう。しかしながらそんな嘘と欺瞞に満ちた都市伝説がなんの役にも立たないのかというとこれが案外そうでもなくて、何かがいるかもしれない、何かが存在するかもしれない、そんな人間の飽くなき好奇心を刺激してくれている。その一点だけでも存在する価値があるといえる。
それは娯楽の溢れきったこの現代においても、必要とされ続ける最上級の娯楽とも言い表せるかもしれない。その嘘っぽさ、ありえなさを夢想して人間はその嘘を楽しむ。というよりか、われわれはその嘘で、欺瞞で、非現実的で、ありえない現実が存在してほしいと思っているフシがある。ありえない現実が存在してほしいのだ。非日常に興味があるのだ。
宇宙人に、未確認飛行物体に、ツチノコに、それら全てに我々は存在していてほしいと心のどこかで願っているのだ。
だがそんなもの遭遇できるわけもなく、一日一月一年を過ごすうちに、なんだかどうでも良くなってそれらの存在を忘れてしまう。
だが嘘にも一面の真実が存在する。一寸の虫にも五分の魂があるように、世の中の犯罪者のすべてがどうしようもない悪人ではないように。どれだけ滑稽な嘘でも真実が紛れ込んでいる。
嘘を隠すなら嘘の中。また嘘っぽい真実を隠すなら嘘の中にだ。
嘘の中に嘘みたいな本当の話が紛れ込んでいても私達には到底わかるまい。森の中にウソッキーが一匹いても気づけないように、またハニーウィンストンのショーケースの中に贋作が混じっていても我々客はきづけないように。
けれども、それでも、だけれども、その都市伝説の一つは紛れもなく存在している。嘘でも、欺瞞でも、非現実でもなければ、作り話でもない。確かな現実として、その一つは確かに存在する。
嘘っぽくて、嘘じゃない、ちょっぴり嘘の混じった、そんなお話だ。