勇者と流派
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「いや〜ごめんね。
オレ、戦いになるとつい熱くなっちゃって」
目を覚ますといきなり謝られた。
「いえ、学院長と剣を交えられる機会はそうないですから」
「これから沢山あるじゃないか」
さも当たり前のように言った。
「え……」
「君はこの学院に合格だ」
いい笑顔でそう言った
「本当……ですか」
信じられずにそう聞くと
「本当だとも」
「やった、ありがとうございます」
「感謝する必要はないよ。
この合格は君が勝ち取ったんだ」
「そうですよ、学院長が推薦試験で合格を出した事はここ五年で二回しかないんですから」
そう女性が言った。
「そうなんですか。質問なのですが、最後の剣技は一体」
「ああ、『無双八段』かい。
あれは一振りで八回斬るものだよ。」
「一振りで八回……。無双八段はどこの流派の剣技ですか。
聞いたことがないんですが」
「オレのは我流だよ」
「そうなんですか!?」
「驚くのも無理ないよ。
今時我流者なんて絶滅危惧種どころかオレ以外にいないしな」
各流派は神話の時代からあるの伝承があり、深みのある剣技の集まりだ。
深まった剣技ではなく自らが作った剣技では欠陥だらけで実戦では到底使えないと言われ、我流派はいなくなったと聞いたことがある。
「どうして我流なんですか」
「オレは物心つく前から剣を振っていたからね。
いつの間にか自分の剣技が出来ていたんだよ」
「そんなことが……」
「あるんだよ。さて、次も控えているそろそろ締めようか」
「はい、ありがとうございました」
「ああ、オレも楽しかったよ。
君の入学を待ち望んでいるよ」
「はい」
そうして僕は部屋を出た。
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「随分と長かったな」
アレンがそういうと
「中から凄い音がしていましたけど、どうされたんですか」
ロニエがそう聞いてきた。
「実技試験は学院長と剣を交えるから気をつけたほうがいいよ」
「学院長って、勇者ですか」
頷きで返答する。
「それは気合を入れないとですね」
そう言って両手でガッツポーズをした。
「ああ、そうだな。
何かアドバイスはないか?」
「学院長はとても速い。力は加減してくれるから大きなダメージは無かったけど」
「速さか、俺はどちらかというと力の方が自信があるんだよなあ」
アレンが困ったように言った。
「私は速さには自信があります、打たれ弱いですけど」
「そっか、まあ頑張って」
「もちろんだ」
「はい」
「じゃあ、今度はここの制服を着て」
そうして僕はこの学院を出た。
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「父さん、合格したよ」
家に帰ってきて早々に知らせた。
「おお、それは良かったな。
これでまた一歩勇者様に近づけたな」
僕の知らせに少年の様な笑みで返してくれた。
「それでね学院長と剣を交えられたの」
「それはそれは。どうだったか」
「物凄く速くてね、技も洗練されていてね、けどね、我流でね。
魔王を倒すっていう偉業を成し遂げられたのはこの強さがあったからなんだって感じた」
興奮の思いが今になって湧き出して早口で喋ってしまった」
「はっはっは、そこまでイティラが興奮しているのは六年ぶりだな。
しかもあの時も勇者になりたいーって勇者様関係だったしな」
昔を懐かしむ様に言うと
「毎日勇者様と会えるなんて、学院生活は興奮しっぱなしかもな、はっはっは。
父さんにも今日のことを話してきておいで」
「分かった」
お爺ちゃんにも同じように話したら
あの勇者といつでも剣を交えられるのだから強くならないとな、と今日も厳しく剣の指導をされた。
アレンとロニエは合格出来るのか