最後の訓練
「反逆者は粛清す」
(偽の情報を掴まされてしまったわ)
'私'は元凶がいるという情報をあっちで耳にして来てみたが、まさか罠だったとは……。どこで私が裏で動いていると知られたのかしら。
(こいつ強いのよね……)
あれは裏方しかやらないから弱いけど、彼はなあ……。何とか逃げられないかしら。
「我が剣の前に沈め」
重心を落としたかと思ったら気付けば彼は目の前に迫ってきていた。
私はバックステップで避けて、反撃に核を握りつぶす為に手を突き出した。
「くっ」
彼はそれに対応して、外した剣を返し斬り私の手首を斬り落とした。
只人たちのように血は流れない。想像の力で斬られた手を伸ばし、開いたり握ったりしてみた。実際にこれをするのは初めてであったがしっかりと再生出来た。
「あの違反の只人との密会でかなり強くなったようだ」
そう言うと何もない空中に向かって剣を振った。すると素早い斬撃が正面一方から大量に押し寄せてくる。
私は横に避けて反撃をしようとすると飛来する斬撃が向きを変えて私の背中を裂いた。斬撃はそれだけに留まらず、腕や腿、あらゆる所に傷が刻まれていく。
治癒魔法をかけるが間に合わない。
「無駄だ。反逆者には不可避の粛清を授けた」
傷は回復速度を超えてみるみるうちに増えていき、私の存在情報が消されていく……。
(彼の権能……。もう……ダメ)
私は諦めた。私はあの場所で永遠に等しい時間を忙殺されながら過ごさなければならないことを受け入れた。
「龍王ノ牙──穿」
その声が響いた時、私を襲う無数の斬撃が一瞬にして消えた。
「ルアン。助けに来たぜ」
あの時突き放したはずの彼が少年のような笑顔を浮かべて剣を片手にこちらを向いて立っていた。
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僕らの手元には一通の手紙。それは学院の再開を知らせるものであった。
「とうとう直ったのですね」
「三週間ぐらいか……結構かかったね」
学院の授業が始まるのは六日後。まだ猶予があるとはいえ、この家から学院に戻るまでの時間を考えるとあっという間だろう。
「アレン君がどれほど強くなったのかも気になりますね」
「そうだね。僕が気絶している間に実家に飛び出していったとなると相当気合いを入れて鍛錬しているよね、きっと」
しかし、努力なら僕らだって沢山した。彼だけが頭一つ飛び抜けるなんてさせない。
「準備の時間を考えると今日で訓練は最後かな」
「そうですね。今日も張り切っていきましょう!」
「「おー」」
僕らは各々の剣を携えて訓練場に向かった。
(これから暫くここには戻ってこない。今のうちにこの景色を胸に刻んでおかないとな)
目の前に広がる風景は幼い時に見たのとは少し違って見える。それは実際に変化したのか、はたまた僕の見方が変わったのか……。
「組み合わせはどうしようか」
「うーんと……イティラ君対私たちで良いと思いますよ」
僕が視線でキョウカに聞くと頷いて返したから、僕もその条件ですることに同意して位置についた。
「じゃあ、始め」
僕が開始の合図をすると二人は強化魔法を使用した。訓練の途中にルールを変えて、どっちの側も強化魔法を使えるようにした。
「四の塵──性質変化・剛」
僕も四の型による強化を施し、二人に斬りかかった。
まずは上段からの斬りかかり。弾かれるのを前提としたその斬撃は避けられらて空を斬った。
「ふふ、流石にその手にはもう乗りませんよ。『放電』」
(おっと、危ない。やっぱり対応力が高い)
この手を見せたのは今日で二回目だが、彼女は意図を見抜き避けてきた。
「『飛翔斬』」
首筋に冷たい何かを感じ取って斜め前に転がり込むと、見えぬ斬撃が僕のいた位置を通り過ぎていった。
「キョウカも背後を取るのがかなり上手になった」
僕は首筋の薄皮が裂ける感覚を感じた。気付いた時には少しだけれど当たっていたのだ。
僕は二人を意識の中に入れて肉体と魂の結び付きを強めて
「一の閃──雷轟、五の塵──豪剣連斬」
上段、中段、下段からありったけの力で剣技を行う。最初の方は防がれていたが、徐々に僕が押していき
「きゃっ」
ロニエを剣ごと吹き飛ばした。背後から来るキョウカも把握済み。最も接近してきた時に振り向いて回し蹴りを入れた。
(僕が反撃をするのを予見していたようだったけど、速さで上回れてよかった)
僕がロニエに視線を戻すと
「私はまだ倒れていませんよ。三の閃──爆雷刃」
彼女の身体は消えて気付いた時には懐に入り込まれていた。
「ぐはっ」
吹き飛ばされた勢いで飛んでいった先で何かにぶつかった。それは木よりも柔らかく、人間よりもずっと体幹がしっかりしていた。
「んん、痛てて」
ぶつけた背中を摩って、ぶつかったものに目を向けるとそれはかなりのご老人だった。
「あっと、すみません。お怪我はありませんでしたでしょうか?」
「はっは、大丈夫じゃ」
「そうですか。よかったです」
ご老人に手を借りて起き上がるとロニエたちが追いかけてきた。
「イティラ君、ごめんなさい。力加減を間違えました」
そう言って駆け寄ってくるロニエ。彼女は急に足を止めて
「イ、イティラ君……その、人……」
「うん?この人がどうしたの……って」
僕の手を握っているこの老人
──足がなく、宙に浮いている。
「ふむ。異端の子イティラ。確認が完了した」
老人はそう言うと何処からともなく剣を取り出して
「異端の子。我、掃滅す」
いきなり斬りかかってきた。
絶体絶命、イティラの運命は!?




