みんなが好き
「断るわ」
ルアンは躊躇いなくそう言った。
「何故?」
元凶を仕留めると言ったって、それを守る者は多い。彼女一人では手が足りないはずだが。
「だってあなた只人だもの。出来ることにも限界があるし、何より巻き込みたくない」
「もう巻き込まれている。大戦を止めるならば俺もっ」
ルアンは俺の口の前に人差し指を立てて
「後は私に任せて。私たちが始めたんだから私たちで決着をつけないといけないの」
そう言い、音もなくその場から消えた。
「ルアン……。そう言うならもっと自信を持ってくれよ……」
立ち去る時に彼女が浮かべていた顔はとても不安げであった。
「元凶とやらの捜索をしてみるか」
また攻めてくるやつらを捕まえて拷問するなり、自分の足で探すなりしてみようと決めた。
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「ロニエ、大丈夫?」
急に叫んだと思いきや突然動かなくなったロニエにそう声を掛けるが反応がない。
「困ったなあ。どうしようか」
叫んだせいで注目が集まり出している。担いでその場を離れようとするとロニエは手を振り払ってきて、動かせない。
「……私が運ぶ」
「お願い、僕じゃ無理だ」
「……うん」
キョウカが抱き上げても拒否をする反応は見せず、素直に運ばれていった。
何故、僕は嫌がられたのだろうか。お化け屋敷の時は別に嫌がる素振りもなかったし、あれから特に何も変なことはなかったはずだが……。
「おかしいなあ」
「はは、面白い子だな」
一連の出来事を見ていたアデクはそう評した。
「面白いんだよ、あの子は。面白くて、可愛くて最高の子だ」
「本当に変わったな。良かったよ、人間不信になっていたりしなくて」
「なるわけないだろう」
とは一概には言えないが、それは心の中にしまっておく。
「まあ、応援しているぞ。するまでもない気がするけどな」
ははは、と笑いながら立ち去っていった。
「何を応援するんだ?まあ、とにかくありがとう」
こちらを見ずに手を振るアデクに手を振りかえしてキョウカを追いかけた。
思いの外キョウカは遠くまで行っていたようで見つけるのにかなり時間がかかった。
「いたいた。見つからないからどこに行っちゃったかと思ったよ」
振り向いたキョウカの手にはまた新たな食べ物が握られていて、器用にもロニエを抱き抱えながら食べていた。
「……動かない。けど、心臓はバクバク」
ロニエの胸に耳を近付けて確かめるキョウカ。
「どうすればいいのかな」
何か病気で苦しんでいる様には見えない。というかそうであったら僕を振り払わなかったはずだ。
他に考えられる可能性としては……。
「疲れちゃったのかな」
一日中、はしゃぎ回ったから疲れてしまったのかもしれない。
「そろそろ帰ろうか。たくさん楽しんだし」
「……うん」
僕らは屋台の食べ物を買ったり、アルスたちに挨拶をして回って帰路についた。別れる際、残念そうにするアルスの顔は可愛らしかった。
「今日は本当に楽しかったね」
「…うん」
家が近付き、田舎道を歩く僕ら。そこにはしばらくの静寂が流れるが、気まずさなど全くなかった。
ずっとキョウカに抱かれていたロニエは寝てしまい、子どものような表情を浮かべてぐっすりと寝ていた。
「……可愛い」
そう言ってキョウカは片手でロニエの髪を梳くように撫でた。
「そうだね」
普段は礼儀正しくしっかりとした態度を装っているが、こういう時はそんな様子も見る影がなくなる。
年相応よりも少し幼い表情は見る者全てに癒しを与えるようだ。見ているのは僕らは二人しかいないけれど。
「……イティラは、ロニエのこと、好き?」
「きゅ、急に何を聞くの?!」
キョウカは首を傾げた後、いつもの無表情を少し崩して
「……私は、イティラが好き。ロニエも好き。温かいみんなが、好き」
(何だそういうことか)
「僕も好きだよ。ロニエもキョウカもね」
魔剣士学校で出会い、関わった人たちは僕に色々なものを与えてくれた。この出会いに感謝している。
「……ロニエも、好き……かな?」
「きっとそうだよ」
「……えへへ。いっしょ」
「そうだね。一緒だ」
僕らはこの先もずっと仲良くしているのだろう。たとえ別れの時が来ようとも、僕らはいつか巡り会える。そんな気がしている。
家に着き、キョウカと抱えるのを交代したロニエを寝かせた。
「本当に可愛いなあ」
サラサラのまつ毛に触れても、頬をつついても起きやしない。
そのプルプルな唇に触れると官能的な刺激が指先から走り、危険だと感じて離れようとすると僕の指が咥えられてしまった。
温かく滑らかな感覚が指先を包み、甘噛みされる。唇を触れた時以上の感覚で、心臓が痛くなる。
(まずいまずいまずい。頭の中が……)
奇妙な感覚が頭を支配していく。ロニエに触れたいという気持ちで溢れていく。
指先をペロペロと優しく舐められるとそれはさらに加速していく。
理性を破壊して、僕の身体を操ろうとする本能。
あと少しでロニエの柔らかな所に触れてしまう。頭ではダメだと思っても、身体が止まらない。
「イティラ、いるか。って、おお」
その時、突然戸が開き、父さんが顔を覗かせた。
流れる沈黙。静まる気持ち。焦りだす思考。
「お、お邪魔した」
沈黙を破ると即座に退室していった父さん。
「ちょちょ、父さん!!!」
父さんのおかげでなんとかロニエに手を出さずに済んだのであった。
エモパートからの急展開。イティラも男の子なんだなあ。




