剣と拳
「やっぱりお前のそのメイク見慣れないな」
久しぶりに会ったローランドの顔は白塗りで派手な目からは大粒の涙が零れ落ちそうだ。
──そう、ローランドがラムザンと全く同じようにピエロのメイクをしていた。
「はは、違いない。けど上手くなっただろう」
メイクの素材を集めてきて行った最初のメイクはそれはもう見るに耐えない有様だった。
面白さを通り越して恐怖すら感じさせる化け物のような目、塗りが甘くムラになり所々伸びていた。挙げればきりが無いほどの改善点を持ち前の理解力の早さですぐに直してみせた。更に如何に本物に寄せるかを研究して誰もが見間違えるほどの出来栄えとなっていた。
「よくやるよ。自分の敗北を忘れないためなんて」
「あれは屈辱的だった。どれだけ攻撃しても届かない」
──ラムザンは異質だ。それが俺が監禁されている最中に感じたことだ。
権能は不明。骨格や筋肉のつき方を見てもそこまで戦いに向いている様ではなかったが、近接戦闘特化のローランドと正面からやり合えるほど強く、手数が豊富。なのに十二柱に入っていない。
「今頃何をしているのだろうか」
「分からない。ただ、この集団襲撃に関わっている可能性が高い」
ラムザンがいなくなってからこれが始まった。
「それは嫌だな。やつだけでも強いのに、取り巻きが二人もいたら勝ち目がない」
彼は「考えるだけで恐ろしい」と大袈裟に震えてみせた。
「しかし、負けられない。あと少し、あと少しで終わるんだ。ここで折れるわけにはいかない」
「分かっているさ」
俺たちは拳をぶつけ合った後、自らの防衛地点へと進んでいった。
─────────────────────────────────────
(以上に強いな。ただ暴走しているようには見えない、何か別のものが作用して彼の力を増長させているような……)
'俺'はイティラ・トロムと拳を交えていて思ったことだ。
(対戦の時も暴走した者とは戦ったが、あれらの比にならない)
トロムの猛攻を凌ぎながら俺は攻めあぐねていた。彼が振っているのは暴走した時特有の力任せの剣ではない。あくまで基本の型に忠実であった。
故にこちらから仕掛けにくい。下手したら俺がやられる。
下からの斬り上げ、死角に回り込んでからの強力な一撃、どれもまともに食らったら相当な傷を負うことになる。
斬って斬って斬りまくる。受け止め、捻り上げ、蹴り飛ばす。全く拳の攻撃を入れられる余裕はなかった。
更に厄介なのが回復魔法だ。気合いで攻撃を当てたとしても彼の回復魔法がその努力を無にする。
折角入ったいい突きも無力化のために折った骨もすぐに治ってしまう。
向こうは回復出来て、こちらは出来ない。向こうは手数で押してきて、こちらは防戦一方。
しかし、策がないわけではない。こういう時の対処法もいつか'やつ'を倒すためにとたくさん考えたものだ。
実戦では一度も使ったことはないがまあいけるだろう。
彼の右側面からの大振りに対して俺はあえて右にステップを踏んだ。普通に見れば俺の行動は常軌を逸した行動だ。
彼の剣が俺に触れる前に彼の剣は打ち落とされた、俺の魔力によって。
これこそが俺の編み出した『不可視ノ手』。身体のあらゆるところに魔力を纏わせられる『魔纏い』の発想を転換して俺が編み出した魔法だ。
右腕だけだが、好きなところからいくらでも俺の意思で動く腕を生やすことが出来る。
それによって剣をはたき落とし、彼を後ろから羽交い締めにして動きを封じた。
この状態で終わらせよう、とは思っていなかった。俺の魔力では暴れるトロムを抑えきれない。が、その為の準備は出来る。
肉体と魂の一致によって得られる力を一時的に拳に収束させて、魔力を纏わせる。それだけ出来れば十分だった。
腕を振り払ったトロムがこちらを睨むように見ている。いつの間に拾ったのか剣を構えて──突っ込んできた。
「さあ、トロム君。これで終わりさ」
俺の魂の一撃が彼の腹部に突き刺さり、指先からは骨が折れる特有の感覚と痛みが広がった。
しかし、そんなの慣れている。最近訛っていたツケだ。それより彼の肉体と魂を引き剥がせえええええ。
「はああああああっっく、はああああ」
抵抗するトロムに肩に剣を刺されるが最後の一撃、ここで決める。
「はああああああああああ、ハアッ」
微かだが内側まで響いている。そこに拳を捻り込み、硬く覆う魂を
──引き剥がした。
すると、断末魔を上げて膝から崩れ落ちるトロム。どうやら上手くいったようだ。
「はあ、はあ、はあ。終わったから来ていいですよ」
トロムの連れを呼ぼうとしたときには彼女たちはこちらに飛び込んできていた。
(魂の強度も桁違い。まさか、違うよな……)
何を考えたのでしょうか。




