暴走・再び
「ぐはっ。ちっ」
「かはあああああ」
「ごふっっっ」
やつらは読み通り襲ってきた。しかし、彼と俺で各地のやつらを片っ端から倒し、被害は最小限に収まっていた。
何故なら、俺と『超化』の相性は非常に良かった。やつらと戦っても多少傷は負うが、どんな攻撃でも対応出来るようになった。彼は肉体と魂の一致が俺がいなくても発動出来るようになり更に力を上げた。
そして、内通者によってやつらがどこに現れるのかを分かっているのも要因として大きい。
俺は次の目標地点まで走っていた。時間はまだあるが、何が起こるか分からない。こうしてやつらの一味を見つけてしまう事だってある。
「お前も──だな」
やつらと同じ雰囲気を纏う目の前の相手はやつらには珍しい女であった。
「そうね」
その女がゆっくりと振り返った。女は右が紫紺、左が紅の瞳を持ち、綺麗な青色の髪をしていた。切れ長の目や筋が通った鼻、そして見るだけで分かるぷるぷるな唇によって整った彼女の顔は憂いで満ちていた。
「っく……」
何だ、何をされた。目を合わせた瞬間から動悸がひどい、手には少々の汗も滲んでいる。しかし、どこか柔らかい気持ちを感じる。
(洗脳系の権能持ちであろうか……)
そうなったら厄介だ。折角の強化魔法も無意味になってしまう。
「あ、あのお名前は?」
(何故だ。何故、やつらの一味の名など聞く?何故、やつらの一味に遜っている!?)
「関係ないでしょ」
女は目の前まで迫ってきていた。女の手刀が目指す先には俺の心臓。
「やられるわけにはいかない。ハアッ」
俺は幻惑使いの女を何とか倒したのだった──。
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イティラ君が倒れる瞬間を'私'たちは見ていることしか出来なかった。私たちでは絶対に叶わない相手、魔王の時のように邪魔にならないようにと控えていたのが裏目に出てしまった。
「ハハハ、死ねええええ」
全てを破壊するであろう、その衝撃波がイルビィが発生させてしまった。
「イティラ君」「イティラ……」
私たちの声は届かなかった。衝撃波がイティラ君を喰らい尽くそうとする。
衝撃波は私たちの方にも飛んでくる。私は死を覚悟して目を瞑った。
いつ痛みが広がるのか、痛みの度合いはどれくらいかそれだけが思考を占拠した。
──しかし、一向に痛みは襲ってこない。
私は目を開けると倒れたはずのイティラ君が立っていた。その姿はあの時を彷彿とさせるようで違う。
(あれ生存本能でも、魔王の時のピカピカしているのでもない。つまり)
──肉体と魂の一致と暴走の僕。
禁書に書いてあったことが脳裏を過った。そして、イティラ君から感じられる雰囲気は今までのとは全く異なる、異質なものだった。
「やっとなってくれたか。それを待っていたんだ」
イティラ君が動き出した。そう気づいた時には男の顔に傷が出来ていた。
(速いっ)
「クハハ、クハハハハ。それだ、それだよ」
男はニヤリと口角を上げて前傾姿勢になった。その姿はまるで小動物を追う狩人だ。
そして会場一面に魔力の球を展開して、剣技の構えをした。
「二の翼──真空斬、付与『星如魔弾』」
強大な斬撃がイティラ君を襲い、包み込むようにして魔力の弾が飛んでいく。
全方位からの攻撃にイティラ君は対応出来たようには見えなかった。
──しかし、男は吹き飛び、魔力の球は粉々になっていた。
強さの差は歴然としている。男も驚きを隠せていない。
「お前、前よりも格段にっ……」
男の強さは前よりも恐ろしいほど上がっていた。しかし、暴走したイティラ君の方が三歩も四歩も先であった。
イティラ君の動きはもはや誰にも捉えられない。男だけでなく会場をも破壊しながら俊足で移動を繰り返すイティラ君の進む先々は見るも無惨な形になっていく。
もはや、同様の技術を使える者でないと止められない、到底私では不可能、そんな様な気がした。
そんな人外となったイティラ君に男が勝てるわけもなく
「……畜生……まだ、まだ足りないのか」
あれだけ優勢だった男は一瞬のうちに斬り刻まれて地に伏し、攻撃する術を失った。
「まだ足りなかった、お前達の言う通りだ。絶対に飽きさせない、だから、また頼む……」
男がそう天に向かって今までの態度からは考えられないほど真剣に祈り、叫んだ。すると、その姿は一瞬にしてなくなった。
──そして会場には破壊を繰り返すイティラ君だけが残っていた。
今までで最も圧倒的なイティラ。そう止めればいいのか……。




