白髪の男
「──許せ、ハアッ」
「ぐがああああああああああ」
目の前の男がもがき苦しむ。俺はこの男から強制的に魔法を剥がしていた。
『強奪』──俺に唯一発言した魔法で、世にも珍しい回数制限魔法。二回しか使用できない代わりに何でも相手の能力を奪い取ることが出来る。
一つは──の権能【封印】。
もう一つはこの男の身体能力超向上魔法『超化』。これ以上身体能力が強化されると身体が壊れる可能性はあるが、『付与』を出来ない俺には攻撃魔法は価値が低い。その上この男は何度見逃そうと俺の本部を狙って襲ってくるから無力化という意味でも奪った。
「すまないな」
この魔法は魔法を剥がす際に百度の斬撃、五十の魔法よりもキツい苦しみが一瞬にして襲うとされている。この男に後遺症が残らなければいいが……。
しかし、この男のおかげで更に力を上げることが出来た。強化幅は分からないがきっと役に立ってくれるはずだ。これでやつらが何をしてきても対応してみせる──。
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「俺を忘れてもらっちゃあ困るぜえ」
上空から響いたその声はとても聞き覚えのある声で、同時に嫌な記憶が迫り上がってきた。
「イルビィ……お前」
僕は彼を見て驚いた、何故なら──その両方の眼の下が完全に黒くなっていて、肉体は更に鍛え上げられていた。そして何より、彼の金の髪は色が完全に抜け落ちて白くなっていた。
「ああ、これか。ストレスだよ、お前をなぶり殺したくて、滅多滅多に殺したくて毎日仕方がなくてなあ」
そう言うと急接近しながら斬りかかってきた。刃は痛めつけるために出来たような異様な形をしている。
「っく、ぐうう」
(重い、重すぎる)
イルビィの一撃は前とは比べものにならないほど速く、重く、鋭かった。辛うじて防げたが押しきられ吹き飛ばされた。
「ハハハ、前の変なのになってみろよ、それでも勝てる自信があるぜ」
生存本能の力は借りることが出来ない。一杯稽古をつけてもらったんだ、自分の力でやるしかない。
(力を、イルビィを倒せる更なる力を……)
肉体と魂の結び付きを今出来る最大以上を目指し、自分の内側から力を引き出す。
「よし。一の閃──雷轟、五の塵──豪剣連斬」
「おっと、前よりも強くなってるなあ。けど足りない」
僕の剣技を防ぐ傍ら放たれたイルビィの中断回し蹴りが脇腹に突き刺さり、またしても壁に吹き飛ばされる。
「っっぐふ。ごほごほ」
「懐かしいなあ。イティラも落ちこぼれが恋しくてこの学校に来たのかあ?」
ぎゃははは、と下品に笑った。
腹が立つ、腹が立つが、彼がそう言いたくなる気持ちは分かる……。今の僕らは学校時代の再現だ。壁に吹き飛ばされた僕とそれを笑うイルビィ。いつかの光景と全く同じだった。
「くっ……はあっ」
僕は『超回復』を使用して無理矢理体を動かして迫り斬る。が、その刃はイルビィの肉体まで届かない。
「無駄だ。俺の血も滲む、いいや、多量失血して何度も死にかけてまで鍛えた俺にお前が叶うはずもない」
どれだけ言われようと僕は諦めるわけにはいかない。
「三の塵──六切り。はああああ……ぐはああああ」
「浅えなあ。そろそろ、本当の剣技ってのを見せてやるよ」
彼がそう言った時、空気が変わった。悪運が立ち込め雷鳴が鳴り響く。
「四の翼──武神解放」
それが使用されると彼の剣に一縷の稲妻が落ちた。そして彼からは気が暴風となって吹き荒れたが──
「っく、気に触れても斬れるってどれだけだよ」
気一つひとつが恐ろしいほどの密度を持ち、鎌鼬のように触れた肌を斬り裂いていく。
「ニの翼──真空斬」
彼に近付けばば近付くほど僕の肌は赤く染まっていく。
「っく、二の塵──身躱し連斬」
イルビィの剣技を去なして、追撃を仕掛けようとすると
──息が吸えない。肺から空気が奪われた。
イルビィの剣技によって当たりが一瞬、真空にされた。そんな事を知らない僕は呼吸をしてしまった。
反撃など頭から吹き飛び、膝を折ってしまった。
「ハハ、ニの翼──真空斬」
「くっ、がああああ」
脳が信号で焼け焦げそうなほどの痛みがその異様な刃で斬られた箇所に発生する。
「早くあの状態にならないと死んじまうぜ」
「はあ、はあ。『超回復』」
痛みを堪えて行使して怪我を治し、イルビィと向き合うと彼は口角を上げていた。
イルビィは四の型を使った時のように気を練り直して
「はあああああああ。三の翼──暴衝打ち」
(まずい、観客が)
試合の続きか何かだと思っていた観客は反応が遅れた。その剣技が使われた時、彼らは巻き込まれて死ぬ。
イルビィを止めるための力を、あの人たちを守るための力を。もっと、もっと身体の奥から引き出すんだ。
「止まれえええええ」
僕はイルビィを止めるため、衝撃波を食い止めるために駆けた。
その時、身体の内側から奇妙な予感が駆け巡った。
心臓が破けるほどの動悸して、急に大量の汗が噴き出してきた。手に痙攣と全身中に四肢が千切れそうな痛みが発生する。
「ん?かはっ。げほっ」
違和感を感じて足を止めると口の中の鉄の味が広がった。血塊を吐き出してイルビィを止めようと前を向くと
──僕の身体が斜めに傾いていた。
イルビィはどうやって強くなっているのか……?




