感想と試合
「何だ!?」
この部屋のどこからか、いや全体に声が響いた。
『ローランド、汝ハ救世主ニ選バレタ』
「救世主……?何だそれは」
無機質な声が告げてくる言葉の意味が分からなかった。
言葉の意味を考えれば世界を救う者だが、彼はまだこの世を救っていない。それに「選ばれた」という所に引っかかる。
「どういうことだ?」
『制約の消滅』
それだけ言い終わると声は聞こえなくなってしまった。
俺たちは顔を目合わせて
「「制約……結局何だったんだ」」
謎の声の主もその内容もよく理解出来なかったが、監禁部屋からの脱出に成功したのだった──。
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幕が閉まり灯りがつくと盛大な拍手に辺り一面が埋め尽くされた。皆一様に満足げな顔をして、ある者は熱冷めぬままに感想を言い合っている。
「凄かったですね。これで学校生とは……」
これ程の演劇は多分勇者学院の生徒でも出来ないだろう。
演者の目遣い、呼吸、動き、表情、そのどれもが演劇を盛り上げていた。更に演出が凄かった。光魔法だけではなく炎魔法や風魔法などの攻撃魔法を観客に被害がないように使われていた。
この演劇は空想上の物語を現実に映し出していた。
「最後の炎の大剣なんて下手したら僕らが斬られちゃうと思ったよね」
あの時ロニエが不安そうに僕の手を握ってきた。多分、あのシーンのエルフになったような気分になっていたのだと思う。
「はい、本当に凄かったです」
「誰が台本を書いたんだろう……」
空想上の存在である神を大戦に追加して、大戦終結に尽力したのは只人の勇気と優しさを持つ者。ありそうでなかった物語を書き上げたのは誰なのかとても気になる。
「……時間になる」
「ん?あっ!」
時間を確認していなかった。アルスの試合が始まってしまう。アルスの優秀さを見る機会、絶対に逃せない。
幸いにも開催場所は分かるから僕らは目的地目指して一直線に走る。
「危なかった」
会場に到着したのは開始の一分前だった。
「にいちゃんたち、遅い!」
「ごめん。色々あって遅くなった」
キョウカが追加で食べ物を買わなければもう少し早くついていたけど、それについては何も言うまい。
「いいよ。僕のことちゃんと見ていてね」
「ああ、応援している」
そう言葉を掛けるとアルスは笑顔になって試合相手と向き合った。
「って、嘘でしょ」
「何がですか?」
僕の反応にロニエが聞いてきたところで音声拡張魔法による進行が始まった。
『お待たせいたしました。今年度も優秀生による試合を行います』
うおおお、と観客にが声を上げる。何でもあり試合はこの学校祭の目玉といっても良く、注目されている。ここの内容によって入学志願生の質が決まるとも言われているほどだ。
更にこの学校の生徒の質が年々下がっている。これを機にしようと学院も相当力を入れているのだと思う。何故なら──
『今年は二年生主席のアルス・アマミヤ対九年生主席のガウラス・アットゥシェ』
アルスの相手が七つ歳が離れたガウラスだったからだ。
ガウラス・アットゥシェ──僕の一つ下で学校内でも名高い存在であった。学校史上最高の天才であるイルビィとも互角並みに戦えた生徒。
アルスはそんなを相手に出来るのだろうか?こうして試合に名指しされているという事は少なからず一方的にはならないだろうけど、身体的な差も大きい。
『それでは初めぇ!』
その声と同時に動いたのはガウラスだった。炎魔法を放つと同時に斬りかかった。
アルスはそれをしゃがんで避けて背後にまわりこんだ。当然、ガウラスも気配で位置を掴み、後ろ回し蹴りを入れようとするがアルスは腕を立てて防いだ。
(反応速度が恐ろしい)
魔法、剣技による強化なしでの動きであるのに速すぎる。一般の農民や商人たちでは一挙手一投足を見ることは不可能であろう。
「三の翼──暴衝打ち、付与『炎』」
衝撃と共に炎が広がりアルスを包み込んだ。
(この歳で『付与』だとっ……)
学校の授業ではない、となると学校長辺りが教えたのだろうか、それとも家の者なのか。それにしても凄まじい。
アルスは炎の中で立ち尽くしている。
「アルス君、どうしたのでしょう」
「分からない、ただ何かを狙っている」
アルスは炎に包まれても傷を負っているように見えない。となると何かを狙っているのだろうが……っ。
アルスが空を見上げたと思ったらその身体が大きくなっていっている。
愛くるしい表情こそ変わらないがその変化はアレンが戦っていた九位階、ファントムを思わせた。
僕の推測が正しければ今からアルスは
──自我がなくなる。
アルスはどうなってしまうのでしょうか。




